鑑定評価のパラダイム転換-Ⅱ

先号記事「鑑定評価のパラダイム転換」において、新不動産情報システムの構築は今に始まったことではないと書いた。 取引価格情報提供制度が始まった頃に作られた「不動産流通市場活性化フォーラム」を引き継ぐものとして、「不動産流通市場における情報整備のあり方研究会」が設けられ、2012年9月には中間とりまとめが公表されているのである。

『鄙からの発信』は、公表当時にこの研究会中間取りまとめ公表を記事にいる。 中間取りまとめは不動産市場活性化の方策として取引情報の収集と開示を大きく取り上げており、その目標設定とともに鑑定評価にも大きく影響を与えるであろうことを述べている。 以下にもう一度、中間取りまとめから注目すべき記述を抜粋してみる。 《並行して、研究会が公表している説明資料も参考になる。》  平成26年度の「不動産関係情報ストックシステムの整備」については、平成26年度土地・建設産業局関係予算決定概要の別紙5を読まれるとよかろう。

 

「不動産流通市場における情報整備のあり方研究会」
中間とりまとめ  平成 24 年 9 月)

1. はじめに
中古住宅の質を高め、国民の住生活の向上を図るためには、住宅の売り主・買い主である消費者の利益が実現するよう、情報の整備・提供により市場の透明性・効率性の向上に取組むことが重要であるが、中古住宅市場に係る情報の整備・提供の充実に関し取組を強化することは、同時に非住宅を含む不動産流通市場全体の透明性の向上につながり、将来的な不動産市場の規模拡大、不動産流通市場全体の活性化につながるものと考えられる。

2. 不動産流通市場における情報整備の必要性
(1)透明性向上による市場規模の拡大・投資環境の整備
また、不動産の価格に関する情報、履歴情報、物件調査に必要な情報等の情報ストックをインターネットによって提供可能な仕組みを整備すれば、宅地建物取引業者、消費者、金融機関等の情報収集に要する時間が短縮されるため、物件滞留時間も短縮されて効率的な市場となることが期待される。

一方、先進諸国はいずれも投資環境を整えて自国の不動産市場へより多くの投資資金を呼び込むための方策を講じており、何の対策も講じない場合には、我が国が取り残されることが危惧される。不動産情報を市場へ提供して透明性を高めることは、投資環境整備の要の一つでもあり、情報ストックの整備・提供によって、欧米諸国の諸都市のように透明性の高い市場環境となることが期待される。

4. 不動産流通市場における情報整備に関する基本的な考え方
(1)情報整備にあたり共有すべき理念
個々の取引に即して見れば、情報整備が進むことにより優良なストックの差別化が図られ、売買価格の上昇につながる物件も増加し、そのことが売却収入の増加、資産価値の増加、仲介手数料の増加にもつながるという効果が期待される。

また、不動産流通市場全体で見れば、不動産流通市場の信頼性の向上、物件の差別化による淘汰に基づく既存ストックの品質の向上、取引の活性化及び潜在的需要の喚起による市場規模の拡大という効果をもたらす。

(3)システムの機能に係る基本的なイメージ
成約価格情報などについても、①適正な相場観の形成に資する不動産取引情報提供サイト(RMI)のような市場参加者に広く提供される仕組みの充実、②売り主と買い主間のマッチングに際しての透明で高い納得感をもたらすルールの形成を通じてその一層の活用が図られることが期待される。

5. 情報整備に当たっての検討課題
(2)分散している各種情報の一元的集約の可能性と方法
情報ストックの一元的整備の方策については、新たに全ての情報を一元的(一箇所)に集約する仕組みにこだわらず、既存のデータソースとの連携による中核機能(ハブ)として、情報保有について権限と責任を有する各情報保有機関との連携により情報整備を行うことも選択肢に入れた検討が考えられる。

(3)成約情報の共有の是非と収集・集約の方法
ⅰ)RMIの機能改善を図るとともに、よりオープンなデータベースとして消費者に提供するための方策
ⅱ)個人情報保護の観点からの秘匿処理のあり方
ⅲ)成約情報提供の意義を浸透させ理解を深めてもらうための方策
等について、事業者、消費者の反応を見極めながら検討・調整を進める。

(5)情報提供のあり方
① 情報ストックの情報提供に関する基本的課題
レインズと情報ストックとの連携により収集・整備する情報項目と、事業者及び消費者に提供・開示する情報項目とは直ちに一致するものではなく、それぞれの意義や目的に照らしながら切り分けて検討されるべきである。特に、収集・整備した情報ストックについて、どのように事業者間で共有するのか、あるいは、具体的にどこまで消費者に提供するのか等を考えるに当たっては、個人情報保護法への的確な対応が必要であり、来年度以降、提供時期、目的、相手方等に応じた検討・調整が必要であると考える。

6. おわりに
本研究会は、不動産流通市場活性化フォーラム提言を踏まえ、不動産流通市場における情報整備のあり方についての議論・ヒアリング等を行ってきたが、不動産に係る情報ストックの一元的整備及びレインズ機能の充実の必要性について、問題意識の共有、課題の整理、一定の方向性のとりまとめを行った。  今後、情報ストック整備の具体的なシステムに関する検討は、平成 25 年度において予算措置を講じて、専門的見地からの調査・研究を行い、システムの基本的な構想を策定するべきである。 《以上、抜粋終了》

※次号記事では、新不動産情報システムの構築が、なぜ鑑定評価のパラダイム転換を促すであろうと考えるかについて記事にしてみたい。

 

関連の記事


カテゴリー: 茫猿残日録 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください