昨年末にちょっと珍しいものを入手しました。 守口新漬と申します。 守口漬けは東海地方の特産品で奈良漬けの一種ですが、奈良漬けが瓜などの粕漬けであるのに対して、守口漬けは岐阜特産の守口大根の粕漬けです。
守口大根は岐阜市内の旧伊自良川河川敷地の砂地土壌を利用して栽培される1mにも及ぶ細長い大根です。 旧伊自良川は長良川の古川ですから深い砂地土壌であり、細長い大根の栽培に適しているのです。 守口大根は他にも尾張北部扶桑町などの旧木曽川河川敷でも栽培されているようですが、詳しくは知りません。
守口漬けは守口大根を三年ほども繰り返し繰り返し漬け返して、あの琥珀色の漬け物に仕上げるわけですが、この秋に収穫した大根を陰干しした後に、いったんは塩漬けにし、その塩抜きをした大根を米麹に漬け込みます。 ちょうど歳末の今頃は新漬けとして食べ頃になるのですが、一般市販はされません。 かつては漬物屋さんの関係者のみが正月に新漬けを味わうという、知るヒトぞのみが知る幻の漬け物でした。 ある頃から、これを伝え聞いた人たちがこの新漬けを求めるようになり、最近は年末の数日間限定、数量限定の商品として、得意先にのみ案内されるようになりました。 いわば、漬け物版ボジョレ・ヌーボーということです。
過日、送り洩れたというか、歳末到来物の返礼にと、事務所近くの馴染み岐阜物産店を訪れましたところ、折良くそのお店の社長にお会いできて、無沙汰の挨拶などをしていてふと、「守口新漬け」は入手できますかとお尋ねしたところ、「暮れの30日に限って、ございます。」とのことです。この会社は製造販売店ですから可能なのでしょうが、得意先限定で店頭には並べずに、販売されていたようなのです。
早速にご無理をお願いしましたところ、快くお引き受け頂き、数箱の幻の漬け物を入手したというわけです。
守口新漬けは、一見するとベッタラ漬けに似ていますが、あれほどは甘くございません。また漬けられている大根が全く違いますから、歯ごたえ、ほのかな辛みなど、およそ別物です。 ご飯が進みますし、酒の肴にもよく合います。 守口漬けが四十越えの大年増ならば、新漬けは十七、八頃の早乙女と表現できましょうか。 酸いも甘いもかみ分けた年増には年増の良さというものがございますが、ある一時だけ輝きを見せる早乙女の姿には得難いものがあります。 漬け物一つで大袈裟な話ではございますが、「うつろいゆくもののひととき」を感じさせてくれます。
堂守は昨年来、糠漬けを嗜んでいますが、糠漬けも漬けてから一週間ほどの間に、新漬け、程々漬け、ヒネ漬けと様々な移ろいを楽しめます。それぞれのうつろう様はそれぞれに味わいがあり、自ら漬け込み、管理するからこそ得られる楽しみなのであろうと思っています。
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