不動産鑑定業界との関係位置が、日毎に遠くなっていることから当然と云えば当然のことであるが、不動産価格指数:商業地のその後に付いて一つの動きがあったことを知らずに居た。知ろうともしなかったと云うべきであろう。 さる方に不動産価格指数についてメールをお届けする機会があったことから、そういえば価格指数商業地のその後はと気になって、関係サイトである土地総合情報ライブラリーを覗いてみたのである。
2015年3月4日付け 国土交通省 土地・建設産業局 不動産市場整備課発表、「不動産価格指数(商業用不動産)の検討及び整備状況について《平成26年度不動産価格指数の整備に関する研究会》」と題する資料が公表されていた。
一読して、「やはりな、そうだろうな」という感想を得るのである。不動産価格指数という場合に、多くは住宅地指数と商業地指数に大別される。国交省土建局・不動産市場整備課もその方向で検討を開始し、2012年より住宅地価格指数の試験運用を開始し、2015年3月より本格運用に移行している。 商業地価格指数に付いては様々な課題が予想されることから、2014年度当初より検討及び試行を続けているのである。
自明に近いことであるが、不動産価格指数の基礎とする取引データは、国交省が施行する不動産取引価格情報調査に由来するものである。同調査はごく小規模地取引などを除く取引全数を調査対象としている。しかしながら、取引当事者《買主》を対象とする任意のアンケート調査であることから、その回収率は低い。正確な直近データの持ち合わせは無いけれど、おおむね30%前後の回収率に止まっているものと思われる。30%のアンケート回収率といっても平均値であり、多くは住宅地に関わるものである。 商業地に関わる都市部の法人からの回収率は著しく低くなる。以前に東京都中央区で調べてみたところ、銀座や日本橋などの商業地アンケート回収率は数%程度だった。
一般的に《不動産鑑定士的経験値として》、取引価格情報の量的確保が容易であり質的にも均質性が高く秤量比較が容易なのは、集合住宅データである。注意深く丁寧に新築物件販売データの集積を続けておれば、間取りや外観、立地条件などの属性データの収集も容易なのである。最近では中古マンション販売データもWeb上でとても充実してきている。
続いて住宅地取引データに付いて同様のことが云える。もちろん、住宅地においても取引発生件数の多い少ないは偏在するものであり、一様に質の高い基礎データを得ると云う訳にはゆかない。特に近年は更地取引データが少なくなり、多くは複合不動産《土地と建物》取引データが占めるようになっている。不動産取引データと云うものは、面的にも時系列的にも本来的に偏在するという特性を有しているのであり、市場データが偏在し不十分だからこそ、不動産鑑定士の出番があるとも云えるのであろうが。
商業地は発生取引状況そのものが偏在しているうえに、回収率の偏在並びに非回収と云うバイアスがかかってしまうのである。商業地不動産価格指数調査はそのスタートにおいて、基礎データの量的不足と質的不十分というハンデを負うのである。さらに商業地の属性データには定量的あるいは定数的把握がとても困難な要因が多く存在する。例えば繁華性の多寡とか、顧客や経営者の様相などといった要因は数値化がとても難しい。
- 資料1 不動産価格指数(商業用不動産)の検討及び整備状況について
商業地価格指数に関わる公表資料《2015.03.04》 - 不動産価格指数と公示価格推移指数 《2012.09.07》
価格指数に関わる「鄙からの発信」アーカイブ
価格指数整備研究会ではヘドニック法、不動産価格指数推計手法(リ
ピート・セールス法)およびSPAR法( Sale Price Appraisal Ratio Method)
の検討の必要性を述べているが、ヘドニック法価格指数については更なる精緻化(説明変数の追加など)を謳っている。SPAR法についてはデータ制約上、適用は困難とし、不動産価格指数推計手法(リピート・セールス法)の検討の必要性を述べている。
へどニック法については、正確性及び収集可能性の高いデータソースとして、J-REITによる不動産信託受益権の取引事例の収集を検討を述べている。リピート・セールス指数算出に利用可能なデータ件数は、ヘドニック指数算出に利用可能なデータ件数の約10~20%程度とされており、基礎データの不足と云う弱点はここでも指摘されている。
いずれにしても、商業地価格指数の作成に際しては、A.基礎とするデータの充実、B.利用可能な変数《属性データ》の充実が不可避であり、抜本的な打開策が求められていると考えられる。現行のアンケート調査方式による不動産取引価格情報調査には自ずと限界が認められるのである。 取引当事者個人の善意に頼る現行方式は住宅地取引に付いてはそれなりの成果が期待できるが、法人取引が多数を占め、より守秘意識が強い商業地取引にはアンケート回収率に限界が認められる。
これを打破するには、一つは取引情報の開示を制度化するという方法があるが、企業経営上の守秘意識を打破するのは一朝一夕では難しかろう。もう一つはレインズ情報やWeb情報などを有機的に活用すると云う手法が検討されるであろう。売出し情報その他の様々な開示情報と取引登記情報とを有機的にリンクすることにより国交省が施行する不動産取引価格情報調査を補足補充するという考え方である。
この点について国土交通省土地・建設産業局不動産業課が主催する「不動産流通市場における情報整備のあり方研究会」は2012年9月に「中間とりまとめ」を公表し、その5章(2)分散している各種情報の一元的集約の可能性と方法において、次のように述べている。取引情報に関わるハブ機能の創設である。少し長いが全文を引用する。
(2)分散している各種情報の一元的集約の可能性と方法 情報ストックの一元的整備の方策については、新たに全ての情報を一元的 (一箇所)に集約する仕組みにこだわらず、既存のデータソースとの連携に よる中核機能(ハブ)として、情報保有について権限と責任を有する各情報 保有機関との連携により情報整備を行うことも選択肢に入れた検討が考え られる。 それに際しては、協力可能な主体との連携から始め、段階的に連携先を拡 大する方向で検討することを基本とし、各種情報のデータソースとの連携の 可能性、情報収集の具体的な方法論については、可能な限りそれらの主体の 協力を得て技術的な課題を含め専門的な調査・研究を経てとりまとめていく。 また、各種情報を収集・整備・管理・提供する主体には、効率的かつ安定 的な業務執行が可能な体制及び情報セキュリティの確保等が求められるが、 具体的にどのような機関が担うべきか、一元的集約に係るシステムの調査・ 調整を進めていくことが必要である。その際に、国、事業者団体、事業者、 その他関係団体等がどのような役割を担うべきかについても明確にするこ とが求められる。また、消費者等から得られる情報を一義的にシステム入力 する事業者、業界団体においても、新たなシステム対応のため多大なコスト を要するため、その負担についても整理が必要である。 なお、各種情報の収集・整備における不動産に係る情報の名寄せの方策や セキュリティの確保方策については、不動産に係る共通IDの開発・利用を 視野に入れた検討が考えられるが、今後、その実現可能性、制度上・運用上 7 の様々な課題の把握を行っていくこととする。
※関連記事 情報整備のあり方研究会 2012年9月12日
(注)不動産の取引価格情報提供制度について《土地総合情報ライブラリー より引用》
誰でも安心して不動産の取引を行えるように、実際の取引価格情報を数多く蓄積し、広く皆様へ提供していく、国の制度です。平成18年4月より、不動産取引当事者へのアンケート調査を基に情報を蓄積し、これまでに約250万件(毎年約30万件追加)の情報を提供しています。《引用終了》
国の制度でありながらその実施に際しては、多くの不動産鑑定士の役務負担と金銭負担の上で行われているものである。 アンケート調査に伴う調査票発送費及び回収費は不動産鑑定士が負担している。同じく回収取引事例の詳細調査にも不動産鑑定士が無償で従事している。これらは、地価公示業務の一環であるとの見解のもとで、平成18年度より地価公示業務に追加され、特段の見返りを得ること無く取引情報収集に協力している。収集した取引情報の地価公示以外における利用を容認しているという見解もあるが、地価公示事例情報のひろく鑑定評価への利活用は昭和45年地価公示発足当初から当然に認められていたことである。 であればこそ、茫猿はアンケート調査の原初情報《一次データ》の開示を求めるのである。
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