本田靖春というノンフィクション作家がいる(いた)。 1933年生まれ、1955年読売新聞入社、1971年読売新聞退社、2004年死亡。 彼の最後の著述に「我、拗ね者として生涯を閉ず」がある。 彼の自伝とも云える作品であり、彼の生い立ちから新聞記者になるまで、そして自由であり、多少は無頼であった彼の記者時代を描き、死に臨む病と闘いながらジャーナリズムについて、日本人について遺す言葉を綴っている。
彼の全集は、旬報社という小さな出版社から2001年から2002年にかけて刊行されているが、その各作品を解説する面々をみれば本田靖春というライターがどのように評価されていたかが判るのである。 解説は、それを書く各氏の本田靖春に捧げるオマージュなのである。
(第1巻 誘拐/村が消えた) 「誘拐」:日本全土を震撼させた〈吉展ちゃん誘拐事件〉と、「村が消えた」:巨大開発に翻弄される青森・むつ小川原の人々を描く作品である。 解説は「誘拐」が鎌田慧、「村が消えた」は内橋克人という当代一流のノンフィクション作家が書いている。
(第2巻 私戦/私のなかの朝鮮人) 「私戦」:凍てつく寸又峡に人質を盾に閉じこもった〈金嬉老事件〉と、「私のなかの朝鮮人」:敗戦体験を踏まえた朝鮮民族への差別意識を描く作品である。 解説は「私戦」が野村進、「私のなかの朝鮮人」が三好徹が書いている。
(第3巻 戦後―美空ひばりとその時代/疵) 「戦後―美空ひばりとその時代」:国民的歌手として戦後を丸ごと背負って生きた美空ひばりの実像と、「疵」:暴力の世界に生きた安藤組・花形敬を描く作品である。 解説は「戦後―美空ひばりとその時代」が伊集院静、「疵」は佐木隆三が書いている。
(第4巻 K2に憑かれた男たち/栄光の叛逆者) 「K2に憑かれた男たち」:世界第2の高峰に挑む遠征隊長と日本山岳協会隊員との確執と、「栄光の叛逆者」:下町を主力とした山岳同士会の小西政継を描く作品である。 解説は「K2に憑かれた男たち」が足立倫行、「栄光の叛逆者」は後藤正治が書いている。
(第5巻 不当逮捕/警察回り) 「不当逮捕」:権力の闇に迫る記者の栄光と挫折、「警察回り」:ロマンに溢れた新聞社会部の黄金時代を描く作品である。 解説は「不当逮捕」が魚住 昭、「栄光の叛逆者」は大谷昭宏が書いている。
筆者は歴史教育は近代から始めるべきであると考える。 縁もゆかりもない古代から、延々と始めては興味がわかないものである。 父母や祖父母がどのような時代を過ごしたか、評価の定まらない戦後昭和史はともかくとして、近代から始めれば祖父母との共通の話題も生まれるだろう。
近代史、現代史を知らずして、近隣諸国とのお付き合いもできないし、現在がどのような経過を経て今に至ったかを知ることもできないであろうと考える。 その意味から、先にあげた五巻の書籍は庶民の側から見た戦後史を知る上で、大きな参考資料となると考えるのである。
この五巻は、刊行当時に購入したものの、一部を斜め読みしただけで積ん読状態にあったのを、最近に書棚の一番前に置き直し、少しずつ読んでいる。 茫猿にとっては、小学生、中学生、高校生の頃に新聞などで僅かな記憶がある事件の背景を知る手懸かりとなっている。 特に第一巻「村が消えた」は、3.11以後に改めて考えさせられた原発立地の背景を考える時に、誘致に働かざるを得なかった過疎地の哀しみが透けて見えてくるのである。
上記以外に、最近読んだ書籍、購入した書籍は、こんなものである。
同志社大学神学部 佐藤優著 光文社
同志社大学には、神学部がある。 茫猿は神学部卒ではないが、必修単位として宗教論を履修した。 その同志社大学神学部と神学部在学中の出来事について熱く語る本である。 同志社大学神学部卒の佐藤氏は神学は虚学であるという。 京都の町での青春の日々、神学が虚学である所以、神学部から外務省に入省する経緯、単なる青春回顧談義などではない、(同志社大学創立者の新島襄が云う)少々角あり奇骨あるも、優柔不断安逸に流れぬ、硬骨漢はいかにして生まれたかを語ってくれる一冊である。
あなたと読む恋の歌百首 俵 万智著 文春文庫
ふと空いた時間に手軽に読みたい本である。 この歳になると、読みながら、あの時ああそうだったのかとか、なんとなくニヤリとしたりという一冊である。
移行期的混乱(経済成長神話の終わり) 平川克美著 筑摩書房
日本史上まれに見る人口減少時代をどのように考えるのかを教えてくれる一冊である。
復興の精神 南直哉 他著 新潮選書
3.11大震災を、南直哉師が下北半島で、どのように受けとめているのかを知りたくて購入した一冊である。 『私にあったのは、断崖絶壁の端に立って遠くを見ているような、なすすべのない空虚である。それは、この問いに何も答えられない、という悲哀ではない。答えを断念しなければならない、という無力さなのだ。 私は彼らに届く言葉を持ち得ない。』
直哉師らしい、まさに直裁さである。 自らの無力さ、無念さを述懐しながらも、のうのうと死者を悼む常套句を垂れ流す他者への厳しい視線でもある。
中途半端もありがたい 玄侑宗久対話集 東京書籍
福島県三春町にある福聚寺住職の玄侑宗久師が、3.11を挟んで養老孟司、佐藤優、中沢新一などと対談する対話集である。 多彩な人たちとの対話であるからこそ、余計に玄侑師の姿が浮き彫りになってくるように思われる一冊である。
しかし、チョイ読みくらいならよいのだが、ハードカバーにまともに向き合うのが疲れる歳になってきた。 しかも立て続けに身近な人の死に遭っている。
平成21年簡易生命表によれば、男の平均寿命は79.59年、女の平均寿命は86.44年と前年と比較して男は0.30年、女は0.39年上回った。各年齢の平均余命表から見ると、茫猿の余命は15年とある。 でもこれは平均値で、かつ期待値だからあてにはならないし、(何よりも)、寝たきりで生きていても仕方ないのである。 なお死因別分析によれば三大死因は、悪性新生物(ガン)、心疾患(心筋梗塞)、脳血管疾患(脳梗塞)である。 死に方を選ぶことなどできないが、つくづく如何に良く死ぬかということは、良く生きることだと思わされるこの頃である。
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