自衛隊派遣の矛盾露呈

【茫猿遠吠・・自衛隊派遣の矛盾露呈・・04.04.10】
 邦人三名が人質となって以降の新聞その他の報道を見聞きすると、
奇妙な論調や意見を数多く見かける。
・即時、自衛隊撤退論
 論外である。テロ行為に全面屈服と云うことになる。
以後、日本は世界の何処からも信用されなくなるだろう。
それよりも重大なのは、更に過激な脅迫を受けたら、どう対処するのか。
例えば、数億ドルを支払わなければ、日航機や新幹線にロケット弾を打ち込む
といった類の脅迫が虚実取り混ぜて頻発するであろう。
・米軍に救出を依頼する。
 情報提供まではよかろう。しかし、強行であれ持久作戦であれ、救出を米軍
に依頼すれば、大きな借りを作ることになる。経費を負担すると申し出ても、
日本の傭兵申し出は謝絶されるであろう。
 もっと困ることは、この救出作戦で米軍に死傷者が出ることである。
日本は返せないほどの借りをアメリカに負うこととなる。
また、現地にいる自衛隊の立場は見るも無惨と云うことになるであろう。
 日本においては自衛隊の立場も派遣理由も理解されているだろうが、イラク
やアメリカでは、500人という一個大隊規模の重火器を装備し機動性を有す
る戦闘可能集団・JAPAN ARMY・日本軍として認識されているであろう。
・身代金を提供して救出
 人命は重い、何物にも替え難い。だから、できることは全て行うべきである。
しかし、できることと、してはいけないことを峻別すべきである。
 勿論のこと、全ての体面も行きがかりもを捨てて、三名を救出すると云うの
であれば、話は別である。
 さて、ことここに至って、自衛隊派遣の矛盾が露呈したのであるし、派遣に
伴う危険や発生する問題を正しく説明してこなかった小泉首相の責任は問われ
なければならないであろう。
・自衛隊は非戦闘地域=安全な地域に、派遣したはずである。
戦闘行為は行わないと云う枠をはめて、派遣したものでもある。
 しかし、イラクに安全な地域はなく、今や自衛隊も駐屯地の外に出られなく
なっている。
・日本人が意識する「専守防衛、海外派兵はしない自衛隊」という認識は、日
本人だけのものであり、世界的に見れば有数の軍事予算と装備をもつ精鋭軍と
いう認識が普通であろう。過去60年近く戦闘経験はないけれども。
 小泉首相がどのように詭弁を弄しようと、戦闘服を着用し常に小銃を携行す
る集団は軍隊以外の何物でもないし、それが世界の常識であろう。
・自国の軍隊『あえて軍隊と呼ぶ』が、現地に駐屯していながら、拘束された
自国民の救出を他国軍に依頼するということは、醜態以外の何物でもない。
しかし、派遣の法的根拠からすれば、救出作戦は実行できないのである。
もしも、超法規的措置をとれば、数十年前の歴史の再現ということになる。
・日本の首相は、「自衛隊の派遣は人道的支援活動を目的とする」という。
同時に同じ口で「日本とアメリカは同盟国である」といい、「有志連合国、あ
るいは有志連合軍」ともいう。
 つまり日本自衛隊は「アメリカの同盟国の軍隊、即ち同盟軍」と現地で認識
されても、何の不思議もない。現に丸腰ではなく、重火器装備の戦闘可能集団
なのである。
 いまさらに言揚げしても仕方ないが、
でも、正しく認識しておかなければならないことがある。
日本語の通じない国で、日本国憲法が知られていない国で、自衛隊の特殊性を
どれほど強弁しても無理なのである。
軍隊に対する世界の共通認識を意識しなければいけないし、彼の国はイラン・
イラク戦争、湾岸戦争、そして今度の戦争を経験してきている。
そうでなくともイスラエルが関係する数度の戦争を、直接間接に経験してきて
いる戦時国家であることは忘れてはならない。
 そこへ、日本国内でしか通用しない、難解な神学論争の果てでの自衛隊派遣
(派兵)なのである。国内的にも派遣によって生じるであろう危険の質と量につ
いて正しい丁寧な説明はなされてこなかった。
 それらの矛盾が今や全て露呈しつつある。
 では、どうすればよいのか。
今は、全力を尽くして平和的解決を図るべきである。
人命を最優先するのであれば、総理か外務大臣が現地に赴くべきであろう。
赴けないであれば、その理由と背景を国民に説明する義務があろう。
「その理由と背景」については、あえて触れない。ベトナム戦争当時の類似事
件を思い起こせばよいことである。
 結果がどのようになるにせよ、今回の人質事件が決着してから、改めて海外
派兵の当否を考えればよい。派兵によって起きるであろう危険、国益と国損。
何よりも国益とは何かが、問い直されなければならない。
「日本人一人一人の尊厳を守る」、これ以上の国益は存在しないはずである。
輸出入とか石油などというものは経済打算に過ぎず、日本人一人一人の尊厳の
前には色褪せるものとなるであろう。
 間違っても日本国家の体面と日本国民の尊厳を取り違えるようなことをして
はならない。両者は似て非なるものである。

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