価格情報制度の取纏

国土交通省土地情報課では、取引価格情報の提供制度に係わる検討委員会の検討結果を07/02/21に公表した。
不動産鑑定士ならば、「取引価格情報の提供制度に関する検討委員会取りまとめ 」を、一度は目を通しておきたいものである。


国土交通省では、取引価格情報の提供制度について「規制改革・民間開放推進3か年計画(再改定)」(平成18年3月31日閣議決定)において、これまでの提供結果を踏まえ、安定的な制度のあり方について検討し、結論を得ることとなっていることから、昨年10月に「取引価格情報の提供制度に関する検討委員会」(委員長:山野目 章夫 早稲田大学大学院法務研究科教授)を設置し、これまでの実績の検証、提供内容等について改善すべき方法や安定的な取引価格情報のあり方などについて、4回にわたって委員会を開催し、検討を進めてきたところ、今般、第4回の検討委員会が平成19年2月9日に開催され、別添の通り、報告書が取りまとめられました。

「検討委員会とりまとめのポイント 」
(1)安定的な制度に向けた取り組み
取引価格情報の提供制度は、一時的なものとするのではなく、先ずは、取引価格情報の提供内容を充実し、国民が利用しやすいものに改善すべきである。本制度の社会的な意義について国民に浸透させることにより、制度の安定性と回収率の向上を図るべき。
本制度が定着していく中で、自らの取引価格の公開に対する国民の意識の変化も踏まえ、情報提供のあり方や取引価格情報の収集方法について必要な見直しを行うとともに、取引価格情報の利活用の推進についても法制的な検討も進めることが必要。

(2)制度の充実に向けた取り組み
提供内容の改善。現在の提供内容に加え、以下に示すような情報を追加することを検討すべき。
(更地の場合)
最寄り駅までの所要時間、前面道路の方位及び幅員、容積率、建ぺい率
(建付地の場合)
最寄り駅までの所要時間、前面道路の方位及び幅員、容積率、建ぺい率、建物の建築年(単年度)
(マンション等の場合)
最寄り駅までの所要時間、建物の方位、建ぺい率、容積率、建物の建築年(単年度)
取引価格情報を提供する地区単位毎(町又は大字単位)に取引価格情報と地価公示価格等が連動して見ることができるよう検討すべき。
地理情報システム(GIS)を活用して情報提供できる仕組みを整備し推進すべき。
収集方法の改善
業界団体のホームページとの相互リンクやパンフレット等を宅建業者を通じて不動産購入希望者に直接配布するなど本制度の利用とアンケート調査への協力を促すための普及・啓発活動を検討すべき。
アンケート調査票の記載事項について、できるだけ簡素で分かりやすい調査票に改善するよう検討すべき。将来的には、インターネット等を活用してアンケート調査票の電子申告ができるよう検討すべき。
Jリートなど既に公開されている情報については、国土交通省自らが収集することで、アンケート調査を省略し、不動産鑑定士による現地調査と取引事例カードの作成のみを行うことを検討すべき。
取引件数の少ない県庁所在都市以外の地域で調査を実施する場合には、物件の特定を避けるとともに、鑑定評価員の現地調査等の負担が増えることから、四半期別の公表ではなく、半期別の公表にするなどの措置を検討すべき。

(3)今後の進め方
取引価格情報の提供内容や取引価格の公開に対する国民の意識等について定期的にフォローアップを行い、その結果、法制化等も視野に入れつつ、安定的な制度の構築に向けて必要に応じて制度の見直しを行うべきである。
取引価格情報の提供制度に関する検討委員会取りまとめ
検討委員会取りまとめ後の具体的な進め方について
第4回取引価格情報の提供制度に関する検討委員会の結果について

(4)注目しておきたい《取りまとめ》の記述
 (a)本制度は、個々の国民や関係者が制度の意義を理解し、後から取引する人のために自分自身の取引価格を提供することで成り立つものである。したがって、このような国民の理解と協力を得る形での制度の充実、発展を図っていくことが取引価格情報の提供制度を考える上においては重要である。

(b)近年、地価公示価格等に加え、指定流通機構(レインズ)が保有する不動産取引の成約価格に関する情報やJリートや東京証券取引所の適時開示を通じた投資用不動産に係る情報、インターネットを通じて不動産業者が公開している情報など、以前と比較すると国民が入手できる取引価格情報は急速に充実され、多様化してきている。しかし、それぞれの情報だけでは取引価格について包括的に見ることはできず、取引価格情報の提供制度のみが取引価格を包括的に見ることができる唯一のものとなっている。取引価格情報が充実されることにより、市場の動向や価格の分布をより的確に分析し、価格の妥当性について検証し判断することができるようになり、市場の相場観の醸成に寄与することが期待できる。

(c) また、取引価格情報の提供制度は、不動産取引をデータ処理に基づき分析、解析することを可能とする。このような解析が進むことにより、金融等の基礎的な資料として活用できるようになり、ITを活用した新たな不動産インテリジェンス産業の育成や多様なサービスの提供が期待できる。例えば、米国では、実際の取引価格をもとに算出された全米10都市の住宅価格指数インデックスに基づく先物オプション取引がシカゴ商業取引所に上場されているが、日本においても取引価格情報の提供制度を活用することで米国と同様の不動産デリバティブ取引を実現させることができる可能性がある。

(d)さらに、不動産の時価をどのように評価するかは、企業会計自体の信頼性にも影響を及ぼす重要な課題となっており、信頼性の高い不動産鑑定評価を支えるための豊富な取引事例に関する情報が提供されることにより、不動産鑑定評価の精度向上が期待できる。
取引価格情報と地価公示価格を連携したかたちで国民に提供することにより、地価公示価格を参考に取引価格情報に含まれる取引の事情や物件の特性の違いよる価格の形成要因の影響などが把握できるようになる。これにより、地価公示価格の指標としての有用性が増すととともに、地価公示価格がより多くの取引事例に基づき算定されていることが国民に理解され、その信頼性が増すことが期待される。  さらに、四半期毎に取引価格情報を提供することにより、地価公示よりも即時的に地価動向を把握することができるものと期待される。
※鑑定協会内部における情報の広汎な開示と、
※円滑な共同利活用を示唆しているものと考えます。

(e)本来であれば国土交通省のデータベースに蓄積されている情報がそのまま提供されることが望ましいが、国民の多くが物件の特定ができないかたちでの提供を支持している現状では難しい。このため、実際の不動産取引の際に国民が関心を持っており、物件の特定につながらないような情報をできる限り開示していくべきであり、現在の提供内容に加え、以下に示すような情報を追加することを検討すべきである。(以下に示す情報については省略)

(f)国民が、取引価格情報と土地利用規制に関する情報など土地の属性に関する情報をワンストップで分かりやすく入手できるようにするとの観点から、引き続き、地理情報システム(GIS)を活用して情報提供できる仕組みを整備し推進していく必要がある。

(g)また、前述のように、Jリートをはじめとする投資用不動産に係る情報がEDINETや東京証券取引所の適時開示を通じて公開されている。現在、これらの情報のうち、アンケートに回答したものは、公開されている情報の半数以下にとどまっている。このため、回収率の向上を図るため、既に公開されている情報については、国土交通省が自らこれら公開情報を収集することで記入者の負担を軽減し、アンケート調査を省略し、不動産鑑定士による現地調査と取引事例カードの作成のみを行うことを検討すべきである。

(h)将来的には、鑑定評価員が地理情報システム(GIS)を活用して画面上で都市計画の用途地域など土地利用規制に関する情報などを確認できるような仕組みの導入を検討すべきである。

(i)アンケート調査の実施については、土地鑑定委員会が、地価公示法施行規則第5条に掲げる公示事項への利用等適正な地価の形成に寄与する目的のために登記異動情報を活用し、アンケート調査を実施することになっている。さらに、取引価格情報の提供については、国土交通省が、地価公示を補完する情報として国土交通省設置法第4条29号の「土地に関する総合的かつ基本的な政策」の推進に関する事務の一つとしてインターネット上で公表しているものである。

(j)個人情報の漏えい、滅失、毀損の防止等適切な管理のための必要な措置が講じられており、同条第2項に基づき取引価格情報の業務の委託先についても同様の措置を講じられている。 さらに、取引価格情報の担当職員又は委託先で業務に従事している者に対しては、同法第53条により罰則規定も設けられている。
 ※業務の委託先には、鑑定協会も当然に含まれるものと考えます。

(k)取引価格情報は、適正な地価の形成を目指す政策を進めていく上で、無くてはならない情報の一つである。特に、一部地域で地価の急速な上昇が懸念される中、地価に対し責任を有する国と地方公共団体が連携して適切な対策を講じていくことが重要となるが、そのためには、地価担当部局同士の情報の共有化を図っていくことが重要であり、取引価格情報は、まっ先に共有すべき情報と考えられる。このため、先ずは、情報の厳格な管理体制を確立した上で、市場の透明化を図り、適正な地価を形成するという政策目的の範囲内で地方公共団体の地価担当部局と取引価格データの情報を共有することを検討すべきである。

(l)国は、取引価格情報の収集・提供を通じて、取引価格情報の意義や必要性について、国民へ浸透させるための取り組みを推進し、本制度を安定的なものとするべきである。さらに、取引価格情報の提供内容や取引価格の公開に対する国民の意識等について定期的にフォローアップを行い、その結果、法制化等も視野に入れつつ、安定的な制度の構築に向けて必要に応じて制度の見直しを行うべきである。

 

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