ⅲ楽しく手術を受けました

冊子・止揚第105号「負けいくさにかける(89)福井達雨著」より転載 《その3》
《重い知能障害をもつ人たちの中で》(2008/12/25クリスマス礼拝)
 その3『楽しく手術を受けました』
※この記事は止揚学園のご理解をいただいて、冊子・止揚からの転載です。
※文中に保母さん(保育士)や看護婦さん(看護師)という表現がございますが、筆者の思いを尊重して原文のままに表記します。


その3『楽しく手術を受けました』
 手術の日に、三十分前まで、まだ(手術をしなくて良ければ、そのままにしたいなあ)と、思っておりました。そして、車椅子で手術室まで、若い者護婦さんが連れて行ってくださったんですけども、手術室の扉が開いていよいよ中に入る時に、その看護婦さんが私の手を握って「暖かい布団をベッドに敷いて、待っていますから、がんばってくださいね」と、優しい声をかけてくださいました。
不思議ですね、その時から急に私の心が安定して静かになりました。ドキドキしていた心が安定しました。手術中約四時間、私は少しも動揺しませんでした。私の手術の様子が、全部モニターテレビに映って見えるんですけども、その画面をずっと見ておりました。とても楽しい思いで見ておりました。看護婦さんと話をしながら、看護婦さんが私の話を聞くと楽しそうに笑われるものですから、明るい笑いの中で手術が終わったような気がするんです。
でも、お医者さんは真剣に手術をしてくださいました。痛みも少しもなく、心が安定して、脈拍もいつも六十台、血圧もいつも百十から百二十台の中で、全然動揺がありませんでした。弱い私に、なぜ動揺がなかったか。実は、後でわかったんですけども、その時、止揚学園で障害をもつ仲間たちが、私のことを一生懸命祈ってくれていました。
 てるみさんという女の人がいます。言葉は話せないのですが、歌で色んなことを表現します。何かがあると、歌をうたうんです。止揚学園の朝の礼拝で、私の手術のお祈りをした時、彼女は三十分ばかり”安かれわが心よ、主イエスはともにいます”と、讃美歌をずっと歌い続けてくれたそうです。私が手術をする不安定な時に、(大丈夫だよ、イエスさまがともにいてくださるから、心安らかにしてたらいいよ)と歌ってくれていたんだと思うんです。
 私が手術室に向かったと病院から電話がかかってきた時に彼女は、『最後に愛は勝つ』という歌を、歌い出したそうです。”心配ないからね、心配ないからね”と、何度も何度も、この歌を歌い続けてくれたそうです。そして、午前十一時頃に、(手術は上手くいっているのかなあ、どうなっているのかなあ)と保母さんたちが、心配して話をしているのを聞いた時、てるみさんは高石ともやというフォークソング歌手の『友よ』という歌を歌い出したそうです。
“友よ、闘いの炎を燃やせ”
(大丈夫や、今闘っているんや、炎を燃やして闘っているんや、心配ないよ)と、こんな思いで、歌ってくれていたんだと思うんです。
 手術が無事終わりましたという電話があったとき、てるみさんは”これでいいのだ、これでいいのだ”とアニメの主題歌を歌い出したそうです。(これで良かったんや。上手く手術が終わって本当に明るい時が来たよ)と。
しばらくして私の導尿が(手術後、導尿をしていたのですが)外れた日、”夜明けは近い、夜明けは近い”と、フォークソングをずっと歌ってくれていたそうです。(もうこれで、夜明けが来た、輝く日が来た。福井先生は無事で退院して来るよ)、そんな思いで、歌ってくれていたんだと思うんです。
 知能に重い障害をもつ仲間たちは、何も分からない人たちだと言う人がいます。絶対にそんなことはありません。頭の賢い、強い私たちよりも、鋭い感性をもっていて、いつも心の中に深い思いをもってくれていると思うんです。それも、自分のことにではなく、他者に対して、優しい心をもってくれていると思うんです。

《学園の玄関では、こんなポールがお迎えです。》

 私はこの話を後で聞いて、(ああ、そうか、みんなが祈ってくれていたから、みんなが支えていてくれたから、僕の心が安らかで、手術が受けられたんだなあ、弱い私が強くさせられたんだなあ)と思いました。
 実は導尿をしていた時、一度尿道の中に入っている管に、手術の後の不純物が詰まり、オシッコが出なくなったことがあるんです。オシッコがしたいのに出ない、これは本当に辛いですね。午前二時から、お医者さんが来てくださる八時半まで、私は寝ることが出来なくて、部屋をグルグルと歩いたり、冷や汗は出てくるし、身体は震えてくるし、本当にしんどかったです。お医者さんが来てくださって、尿を引き出してくださったら、1000cc位のオシッコ一度に出ました。
スッと気持ちが良くなって、今までのこと、何も無かったように楽になりました。詰め込んでいたときは、本当にしんどかったのに、尿が外に出てしまうと楽になる。私は(人間の生き方も、こういうものだなあ) としみじみ思いました。
 自分の中に一杯、いっぱい、欲、お金、色んなものを詰め込んでしまうと、とってもしんどくなるんですね。でも、それを、自分の生活のためだけではなく、他者にも捧げていく。そうすればきっと、楽になり、明るくなっていくと思うんです。この地球にも明るい平和が来て、今のように暗い、闇の社会、失くなるんではないかと思うんです。リストラも失くなる、経済もこんなに苦しくなくなる、残酷な殺人も失くなる、とても明るい地球がやって来るんだと思うんです。人間は自分の中に詰め込むべきではないですね。他者に捧げるべきですね。 《この項続く》

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