都会と地方の意識落差

 先号記事で注目されることは、士協会ネットワーク構築に関しても、取引事例閲覧システム構築に関しても、都市圏鑑定士と地方圏鑑定士の意識落差が明らかになってきたという点である。
 都市圏士協会では取引事例閲覧システムのみが話題となり、地方圏で話題となりつつある「情場形成」とか「情報共有ネットワーク」などと云うものには殆ど関心が払われないのである。このような意識落差がなぜ生じてきたかを考えてみたい。


『地価公示評価員数が士協会に占める位置』
 最も大きい理由は地価公示評価に代表される「いわゆる公的評価:地価公示、地価調査、相続税地価調査、固定資産税標準宅地評価」に関与する士協会会員数が全体会員数に占める割合の多少であろうと考える。
 岐阜県士協会と東京都士協会を例にして対比するとよく理解できるのである。岐阜会は公示評価員/鑑定士(補)会員数=39/47(83%)であるに対して東京会は約700/約2000(35%)である。他にも様々な理由が挙げられようが、この人的構成比による意識落差は大きかろうと考える。
 都市圏では地価公示等業務に従事する会員割合が低いだけでなく、個々の会員にとっても担当地点数が少ないことから公示等業務量が個々の会員業務量に占める割合は低いと聞いている。
また、岐阜会で現在は公示評価に従事しない会員も、過去に従事していたか、将来従事するかの違いはあるけれど、いつか関与することは確かであるとともに、公示・調査以外の他の公的評価には従事しているのである。
 地価公示等、鑑定士が分科会等協働作業を通じて業務を遂行してゆく事業においては、ネットワークが存在するか否かは安全性確保、効率性向上等にとても大きく係わるのである。
『士協会の人的構成状況等』
 岐阜会会員は50名未満である。会長や代表幹事でなくとも殆どの会員は、全会員の名前と顔が一致するだけでなく、少なくとも一度や二度は言葉を交わしている。東京会に限らず都市圏の大規模士協会では多分この様なことはあり得ないであろう。
 このフェース・ツー・フェースの関係にあるか否かということは、情報の共有に対する意識落差に大きく影響するであろう。顔の見える範囲で会員が構成される地方圏では、回覧板や掲示板がさほどの支障なく機能するであろう。
しかし都市圏では「2チャンネル的」にならざるを得ないであろう。つまり、この発言を誰がしたかの「誰」に係わる様々な背景情報を既に保有している地方圏と、ただ単にモニター上に表示される無機質な字面でしかない都市圏とでは、天と地ほどの開きがあるとして不思議はない。
 都市圏の関係者が、士協会ネットワーク=事例閲覧システム=課金システムという理解に留まるとしても、それを徒に責めるわけにはゆかないのである。士協会構成員相互間において有機的信頼関係が成立するであろう与件は最初から用意されていないのである。
 サイバーネットワークとか知的共有電子網などというものは、デジタル網の整備だけでは機能しないのであり、フェース・ツー・フェース的アナログ関係、いわば呑み会的体験を共有するか否かと云う点に左右されるのではなかろうか。ウェブの世界でもミクシー(MIXI)的世界が広がりつつあるのは、それを示しているとも云えるのであろう。
 これをウェブ進化論的に云えば、彼岸でも此岸でもなく、Web.2はおろかWeb.1にも及んでいないと云うべきであろうか。それとも此処でも二極化は進み、次元を異にするに至ったと諦観すべきであろうか。あるいは、此岸におけるアナログ的情報に裏打ちされたデジタルネットの形成は自ずから次元が異なるものなのであろうか。 
『合掌という訳である』
・・・・・・いつもの蛇足です・・・・・・
 地価公示事例カード閲覧システムなどは付随であると主張する証は、こういうことなのである。岐阜会においては地価公示及び地価調査の事例カードは既に1997年よりCD-ROM化して希望する会員に配布する事業を行っていたのであり、その延長として今はオンライン閲覧システムを運用しているのである。
 事例情報閲覧ということに関して云えば、一次情報(異動通知データ)から始まる全ての情報について、可能な限り広い範囲における「即時共有という状況の実現」こそが目標なのである。
 この所有権移転異動通知情報・一次データ等に関して、都市圏ではその重要性が地方圏ほどには認識されないのである。それは何故かと考えてみると面白い事情が浮かび上がる。つまり取引事例発生密度が背景にあるのである。都市圏では単位エリア当たりの経済活動量が大きいことから、必然的に不動産取引事例発生件数密度も高いのである。情報過疎地帯では入手可能な全てのデータを掘り起こすことから評価が始まるのに対して、情報過剰地帯では溢れる情報の取捨から始まるのである。
 先々号記事で話題にしたが、関東甲信会では永らく都内の事務局で関東地方の事例資料を閲覧に供してきたのであるが(正確な数値は承知しないが、多分主に東京会会員への閲覧便宜供与であったと思う。同時に閲覧収入という背景も存在したであろうが)、2006年度からは関東甲信会事務局での閲覧を廃止し、傘下各士協会事務局での閲覧に変わるようだ。
東京会の会員にとっては不便なことになるのだが、全データのオンライン閲覧を主張する方々はこの事態をどのように受け止められるのであろうか。

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