現実論に抗う

 リスクを受け入れ、原発と折り合わなければと、えん曲な表現ながら、主張する人たちがもう現れ始めている。菅総理をはじめ民主党の原発に対する姿勢は曖昧だし、自民党内には原発擁護議員協議会が発足したそうである。 東電の損害賠償責任論も政府肩代わり論が徐々に大きくなっているようである。
 原発無しには電力需要を充足できず、経済成長も温暖化対策も実現できないという思考停止的似非現実論(?)が日々勢いを増してゆくのだろうとすれば、これもとても辛いことである。 この記事を書き終えたところに、菅総理の「静岡県浜岡原発の運転中止要請」という緊急記者会見ニュースを知った。 予想される東海地震に備えた万全の対策が完了するまでは運転停止を要請するとのことであるが、今後の展開が注目される。
《05.08追記》 この問題については、「総理の要請」に伴う手続き上の瑕疵、産業への影響、当面の発電コスト上昇による電力料金の引き上げ等々、多くの問題が指摘されている上に、サルコジ仏大統領が急遽訪日した本当の理由や原子力利用にまつわるロスチャイルド利権まで云々されている。 要請を評価する静岡県知事に対して、地元御前崎市長は「長年、国策に協力してきた我々はいったいなんだったのか?」と疑問を呈している。《民主主義とは単純ではない、七面倒なものなのである。でも最後は優先順位に行き着くのか。》


 戦後70年近く続いた経済成長是認、必然論の延長線上で思考を停止し、経済成長を続ける上で原発は必要悪だというのである。同時に地球温暖化防止にとって、リスクは伴うがクリーンエネルギーである原発は必要という論を思考停止的似非現実論と茫猿は云うのである。茫猿はそれらの現実論に抗って(あらがって)みたい。
 エネルギー資源の分散化 新しいエネルギー資源の研究開発 生産と生活の省エネルギー化 東京というメガポリスの多極分散化など考えるべきことは山ほど有るし、選択肢も多いのに、なぜ思考を停止し原発を容認せよと云うのであろうか。
 何も明日から脱原発に移行せよとか、東京を解体しろとか云うのでない。 60年かけて築いてしまった現状であれば、30年かけて新しい日本を築けばよいのである。孫、曾孫の代を見据えた、後世に負担を残さない経済社会構築を目標設定して、着手可能なことから始めればよいのである。
 産業用電力のピーク時分散化、家庭用電力の従量累進料金制度、省エネ推進税制の構築などなど、採用可能な手法は幾つもある。贅沢は敵だなどとは云わない。過剰なエネルギー消費という贅沢には応分のコスト負担を求めるだけである。職場を地方分散化すれば、通勤エネルギーだって省力化できよう。
 集中の利益とその裏に潜むリスク 分散による非効率化と安全及び省エネを秤量比較すればよい。 多極分散型社会を築き始めるにとても良い機会だと考えられるかどうかが問われている。 多極分散型社会の構築は、地方の疲弊にストップが掛けられるだろう。
 2005年に玄海原発のプルサーマル化を巡って開催された公開討論「推進派・大橋弘忠氏(東京大学)と批判派小出弘章氏(京都大学)」の討論が、原発推進の裏側を今さらに教えてくれる。
 以下に示すYouTubeは1から5までとイエローカード版がある。全部を見ると約一時間と、少し時間を要するが全部とおして見てほしいものである。 この討議のなかで「原子力白書」が用いている用語として、重大事故、仮想事故というものがあり、原発はこれらに対応すべく安全基準が設けられているとのことである。 格納容器の破損とか炉心溶融といった事故は『想定不適当事故』と位置付けられているとのことである。この想定不適当こそが今回の「想定外」なるもののようである。
 大橋氏が述べていることは、3.11事故で打ち砕かれてしまった安全設計基準について、当時の推進派の考え方である。 最も厳しい条件下で設計し評価・確保された安全設計というもののまやかしが透き見えてくる。 小出氏の反論について論点を噛み合わせることを意図的に避けて、問題点のすり替えを行うという不誠実なディベートの典型である。 時間があれば、画面の「YouTube」アイコンをクリックしてフォローコメントを読むのも良いであろう。

 技術信奉者が言う限定的な想定範囲での確率論的安全性に潜む絶対安全信仰の矛盾を読みとってみたい。 3.11事故の問題点は想定不適当事故にも入っていなかった、「使用済み核燃料庫の破損」が引き起こしたものであるということ、また津波の予想外の高さも非常用電源の全損も想定不適当事故であったということに注目したい。

 重大事故、仮想事故、そして想定不適当事故(想定外事故)。議論が噛み合わないのはこの一点にある。 しかし、巨大技術というものは想定外事象で破綻するだけではなくて、小さな事故の積み重ねあるいは集積によっても起こるものであるが、技術信奉論者はその集積すらも想定不適当と言うのであろう。

 プルトニュウムの危険性について、飲んでも大丈夫という大橋氏の意見について鼻から吸入した場合の危険性を述べる小出氏について、笑いながら反論する大橋氏との対比映像に注目したい。

 会場からの質問について、高飛車に検討済み事項であると決めつける大橋氏、小出氏はMOX燃料を使うというプルサーマル化を行わざるを得なくなった背景、プルサーマル化の経済的非効率とリスクの拡大を述べている。

 検討済み事項について「ごちゃごちゃ言ってる。」とまで言う大橋氏に、みかねた司会者がイエローカードを出している。問題をすり替え矮小化し、時に討論相手を挑発するという典型的なデイベート手法が見られる。

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