見つけた周平本二冊

 周平とは言わずと知れた藤沢周平である。 97年にお亡くなりであるから、既に十三回忌を迎えている。 手紙や端書きなどを別にして新しく著作物が見つかることなどなかろうと思っていたら、未刊行初期短編集の文庫本を書店で見つけた。
 藤沢周平:無用の隠密:未刊行初期短篇 (文春文庫) 《2009年09月04日初版》
オール読物新人賞授賞以前に、マイナーな雑誌に掲載していた短編をまとめた書籍である。藤沢作品はそのほとんど全てを読んでいるが、もう新しい藤沢ものに出会うことはないと思っていたから、嬉しくて早速買い求めて読み始めている。


 収録されているのは13編、時代もの、忍者もの、市井ものなど、後年の藤沢作品の萌芽というか原型を思わせる作品の羅列である。 各編に共通するのは書き出しの情景描写のこまやかさ、所々にかいま見せる人物描写の優しさである。 ストーリー展開は脈絡の怪しいところもあるけれど、これは「又蔵の火」につながるな、これを膨らませたのは「暗殺の年輪」だなと思いながら読めば、秋の夜長がとても楽しい。
 登場以前にして既に蓄えられた背景知識や時代考証の確かさと豊富さ、習作時代ともいえる初期・周平の生硬さなど周平ファンには見逃せない一冊であろう。
 ところで、改めて書棚の藤沢作品を整理してみたら、なんとハードカバーの購入後未読の作品を見つけた。 しかも次回は最終回を迎える大河ドラマ:天地人の主人公直江兼続と石田三成をテーマとする書である。 積ん読のまま書棚で月日を経たこの「密謀」は、関ヶ原の戦いの後に幕府によって会津120万石から米沢30万石に減封された上杉家の、その後の物語にして周平の遺作ともいえる「漆の実のみのる国」へとつながるのである。秋の夜長は楽しいものである。自らの書棚の中にさえ未読の本を発見できる。 

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