ゼネコンの時価評価

【販売用不動産の強制評価減の要否の判断に関する監査上の取扱(案)】
日本公認会計士協会(監査委員会)は、総合建設会社等が所有する販売
用不動産等について、商法等に基づく強制評価減を適用する場合に、会
社が実施した販売用不動産等の時価の算定方法等が妥当か否かを判断す
るための監査上の取扱いの作成に向けて検討していましたが、このたび、
一応の結論が得られたので、公開草案「販売用不動産等の強制評価減の
要否の判断に関する監査上の取扱い(案)」として公表し、広く意見を
求めた上で実務指針として確定することとされました。(以下、草案と
称する。)
不動産の時価評価に関して、不動産鑑定の専門家集団以外の他の資格団
体が作成公表するガイドラインです。何やら奇妙な感じが致します。
奇妙な点その1は、この草案に云うところの販売用不動産の時価判定は、
「不動産鑑定評価に関する法律第二条に云う[不動産の鑑定評価]には
当たらないのでしょうか。
奇妙な点その2は、草案に示されている、
a.下落(50%以上下落)の判断基準及び判断行為、
b.時価の回復可能性の判断基準及び判断行為、
c.販売用不動産の評価の妥当性に関する判断基準及び判断行為、
d.不動産開発計画の実現可能性に関する判断基準及び判断行為、
以上の全ては不動産評価の専門家においてこそ、初めて為し得るもので
はないのでしょうか。
公認会計士協会は、上記の行為は不動産鑑定評価ではない。ましてや、
不動産鑑定評価書を発行する行為ではないとお考えのようです。
日本不動産鑑定協会はどのようにお考えなんでしょうね。
日本不動産鑑定協会では「時価評価対応委員会・委員長稲野辺良一氏」
なる委員会を立ち上げて、折衝されているようですが。??
名称の如何を問わず、報酬を得て評価及び評価類似行為を行うとすれば、
同じ資格者団体としてまず最初に信義が問われるのではないでしょうか。
(監査法人は無報酬でこれらの業務を行われる訳ではないでしょう。相
当に時間と経費と知識経験が要求される業務です)
草案を順次検討してみましょう。
草案(3)販売見込額の客観性・・について
販売用不動産等の時価が適切に算定されているか否かの判断に当たっ
ては、当該不動産等の販売見込額や造成・建築工事原価今後発生見込額
等が適切に見積もられていることを検討する必要がある。
特に、土地は、その自然的、人為的特性のために適正価格を形成する
市場がなく、また地域性という特性により、他の一般の資産と異なる
価格特性が生じていることに留意する必要がある。このように、販売
用不動産等の時価の算定においては、見積りや主観的な判断に依拠す
る場合が多い。したがって、販売用不動産等の時価の算定に当たって
は、その客観性及び合理性、開発計画の実現可能性並びに開発主体の
実績などを慎重に考慮する必要がある。
なお、販売見込額の基礎となる土地の時価としては、不動産鑑定士に
よる鑑定評価額が適切と考えられるが、これに制約される必要はなく、
公示価格、都道府県基準地価格、路線価による相続税評価額、固定資
産税評価額を基にした倍率方式による相続税評価額等も妥当と考えら
れる。また、近隣の取引事例から比準した価格も、ある程度客観性を
備えた価格と考えられる。(以上、草案3.(3)より引用)
※ 一応、鑑定評価が適切と表明しているが、直ぐさま、これに制約さ
れる必要は無くと否定している。さらに、公的評価採用の妥当性言
及は兎も角として、いわゆる比準価格も例示している。これは鑑定
評価の業務範疇である。又草案は、販売公表価格及び販売予定価格
がない場合及び予定価格等で販売する見込みが乏しい場合について、
次の通り言及している
草案(イ) 販売公表価格及び販売予定価格がない場合(適切でない場
合を含む。)次の評価額を基準にして販売可能見込額を見積もる。
(取引事例価格や一般に公表されている地価)
・近隣の取引事例から比準した価格
・公示価格、都道府県基準地価格から比準した価格
・路線価による相続税評価額等
(注)いずれの場合も、地形、道路付等の要素を比較考慮する必要が
ある。
(収益還元価額)
 当初より販売を目的として取得した販売用不動産であるが、現在賃
貸中のもの、又は一時的に賃貸に供した後に販売する目的で保有する
ものについては、収益還元価値に基づく評価額によることができる。
(草案・6.(1)の(3)のイより引用)
※取引事例から比準した価格が、最初に掲げられ、鑑定評価は何処にも
ありません。しかも、全て比準過程や画地計算を含んでおります。収
益還元価額と記載していますが、鑑定評価基準に云う収益価格に他な
らないものです。
※開発後販売する不動産の評価については、鑑定評価の手法の一つであ
る「開発法」の適用そのものではないでしょうか。長くなりますが、
以下に引用します。
草案(2) 開発後販売する不動産の評価
1.対象となる不動産
 ・造成計画のある未造成土地(造成中の土地を含む。)
 ・住宅、ビルディング等の建築計画のある土地
  (建築中の建物を含む。)
  (注)いずれの場合も、計画が実現可能な物件に限る。
2.時価の算定方法
  開発事業等支出金の時価=完成後販売見込額-(造成・建築工事 
  原価今後発生見込額+販売経費等見込額)
3.完成後販売見込額
  (1)の(3)の開発を行わない不動産又は開発が完了した不動産の
  評価における販売見込額の見積方法に準ずる。
4.造成・建築工事原価今後発生見込額
  過去の実績、工事の難易度、工法等を斟酌して、造成工事、建築工
  事原価の金額を見積もる。
5.販売経費等見込額販売手数料、広告宣伝費及び解体費等を見積もる。
6.開発計画の実現可能性について
  開発計画の実現可能性が認められない販売用不動産等については、
  開発利益を見込めないため、原則として、 (1)の開発を行わない不
  動産として評価する。なお、本報告の【付録1】に、販売用不動産
  等の評価額の例示、及び【付録2】に、一般に公表されている地価
  の概要を要約したので、実務上の参考とされたい。
草案7.不動産開発計画の実現可能性に関する判断指針
(1) 開発計画の合理性不動産開発事業は、土地等をそのまま販売する
のではなく、宅地の造成分譲、マンションの分譲、地域の再開発、ゴル
フ場の造成等のような開発行為を実施することにより、付加価値を高め
て投下資金を回収し、開発利益を得る事業である。これらの開発計画は、
その着工から開発工事等の完了までに長期間を要し、また土地等の取得、
造成、建築等に多額の資金を必要とする場合が多い。したがって、この
開発計画の合理性を判断するためには、その客観性、具体性及び採算性
について検討する必要がある。また、開発計画は、開発期間中にその開
発目的を変更する場合があるが、その場合にも、変更後の開発計画の合
理性を検討する必要がある。(以上、草案引用)
※如何でしたか、不動産鑑定基準を読んでいるような気分になりません
か、表現が少しずつ変えてあるので、違和感を感じながら、これは鑑
定評価基準開発法の解説ではないのか?
 そんな風に感じた貴方が正しいと思います。
※さて、鑑定の業務分野を死守するとか、固守するとか、そんな狭い了
見でものを云おうとは思いません。同じ国家資格の先輩資格団体が、
後輩団体に対して、何やら踏みつけや無視を行っているような感じが
します。
※それとも、不動産鑑定士が正しく、時宜を得た社会的アピールを行わ
なかったが故に、彼等公認会計士諸公は、自らの手で不動産の時価評
価を行わざるを得なくなったのでしょうか。
※企業保有不動産の時価評価に対しては、一二年前から鑑定依頼の増加
という、鑑定士側の一方的な視点で語られることが多かったのです。
※企業の側、特に再建に必死となっているゼネコンとすれば、「時価評
価を行って発生する損失処理が大変なことであり、当年度利益はあっ
と云う間に吹っ飛んでしまいます。そこへ、痛みを伴う評価替え業務
に多額の鑑定報酬を支払うことなど容認できる訳もありません。概ね
適正であると市場さえ認めてくれるなら、低報酬で迅速に、且つ概ね
的確に行ってくれる[社会に認知された受託団体]の存在が好ましい。」
※私が、先方なら、上記のように考えます。
※とすれば、これは不良債権処理のツムジ風と同じではないでしょうか。
時価評価による強制評価減が話題になって久しいのに、つまり社会的
経済的需要の芽が生まれつつあるのに、それに的確に対応することを
怠ってきたのは、実は不動産鑑定士の側だったのではないでしょうか。
※旧来の鑑定評価スタイルと鑑定評価報酬を固守することにのみ意を用
いて、社会の需要が奈辺にあるのかと思いを致そうとしない「ツクヅ
ク懲りない面々」なのだと思います。
※鑑定評価需要者が来るのを待つ姿勢にも一面の真理は認めます。同時
に需要者のニーズに応えてゆくという姿勢も大事なのではないでしょ
うか。特に今は需要者の懐具合や需要の必然性や評価需要の真の意味
 合いに思いを寄せることが不可欠と考えますが如何でしょうか。
 (またぞろ、霞ヶ関頼りなどしなければいいのですが。
                      _(._.)_そして(?_?)
※販売用不動産の強制評価減の要否の判断に関する監査上の取扱 (案)
の全文については、下記のURLにて御覧下さい。
http://www.jicpa.or.jp/n_topics/toushin/kansa/hudousan-ed.htm

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