H19地価公示

 咋3/22は平成19年地価公示価格の公表日である。不動産鑑定士のBlogとしては、このニュースをスルーしてしまうわけにはゆかないのである。
各紙の一面見出しは「全国平均値16年ぶり上昇」、「商業地2.3%、住宅地0.1%」である。しかし、この見出しは単なる平均数値であり鵜呑みにはできないのである。


 ここでいう平均値とは全国3万地点の対前年比地価変動率の平均値であり、総価格変動率でもなければ、加重平均値でもないのである。例えば全国平均商業地2.3%の上昇という中味をよくよく見るとこういうことである。
 全国の地価公示商業地標準地数約6400地点の内、平均値が対前年比上昇に転じている首都圏、愛知県、近畿圏に位置する地点数が3017地点(47%)である。つまり三大都市圏の地点が上昇し、地方圏は下落幅は縮小するものの依然として下落基調にある。(注、都市圏全域が上昇している訳ではない。総じて上昇ないし横這い傾向にあるが、下落地点も散見される。)
 住宅地も同様であり、全地点数19300の内、三大都市圏9863地点(51%)の平均値が上昇に転じ、地方圏平均値は下落基調にある。なかでも島根県は(H18)▲1.4から(H19)▲1.6へ、香川県は(H18)▲6.6から(H19)▲6.8へ、高知県は(H18)▲2.4から(H19)▲2.9へ、鹿児島県は(H18)▲1.7から(H19)▲1.9へとそれぞれ僅かながら下落幅が拡大しているのである。まさに地価に認められる上昇都市圏域と下落地方圏域における「格差の拡大傾向」といえよう。ちなみに上昇率全国一位は渋谷区神宮前5丁目で+45.5%、下落率全国一位は高知県土佐清水市の▲17.9%である。
 同様の傾向は我が岐阜県内においても認められるのであり、岐阜県全域平均では住宅地平均変動率が(H18)▲5.7から(H19)▲3.2へ、商業地平均変動率が(H18)▲6.9から(H19)▲3.7へ縮小しており、再開発や駅前整備の進む岐阜駅周辺では上昇に転じている地価公示標準地も現れている。しかし、高山市住宅地4カ所の平均変動率は(H18)▲2.1から(H19)▲4.3へ下落幅が拡大しているのである。
 この下落幅拡大の背景を推量すると地方圏の悲哀みたいなものが見えてくるのである。高山市は飛騨の小京都として観光が主産業である。しかし観光以外は農林業や木工産業以外にみるべきものは少ないのである。観光産業にしても97/12に開通した安房トンネルによって中央自動車道と高山市や奥飛騨温泉郷が直結された開通効果は今や薄れつつあり、通過する観光客を宿泊滞在させることが課題となっている。
 そんななかでここ数年の高山市地価が比較的堅調に推移してきたのは、公共事業投資効果にあるといっても差し支えないであろう。東海北陸自動車道並びに中部縦貫自動車道の建設事業効果、さらに関連道路等の整備事業効果によりミニバブル状態にあったと云えよう。山間地であったが故に整備が遅れていたところへ集中的に公共投資が施工されたのであるが、それら事業の大半が一昨年以降終了したことにより、地価の下支えがはずされたことによる下落幅拡大現象と認められる。
 公共建設事業頼みの地方経済が事業終了により寒風が吹き荒れているといえるのである。地元紙中日新聞も第一面ではトヨタ効果による地価上昇を囃しているが、社会面では名古屋駅周辺の賃貸マンションに空き家が多く苦戦する状況を記事にしている。まさにマダラ模様なのである。平均値などを鵜呑みにしていると大きく間違えかねないのである。
 金利と株式と円相場の動き如何では中部圏を牽引する自動車や精密電機など輸出産業も決して安泰ではなかろうし、そもそも永遠に下がり続ける地価も上がり続ける地価もないのである。また賃料水準の変動幅を遙かに超える地価上昇率を前にして、収益還元法を用いているとかDCF法で検証していると云っても眉唾なのである。都市圏一部地域における昨今の大幅地価上昇を裏打ちしている収益価格の上昇なるものが、実は利回りの低下にあるといいうカラクリを承知しておかなければならないのである。
 地価公示について詳細は国交省土地総合情報ライブラリー参照。
 収益価格と利回りについては堀田勝己氏のサイトに詳しい。

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