茫猿の現実認識

 昨日の記事「事例管理と鑑定評価」を両三度読み返してみて、ふと気付いたのである。 この記事は現実認識に欠けた空理空論と受け取られかねないと気付いたのである。
 鑑定評価のコモデテイ化が止めどなく進み、業務内容がいわゆる簡易鑑定や価格調査報告に傾斜し、業務報酬の低廉化に歯止めが無くなってる状況、すなわちマイナスのスパイラル現象に抗しようもない状況を認識していない、過去の成功体験を追憶するだけの提言と受け取られているのではないかと危惧するのである。


 鑑定評価及び周辺業務の日常化とデジタル化が進むことは、鑑定評価業務のコモデテイ化が進むことに他ならず、現在の業界に起きている事象は避け得ない必然といえるのであろう。 とはいっても避け得ないからと云って、そこに甘んじていれば「簡易化・簡便化と低価格化」の罠からいつまで経っても解放されないだけでなく、衰退に歯止めが掛からず衰亡に向かって往くだけのことであろう。
 現実をそのように認識すればこそ、不動産鑑定士としても鑑定業者としてもさらには鑑定業界としても、然るべき対応策を考えなければならないのである。 その対応策が囲い込みや排除や規制強化の論理に立つとすれば、そのような行動がコモデテイ化の波に埋没していった事例は歴史が数多く教えるところでもある。
 前号記事「事例管理と鑑定評価」の背景には「頂門の一針(2010年2月24日)」が存在するのである。 頂門の一針より再度引用する。

 医師、弁護士、建築家、会計士などの知的職業にたずさわるアメリカ人は、人間同士の微妙な触れ合いに精通しなければならない。なぜなら、デジタル化できるものはすべて、もっと賢いか、安いか、あるいはその両方の生産者にアウトソーシングできるからだ。
 バリューチェーン(価値連鎖)をデジタル化でき、切り分けることができ、作業をよそで行えるような活動は、いずれよそへ移されます。
 以上、『フラット化する世界 』 フリードマン 日本経済新聞社刊より引用。

 今や、他者が作成した鮮度が劣る資料(いわゆる四次、五次データ)に過度に依存する旧来型の鑑定評価とは決別すべき時なのである。 そして鮮度の新しい三次データ等を基礎として、自らが個々の資料の詳細を調査し、一次データ及び三次データさらには多くのWeb市場データ等を母集団とした地理情報的解析や時系列分析結果を背景とする、本来あるべき姿の鑑定評価に転換してゆく得難い機会としたいものである。
 鮮度の落ちた過去データの囲い込みにこだわっているあいだは、鑑定評価の未来はないし、エリアに密着し精通する地元鑑定士の優位性も発揮できないと知るべきであろうと考えるのだが、一向に気付いて頂けないのが残念なことである。

 他者が作成した資料の使い廻しに甘んじる、あるいはそれで十分とする業務依頼の全てを茫猿は否定するものではない。 そこに市場の需要が存在するのであれば、それに応えようとする鑑定等業者が現れるのも必然であろうし、それを一概に非難することでもない。 だが、そこに安住する道は取らない、少なくとも取りたくない、であれば別の道を模索したいと考えるのである。
 ナンバーワンの道を取らずオンリーワンの道を選びたいし、多量データの取扱に習熟したいと願うと同時に、個別データの解析ノウハウを高めたいと願うのである。
別の表現をすれば、三次データに関わる個別属性データを充足し、その解析ツールを精緻化したいのであり、母集団としての三次データさらには一次データやWeb市場データの解析ノウハウに習熟したいのである。 それらは個々の鑑定士として必須であろうが、同時に個々の鑑定士の努力を支えるエリアに集う鑑定士の協働作業が欠かせないし、鑑定業界の支援も欠かせないと考えるのである。
 集合体としての鑑定業界が個々の鑑定士を支えてゆくような「資料管理」でありたいと考えるのである。それは決して古き良き時代を懐古するものではなくて、デジタル時代に即応した鑑定評価のあり方を模索するものでなければならないと考えているのである。 茫猿が悉皆調査の充実、ネットワークの整備、地理情報の習熟を唱え続けてきたことの意味は、まさに其処にあるのです。 その一点において『鄙からの発信』は発信開始以来いささかも揺らいでいないのです。
 今一度、別の表現をしてみましょう。鮮度の劣る四次または五次データは閲覧に供されるまでに最短でも三ヶ月以上のタイムラグがあります。 しかし、この鮮度落差は大きな問題ではありません。 最も大事なことは他者が整えたデータを、自らの鑑定評価の基礎とする不都合さです。 事情補正、時点修正、標準化補正、配分法などのとても大事な属性データについて他者の施したバイアスを、的確に吟味補修正することなく採用する不都合さを糺さなければならないと考えます。
 その上で、如何なる改革改善も個々の鑑定士による三次データの有効な利活用を阻害するものであってはならないと考えます。 ここでいう有効な利活用とは、直接的利活用に止まらず、地価動向等を解析する母集団としての三次データであることは云うまでもないことです。
 

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