【茫猿遠吠・・自衛隊派遣と新聞論調・・03.12.10】
かねてからの話題というか、小泉氏にとって最大の懸案事項であった
「自衛隊のイラク派遣、その基本計画」が、昨日、閣議決定されました。
この問題について各新聞の社説や主張のTOPをWeb Site から検索
して列挙してみました。相当に違う各紙の論調を見比べて下さい。
地方紙の方に慎重論が多いのは、不思議なことです。
自衛隊基地の存在、或いは自衛隊志願者出身地の傾向と一致するのでしょうか。
茫猿は、北海道新聞の主張と地元岐阜新聞の主張に共感を示します。
『産経新聞』【主張】
イラク派遣「基本計画」を正式決定 空自先遣隊を年内投入か。
基本計画決定 国益と威信かけた選択 自衛隊は復興任務に自信を
イラク復興支援特別措置法に基づく自衛隊派遣の概要を定めた基本計画が閣
議決定された。派遣反対論が噴出する中、復興支援を軌道に乗せる国際共同行
動への参加を決断し、使命感に燃える自衛隊員に敬意を表して派遣の意義を説
いた小泉純一郎首相の姿勢を評価したい。
『読売新聞』12月10日付・読売社説
イラク復興へ人的貢献、自衛隊派遣基本計画決定
[自衛隊派遣]『国民の精神が試されている』 【国家意思が問われる】
日本の国際協力に新たな展開をもたらす歴史的決断だ。
政府は、イラクに自衛隊を派遣する基本計画を決定した。
『毎日新聞』(社説)
イラク支援、自衛隊派遣の基本計画を閣議決定
自衛隊派遣 あくまで復興支援のために
政府は9日午後の臨時閣議で、イラク復興特別措置法に基づき自衛隊をイラ
クに派遣するための基本計画を閣議決定した。防衛庁が実施要項をまとめ来年
1月には航空自衛隊を派遣し、その後陸上自衛隊を派遣する方針だという。
『朝日新聞』<社説>
日本の道を誤らせるな
政治に携わる者、とりわけ首相の職務の重さを痛感するのは、右か左か、国
の命運を担って至難の決断を迫られているときである。まして貴い人命がかか
っていれば、なおさらだ。
『日経新聞』社説
イラク支援へ首相が下した政治決断
政府は自衛隊のイラク派遣に関する基本計画を閣議決定した。与党内調整の
結果ではあるが、世論調査で賛否が半ばし、与党内に慎重論もあるなかでの小
泉純一郎首相の政治決断に近い。民主主義国の政治指導者にとって若者の命を
危険にさらすかもしれぬ決断は常に苦渋の選択である。首相は「危険を伴う困
難な任務に就こうとする自衛官に敬意を表する」と述べた。自衛隊のイラク派
遣は戦後日本が初めて経験する胸に重い決定である。
『東京中日新聞』社説
自衛隊のイラク派遣を決定 踏み出すのは危うい
テロなどの攻撃が続く中、自衛隊は復興支援をまっとうできる環境なのか。
イラクに自衛隊を派遣するため閣議決定された基本計画には、なおも懸念がつ
きまとう。
『神戸新聞』
イラク派遣閣議決定/首相は踏みとどまる勇気を持て
機関銃、無反動砲、個人携帯対戦車弾など、かつてない「重装備」で、無差
別テロが続く「戦乱の地」に、自衛隊が送り出されることになる。
政府が九日に閣議決定したイラク特措法に基づく「基本計画」は、専守防衛
を掲げてきた自衛隊の性格を大きく変えることになるだろう。それは日本が戦
後一貫して国是としてきた平和主義から踏み出すことにつながるのではないか。
「テロに屈してはならない」という掛け声に押されて、進むべき道を踏み間違
う危うさをおぼえる。
『北海道新聞』
イラク派遣基本計画*自衛隊を出す状況にない(12月10日)
イラク復興支援特別措置法に基づく自衛隊を現地に派遣するための基本計画
が閣議決定された。
防衛庁長官による派遣命令という政府内手続きの最終段階まで、事実上「残
り一歩」である。 先の日本人外交官二人の犠牲をはじめ、イラクは「戦争
状態」にあり、全土が戦地ともいわれている。
残る一歩の意味は、戦後日本にとってとてつもなく大きい。
戦地への自衛隊派遣が初めて、というだけではない。国外での戦闘で、隊員が
犠牲になる、日本人が外国人を武力で殺傷する、この二つの可能性をともには
らむからだ。
一瞬の襲撃と身を守るための応戦が憲法も平和国家の理想も破壊しかねない。
これこそが怖い。
『岐阜新聞』
イラク派遣基本計画決定/県民の声
人道と日米同盟の名のもとに、日本は重大な一歩を踏み出した。九日、閣議
決定された自衛隊イラク派遣の基本計画。小泉純一郎首相は記者会見で唐突に
憲法前文を挙げ、国際貢献を説いた。だが戦争放棄の九条には触れず「使命感」
「決意」「誇り」を繰り返す。
「首相自身が行けばいい」と嘆く自衛官の母。非政府組織(NGO)は「反日
感情をあおる」と不安を募らせ、イラクの子供からは「兵隊は結構です」の言
葉も。日本はどこに向かうのか。歴史の転換点に「平和国家」が揺れている。
『赤旗』
イラク派兵
占領支援盛り込む 基本計画をきょう閣議決定 反対世論を無視
イラクへの自衛隊派兵のため、国民多数の反対世論を無視し、小泉・自公政
権が九日の閣議決定を狙う基本計画の案文骨子に、自衛隊の「安全確保支援活
動」として米英占領軍などへの軍事支援活動が盛り込まれていることが八日、
分かりました。
『公明新聞』
イラク復興支援 陸上自衛隊派遣は慎重に 神崎代表が小泉首相に要請
治安状況を十分見極める 覚書で確認
首相 実施要項時に公明と相談
国民への説明重ねて求める
政府は9日午後、安全保障会議、臨時閣議を相次いで開き、イラク復興支援
特別措置法に基づく自衛隊と文民の派遣に関する基本計画を決定した。復興支
援活動の内容は、医療、給水、学校などの整備、物資輸送が中心で、派遣期間
は「今月15日から1年間」とし、派遣時期は今後、慎重に判断する方針。
・・・・・・いつもの蛇足です・・・・・・
茫猿は、アメリカの外圧に押されて自衛隊(武装した日本国民)を戦地に送る
のは反対です。それが例え復興支援という名目をまとったとしても、イラク占
領軍の要請に基づく歓迎されない復興支援であることは明白であり、憲法9条
をますます空洞化するというよりも、今や事実上の破棄に近い状態に追い込む
であろうことを危惧します。
このことを総選挙の一番の争点としなかった各政党、特に自民党について、時既に遅しとはいえ大変に残念に思います。また、専守防衛に徹する勇気や止まる勇気をもたない人々や、それを支持する新聞には失望します。
ただただ、「使命感」とか「誇り」などという勇ましい言葉を並べ立てて煽るのは卑怯であり、安全な国内にいてその決意をひけらかす小泉氏の勇気は、「匹夫の勇」に過ぎないと思います。
大事なことは歴史に学ぶことであり、60年以上前の新聞論調を思い返すべき時だと考えます。同じ道はたどらないと言いつつ、いつか行った道を通りかねないと危惧するのは、茫猿の杞憂に過ぎないのでしょうか。
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