国税庁が2007年路線価(1月1日現在)を公表した。全国約41万地点の標準宅地の平均路線価は1平方メートル当たり前年比8.6%、1万円増の12万6000円で、2年連続の上昇となった。東京や大阪、名古屋など都市部の一部では上昇率が40%を突破し、地価の上昇傾向は三大都市圏から地方中核都市に拡がっている。
路線価とは相続税及び贈与税の課税における土地等の評価額の基準となるもので、国税庁は全国の道路毎に(路線毎に)土地の1平方米あたりの単価を付した地図(路線価図)を公開する。地価の基準日は毎年1月1日である。この路線価図等は、インターネットで閲覧できる。
全国約41万地点の標準宅地の平均路線価は1平方メートル当たり前年比8.6%、1万円増の12万6000円であるというが、これは路線価の平均値であり、全国地価の平均値ではない。つまり全国の地価という場合には、宅地以外に農地や林地の地価もあるのだが、ここでは宅地以外は路線価が付設されていない。さらに全国の宅地のなかでも路線価が付設されているのは、原則として市街化区域、非線引き都市計画内用途指定地域に限定される。市街化調整区域や都市計画区域外地域には路線価は付設されてない。倍率地域である。(倍率地域では、固定資産税評価額に地価事情の類似する地域ごとに定めた倍率を乗じて評価額を算出する。)
お判り頂いたことと思うが、相続税路線価とはおおよそ都市地域に限って付設公表されているものであり、農山村地域では付設されていないものである。さらに路線価平均値とはその線毎の単価平均であり、それ以上でも以下でもないことに留意すべきである。
もう一点、平均値の魔術が存在する。全国約41万地点の標準宅地の平均路線価は1平方メートル当たり前年比8.6%、1万円増の12万6000円であるというから全国的に、地価が1万円前後上昇したみたいに聞こえるが実は違うのである。国税庁が公表する「平成19年分標準宅地の評価基準額の平均額等の状況」をみれば直ぐに判ることであるが、全国の都道府県別平均平均価額において、最高値の東京:567千円/1㎡(+17.1%)と最低値の青森県:34千円/1㎡(▲2.9%)、全国平均126千円(+8.6%)とのあいだには大きな開差が生じている。つまり東京の+1%は5.6千円なのであり、青森の▲1%は0.34千円である。平均値の126千円にも+8.6%にも算術平均以外に何の意味もないことがお判りだろうか。
全国47都道府県のうち、地価が上昇または横ばいなのは三大都市圏を中心に16都道府県に留まるのであり、東北、北関東信越、北陸、中国、四国、九州の多くは、下落幅がやや縮小するものの依然として下落が継続しているのである。「平成19年分標準宅地の評価基準額の平均額等の状況」
宅地面積的にいえば、未だ地価下落地域の方が全国的には多いのである。下落地域の下落幅は小さくなっているとはいうものの、上昇地域の上昇幅が大きいことから開差は大きくなっているのであり、平均地価がその地域の経済状況を端的に反映するものであるから全国の地域経済状況はその格差をさらに拡大しつつあるといえるのである。(H19年平均変動率8.6%、H18年平均変動率0.9%)
東京銀座・鳩居堂前とか表参道とか名古屋駅前といった元気なところばかりが話題になるが、銀座の最高路線価24,960千円(+33.3%) の1%:249千円は、全国最高路線価ランキングに置き換えると37位に該当するのである。算術平均値の無意味さを判った上で、地価ニュースをみていたいものである。
9月になれば全国の地価調査価格が公表される。今の見込みでは地価公示や相続税路線価とほぼ同様の推移をたどるであろうと見込まれる。下落幅が縮小したというアナウンスに惑わされてはならないのであり、上昇地域と下落地域の相対的格差も絶対額も拡大しているのである。東京都の対前年比平均上昇額83千円のなかに青森の平均路線価34千円は埋没するのであり、地価過熱地域はますます過熱し、冷え込む地域は依然として氷点下なのである。
都会への労働力供給基地と位置づけられ過疎化に苦しむ地方へ、道路建設・河川改修・砂防ダムといった鉄とコンクリート投下の公共事業を永年にわたって投薬し続け、慢性疾患を悪化させたのである。今や建設土木以外にみるべき産業が存在しない地方へ、原発立地などの劇薬をさらに与えた結果、事実上の安楽死を招いたともいえるのである。水、空気、電力など、それに安価で都合の良い新卒労働者や季節労働者の供給基地と位置づける以外に地方の在り方を考えてこなかったツケを、都会こそが今払わざるを得ない時期に至っていると気付くべきである。
グローバル的にフェアトレードが云われるけれど、国内的にもフェアトレードが意識されなければならない時期なのである。
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