既成事実累積

 いまさら何を云っても仕方ないことなのかもしれないが、東海財務局の国有財産鑑定評価「見積依頼公告」が07/04/23公示された。オープンカウンタ方式による評価報酬の見積徴取である。


 「見積依頼公告」によれば、公告概要は以下の通りである。

1.見積書の提出の方法
 本件は「紙」による見積書の提出により実施するものとする。
2.見積合せに付する事項
(1)委託業務名不動産の価格にかかる鑑定評価
(2)対象物件
  岐阜市鶯谷***番外 (保安林)  9,・・・・㎡
(3)履行期限
(4)見積書及び申込みに必要な添付資料の提出期限
  ① 見積書  ②等級決定通知書(写)  ③確約書
(中略)
9.業者の決定方法等
予定価格の制限の範囲で最低の価格をもって申込みした者を契約の相手方とする。

 こうして見積合わせにより、予定価格制限内で最低価格(評価報酬)を提示した鑑定業者に国有財産鑑定評価が委託契約されるという先例が既成事実化し慣例化してゆくのである。なお仄聞するところによれば、一部では既に指名形式で見積徴収が行われていて、見方によれば相当な低額報酬で、別の見方によれば「寝ているよりもまし」程度の額で決まったようである。
 もう一つ別の情報では、「落札結果」または「決定結果」の開示は行うのかと問い合わせたところ、「無用の競争を引き起こすので開示しない予定。」との回答を得たとのことである。
 さらに微妙な話がある。財務局は管轄区域内の都道府県士協会に「見積依頼公告」の周知を求めているのである。茫猿自身も所属士協会からのファクシミリでこの情報に接した訳である。何が微妙かと云えば、「本音的には見積合わせに反対なのが鑑定サイドの考え方」であろうが、「会員の業務獲得機会を邪魔したり無にするわけにはゆかない」というのも本音であろうから、微妙なのである。つまり周知行為を行うと云うことは見積徴収への参加推奨とまでは云わなくとも積極的にも消極的にも反対姿勢ではないとも受け取られる。
 当然のことであるが、「見積徴収」に積極的に反対すれば、下手をするとカルテル行為と受け取られかねないのである。「忠ならんとすれば孝ならず」というところでしょうか。
そして、これも今更の話であるが、地価調査業務委託入札や郵政民営化や大学等独立法人化の際における「鑑定評価競争入札」を無為無策に放置してきた鑑定協会の姿勢がもたらした結果が現状なのである。鑑定協会とは役員だけを云うのではない茫猿自身を含めた協会会員の全てを云うのである。その意味では鑑定業界と言い替えた方がよかろう。
 この評価報酬低廉化競争は色々な局面への波及を見せているのである。従来からいわれてきた、デューデリとか時価評価といった大量一括物件調査発注(バルク発注ともいうらしい)では、都会にはじまる元請け、下請け、孫請けというランクがあり系列化された業者もランク分けが行き渡っていて、低廉化競争が行われているという。
 証券化鑑定の世界では、それが熾烈に劇的に表面化しているようである。
2ちゃんねるに暴露されているのは虚妄ではなく、どうやら現実のようであるが、これ以上は記すにしのびないから書かない。ただ、こういった表現はできるのでなかろうか、国土法施行時の添付鑑定評価ブーム、バブル時の監視区域添付鑑定評価ブーム、今は証券化鑑定評価ブーム、いずれもその底流に見逃せに出来ない事柄があった訳で、その本質は今も変わっていないのであろう。つまり鑑定評価の中立性維持を鑑定士の倫理だけに委ねていてよいのであろうかということである。中立性を客観的に担保する方策、即ち中立性を維持した「正直者が馬鹿をみない方策」という永遠の課題が、ここでも眼前に横たわっているのである。

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