死は優しくて、美しい 《4/4》

『負けいくさにかける(91):福井達雨』(冊子止揚より転載:全4部のうちその4)
 ※本稿は止揚学園のご好意により、冊子止揚連載の記事を転載するものです。
 ※本稿を転載等ご利用されたい場合は、止揚学園:渋谷様までご連絡下さい。
 ※止揚学園 電話0748-42-0635 Fax0748-42-0806 止揚編集:渋谷
《お母さん、きれい》
母親が亡くなった時、満男さんはお棺の中の母親の顔を見て、ニコニコ笑顔で「お母さん、きれい」と叫びました。私は満男さんの明るい姿の中に、(お母さん、僕を長く支えてくれて、本当にありがとう)という母親への感謝を感じ、心が温かくなりました。


  おかあさん きれいやなあ
  きれいやなあ おかあさん
  写真の中で 花のように笑っている
  今日は空が青くてきれいです
  一緒に手をつないだ あの日と同じ空
  おかあさん きれいやなあ
  きれいやなあ おかあさん
  また 話しにきます まっててね
  おかあさん
 これは満男さんが「お母さん、きれい」と叫んだ時、その母親を想う熱い心に深い感動を与えられ、生まれてきた詩なのです。 今それに曲をつけて皆で歌っています。 満男さんも手で拍子をとりながら、嬉しそうです。
 死を(恐ろしいもの、忌しいもの、できるなら避けたいもの)と思っていた私が、死を明るく考え、(死は生きている私たちの人生を豊かにするものなんや)と感じるようになったのは、知能に重い障害を持った仲間たちと長く生活し、この仲間たちから教えられ、育てられたからなのです。
 さて、止揚学園には園の全景が見渡せる小高い丘の上に納骨堂が建っています。(私たちは生きている時だけではなく、死を迎えても納骨堂に共に入り、心や力を合わせて総ての人間が、胸を取って歩ける社会を創ろうとの理想を持って歩もう)とこの納骨堂は作られました。納骨堂の正面の壁には私たちが大切にしてきた「見えないものは永遠に続くのである」という聖書の言が書かれています。
 この納骨堂は建って四十七年目になりますが、今、四十九名の人と一頭の犬、馬のお骨が安置され、キリスト教の納骨堂なので、大きな十字架がかかげられています。
にもかかわらず、納骨されている人たちの多くが仏教徒で、入園している仲間たちや仲間の職員た
ちの祖父母や両親たちなので-す。 この人たちが亡くなる前、「自分が死んだら、止揚学園の納骨堂に入れて欲しい」と頼まれていて、私たちは (イエスさまは愛の神やから、「誰でも、どんな宗教の人でも、心から私の側に来たい人は来なさい」と言ってくださっている。だから、皆、止揚学園の納骨堂に入ったらよいんや)と考え、この人たちのお骨を安置しています。
 入園している仲間たちの祖父母や両親は孫や子どもが知能に重い障害を持っていて、多くの悲しみや苦しみを背負い(自分が死んだら、孫や子どもの側にいて力になつてやりたい)という思いがとても強く、止揚学園の納骨堂に入ることを望んでいます。この祖父母や両親の心を知った時、(この人たちがこのような思いを持たへんでもよい、弱い立場に立たされた人たちが切り捨てられない社会が
一日も早く来てほしいなあ。そして、僕がそんな社会を創る祈りと行動を持ち続けんとあかん)と心が引きしまるのを覚えるのです。 三田さんと満男さんの母親も生前の願いで止揚学園の納骨堂に入りました。
止揚学園では年に一度、納骨堂に入っている仲間たちの召天者記念礼拝をしています。 この日は、亡くなった仲間たちの家族やお客さま、入園している仲間や家族と職員でこの礼拝を守っています。そして、(天上から旅して私たちの所に来てくれる仲間を、悲しい涙より、明るい笑顔で迎えよう)と召天者記念礼拝の後、楽しい運動会をしています。
 この日は、親を亡くした入園している仲間たちは、「お父さん、お母さん、いっしょ、うれしい」とニコニコ笑顔で走り、踊っています。親の姿は見えなくても、この仲間たちは、(自分の側に親が立ち、一緒に走ってくれている)と強く思っているようです。私たちには見えない親の姿が、この仲間たちには見えているのかもわかりません。私は(召天者記念礼拝の後に運動会をして、本当によかったなあ)と心を明るくしています。
 今年も十月十二日の体育の日に、召天者記念礼拝と運動会を開きます。毎年、沢山のお客さまがこの日を楽しみにして参加して下さいます。そして、召天者記念礼拝という死と静の時、運動会という生と動の時、この二つの時を楽しく過ごして、有意義なものを心に持ち、豊かな笑顔で家路に着かれます。
 今は、入園している仲間たちが、晴れていると、運動場に出て、運動会の練習で張り切っています。今日も皆の明るい声が、この原稿を書いている私の耳に響いています。 後、一ケ月少しを過ぎると、入園している仲間たちが心踊らせて待っている、天上に召された親たちとの再会の日がやってきます。  《1/4へ戻る》

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