不動産鑑定の近未来_2

 年金宙浮き事件、毒入り中国餃子事件、沖縄米軍兵士暴行事件、イージス艦漁船轟沈事件、これら今新聞やTVを騒がせている事件について、マスコミの取り上げ方は瓦版的喧噪に終始しているように思えてならない。


 これらの今日的マスコミの、その騒がれる表層下に潜むもの見えてくるものがあると云える。それは事件に関係する省庁や機関が組織維持に汲々とする姿勢であり、組織内論理に逃避する姿勢である。それら内向きの論理に終始し、言い訳ばかり考え、とりあえずはカメラの前で頭を下げておこうという姿勢には、優先順位感覚が見えてこない。 このような姿勢からは、国民の生命と財産の維持こそが最優先されるのだという「根本的な優先順位感覚」が何も見えてこないのである。
 鑑定評価の近未来を考える上でも、同様のことが云えると考えるのである。限りがある人的財政的資源のなかでは全てを同時並行的に実施することはできないのであり、自ずと考えられねばならない優先順位というものがあるだろうと云うのである。その先にあるものが今は明らかではないが、時代の趨勢としてネットワーク対応が第一であり、取引事例や地価公示結果などの幾つかの地価データを縦横に駆使できるデジタル環境を整えることから「鑑定評価の近未来」は始まるのではなかろうか。あれもこれもという総花的姿勢は結果的に力を削ぐ(そぐ)ものであり、何もできないこととなると危惧するのである。
 プロトタイプ型構築により、当面の利用に対応できるシステムが構築された今は、次に「外部に対しての攻めというマーケティングの為のシステム構築」に思いを致すべきだと考えるのである。 とは言うものの、その端緒となる事例カードのデジタル化についてさえ「地価公示事例カード書式は国交省マターだから、変更などできない。」と、最初から投げてしまう意見が多いことも事実です。鑑定協会は霞ヶ関に対して「陳情型受動的姿勢」から、「提案型能動的姿勢」に変わらねばならないという舌の根が乾かぬ内から、「それは国交省マター」と逃げてしまうというか諦めてしまう考え方も根強い状況にあります。
 我々鑑定業界に直ちに順風をもたらすようなニュービジネスが手軽に得られる訳はないのである。制度創設以来、損失補償基準要綱公布(公共用地取得に伴う鑑定評価)、地価公示実施、国土法施行(地価調査実施、監視区域届出添付鑑定評価)、民事執行法施行(競売評価)、固評鑑定評価実施など、幾度も神風到来的な追い風環境に恵まれてきた鑑定業界にとって「取引価格情報開示制度発足」と「公益法人制度改革」の今は、第二の制度創設ともいえる事態かもしれない。
 それでもゼロからの出発ではないのである。公示も調査も固評も相評も競売もデューデリビジネスも証券化ビジネスも存在するのである。そのような、他のライセンス業界から見ればまだまだ恵まれた環境にいるからこそ、ネットワーク構築というインフラ整備や取引価格情報開示事業原始データの保存と活用といった明日に向けての準備をすべきであろうと云うのである。そのような努力こそが、近い将来において我々不動産鑑定士のプレゼンスを向上させたり、新しい事業展開に必ず役立つと信じるのである。
 足もとを見失わない一歩々々も大切だが、同時に少し先を見据えて多少のリスクをとり、多少の汗をかきながら、多少の無駄ともみえる先行投資を行いながら、これから来るであろう未だ見ぬ若き仲間の鑑定士達のために、今できることを為そうではないかというのが筆者の一番申し上げたいことである。
 斯界の異端児といわれることもある三友システムアプライザルの井上明義氏は常々「不動産鑑定士は驚くほどにビジネス感覚に欠けている。」と云われるのである。茫猿も少なからず同感である。あまりにも保守的内向き思考であり、所管官庁頼みであり所管庁の意向を気にしすぎるのである。特に昨今は業績不振もあってかマイナス思考に走る鑑定士も多いように思われる。でも今年は三年に一度の固評評価替えの年であり、固定資産評価替鑑定評価に参画する多くの鑑定協会会員はそれなりの売上計上が見込まれる年でもある。このような年にこそ、車やパソコンを買い換えるのもよかろうが、その売上の一部を割(さ)いて将来のための投資を行うという考え方に立てないだろうか。
 潜在する市場のニーズを汲み上げやシーズを探し求め、それに対応する先行投資無き業界に、将来など見えないというのは、ビジネスの鉄則だと考えるのだがいかがだろうか。逆風のときこそ、打って出るという攻めの姿勢が求められると考えるのである。何よりも取引価格情報開示制度発足に伴う事例調査やREA-NET構築などを負担増だとマイナス面ばかりを意識する姿勢から脱却して、それらの負担を将来に備える力に変えてゆこうとする未来志向に転換したいと願うのである。
 だからこそ、敢えてもう一度云うのである。

『”求められて渋々開示する姿勢”ではなく、”自ら積極的に情報開示する姿勢”であればこそ、”よく開示する者、よく報われる”という、開示に伴う成果を獲得するという戦略が必須であることは云うまでもないことである。
 一次~三次データの開示も含めて、不動産鑑定士はこれら貴重なデータの有効活用と社会還元を提唱し自ら実行すべきであると考える。そういった地道な一見して迂遠に見える活動こそが、結果として不動産鑑定士のプレゼンスを向上させてゆく近道であろうし、ひいては業容拡充にもつながると考える。
 何となれば、三次データを地価公示等事例作成にのみ利用するのであれば、それはあまりにも消極的かつ部分的利用でありデータの存在意義や価値に無理解であると云わざるを得ない。何よりも、一次データ提供から二次データ回収に協力を頂いた市民に対して申し訳ないことと考えるのである。』

※関連記事
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 さらに云えば、こういった事柄を鑑定業界内部だけで処理しようと考えてはならないのである。(財)相撲協会を例に引くのが適切か否かはともかくとして、外部の意見や智慧を謙虚に聞く姿勢こそが大事なのであり、ネットワークやマーケティングに関わる識者の智慧を借りるという戦術も忘れてはならないのである。

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