不動産鑑定・H20地価公示

 2008年地価公示価格が公表された。2008年地価公示価格は2008/01/01時点における標準地の地価を公表するものであり、選定された標準地数は全国合計29,100地点である。地価公示価格は前記時点の適正価格を表示するものであると同時に、2007/01/01からの一年間の地価動向を示すものでもある。


 今回の地価公示において最も注目されるのは、昨年一年間の地価動向が前半期と後半期においてどのような傾向変化を示したかという点にある。この点に関して国交省は次のように説明している。

平成20年地価公示に基づく地価動向について(概括)平成20年3月25日国土交通省土地・水資源局
今回の地価公示に示される地価動向は、総じて見れば、地価の持ち直し傾向が引き続き見られるものの、昨年後半には三大都市圏等を中心に上昇基調の鈍化がそれぞれに見られた。  なお、地価動向の先行きについては、景気・金利動向、需給バランスの動向、内外投資家の動向の影響などに留意すべきである。

 新聞各紙の論調をiNETで検索すると、いずれも昨年後半期には地価上昇率が鈍化していることと、今年前半(2008/01~2008/07)の動向について慎重な観測を示している。

『中日新聞』  全国的に地価上昇は都心部から周辺部へ波及し、全国平均は住宅地で前年比1・3%、商業地で3・8%と2年連続の上昇。しかし名古屋を含めた3大都市圏の都心部の上昇率が昨年後半から落ち、減速傾向も見せた。

『朝日新聞』  国土交通省が24日公表した08年の公示地価(08年1月1日時点)は住宅地と商業地の全国平均がともに2年連続で上昇し、上げ幅は前年より拡大。東京・銀座でバブル期の91年に記録した過去最高価格を塗り替えた。ただ、地価回復を牽引(けんいん)してきた東京、大阪、名古屋の3大都市圏では昨年後半に伸びが鈍った地点が目立ち、マンション販売も不振に陥った。米国の低所得者向け(サブプライム)住宅ローン問題の影響で、投資マネーの勢いは衰えつつある。

『読売新聞』
 米国のサブプライムローン問題が発端となった世界的な不動産価格の下落の波が、日本にも及んできたのだろうか。 日本の大都市の一部で起きていた前年比40%~30%上昇という地価のミニバブルに、反転の兆しが見え始めた。 17、18年前のバブル崩壊で起きた地価の長期下落再来を懸念する声もある。今後の地価動向を注視する必要があろう。

ロイター』  公示地価は、全国平均(全用途)で前年比プラス1.7%となり、2年連続で上昇した。上昇幅も昨年の同0.4%から拡大しており、マンションやオフィス需要、不動産投資などを背景とした地価の持ち直し傾向が継続している。 ただ、2007年後半から上昇基調が鈍化した地点が多くみられ、実需に基づく価格調整が進んでいることも浮き彫りになった。

ロイター:東京発』  注目されていた公示地価は2年連続上昇となった。このところリバウンド態勢に入っていた不動産株にとって好材料となるものの、足元の不動産市況は急激に悪化しており、関連銘柄の下げ基調を止める要因にはならないとの見方が支配的だ。
 市場では発表された数値が、不動産株全体の底打ちにつながるとはみていない。公示地価について遅効性が強いとの指摘が多いが、今年に入ってから不動産市況は急速に悪化しており、足元の実態を必ずしも反映していないとみられるためだ。
 実際、毎年7月に実施している都道府県地価調査との共通地点で、半年ごとの地価動向を分析すると、07年の前半(1―6月)に比べ後半(7―12月)では上昇基調に鈍化がみられる一方、調査時点である今年1月1日以降に、状況はさらに悪化したとの見方が広がっている。

『日経新聞』  東京圏の商業地は12.2%増、住宅地は5.5%増だった。ただ都心でも一部の地点では昨年後半以降、上昇が減速している。米国のサブプライムローン問題、改正建築基準法による建築時期の遅れなどの影響が出てきたとの指摘もある。

週刊住宅新聞』  上昇率は、住宅地1.3%(昨年は0.1%)、商業地3.8%(同2.3%)と昨年以上の上げ幅。この上昇幅の拡大は下落傾向が続いている地方圏の下落率が縮小していることと、三大都市圏の上昇率が昨年を上回ったことで全国平均上昇率が前年を上回った。しかし、これらの地価上昇を支えたのは、昨年前半までの急上昇。7月以降の後半は上昇率が鈍化した。とくに、前半急上昇した地点で、後半の上昇率の鈍化が顕著だったようだ。また、商業地、住宅地が昨年16年ぶりに上昇に転じたのに続き、今年は工業地が17年ぶりに上昇に転じている。

 各紙の論調を総じていえば、(A)昨年前半期は2006年の傾向を引き継いだ上昇傾向を示したが、後半期はサブプライム問題等の影響を受けて上昇率鈍化傾向を示しているということ。(B)今年前半期についてはさらに慎重な予測をしていること。(C)地方圏では下落率が鈍化したものの依然として下落基調にあり、今年後半の推移が注目されることにある。上昇した都市圏と下落した地方圏という対比で云えば相対的格差はさらに拡大したと云えることである。

『中国新聞』
 3大都市圏以外の地方圏では、公示地価の平均下落幅は4年連続で縮小したものの、回復は全国一律とは程遠く、観光需要への期待や市街地再開発で局地的に地価が上昇している県庁所在地などが中心。地域経済の停滞や人口減少が続く自治体との地域間格差が縮まる兆しは見えない。

 もう一つ注目されるのは、全国各都市において地価最高地点が移動した地域が少なからず認められるということである。在来型商業中心からターミナル付近への繁華性の転移や、開発拠点の変遷などを反映するものであるが、都市圏域内における盛衰を映し出す指標としても注目したいことである。
 また、地価公示が取引指標として位置づけられるものであることからすれば、速報性充実が検討されてもよかろうと考えるのである。日本不動産鑑定協会における資料調査の充実やネットワーク構築という環境整備を考えれば、四半期毎の速報値公表などが期待されるものであろう。その意味からは、今回の公示価格公表にあわせて、第一回調査結果が公表された「主要都市の高度利用地地価動向報告~地価LOOKレポート~【第1回】平成19年第4四半期」の、一層の充実が期待されるのである。
 いささかうがった見方ではあるのだけれど、02/26エントリー「地価公示08″と地価動向08″」に示したような懸念に応える措置としての地価LOOKレポートであるとも云えるのであるが、概況速報というような機能を地価公示や地価調査に組み込んでおくことも必要であろうといえるのである。正確さや網羅性を重視する指標と並行して、おおよその傾向や速報性に重点をおく指標があってもよいのである。

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