茹で蛙日本の病因

今さらの話である。知る人は知る話である。世相を嘆き続けるには疲れたけれど、倦むことなく嘆き続けるのである。福井達雨氏も久野収氏も負け戦さにかけ続け、負け続けることに意味を求めていた。及ばずながら、間遠ながら、茫猿も世相に言挙げし続けるのである。

知る人は知るけれど、気づかない人は未だに「JAPAN as No.1」と気楽に構えているのでしょう。茹で蛙日本なのでしょう、出るに出られぬ、出れば風邪引くぬるま湯日本なのでしょう。少子高齢化とはいえ、今しばらくは過去の蓄えを取り崩してやり過ごせるでしょうが、どこまで続くか続けられるか茹で蛙日本。

日本の中産階級が階級ゾーンとしては痩せ細り、貧困層が増大し富裕層のさらなる肥大が進行していると漸くに言われ出している。1990年のバブル株価崩壊、1991年のバブル地価下落、1995年住専破綻、1997年山一破綻、当時は失われた10年と言われたバブル崩壊後の1990年代の十年間があった。そして、2008.9.15に起きた米国の投資銀行Lehman Brothers Holdings Inc.が経営破綻したことに端を発する世界的金融危機(リーマンショック)後、今に続く21世紀日本の経済停滞が日本の中産階級を崩壊させた。

れいわ新選組』代表の山本太郎氏が街頭記者会見で述べていることに触発されて、この1990年から2020年に至る三十年にも及ぶ長期低迷を日本経済にもたらした原因は何であったのだろうかと考えている。年の瀬に掲載する記事としては妥当なものであろう。

1.公益事業に経済効率性優先導入
中曽根民営化(JR、JT、NTTの三公社民営化)がもたらしたものは民営化による株式上場であり、その結果としてそれら公益事業への外資導入であった。もう一つの側面は総評をリードした国労など強力な官公労の解体であった。新自由主義に基づく小泉構造改革(郵政民営化、道路公団民営化)の欺瞞にも同じことが言えよう。

鉄道と郵便は公益・公共事業である。それらを民営化して公益性より経済効率性を優先させた結果、北海道や九州や四国の他にも山陰や東北などで過疎地の鉄道が次々と廃線に追い込まれ基本的インフラが消失してしまっている。過疎地の郵便局も似たような運命をたどるか、簡易保険ノルマが郵便局員を疲弊させている。

2.労働組合の弱体化
公益事業の民営化は国労や全逓など官公労を弱体化させ、労働三権のなし崩し的形骸化を招いたと言えよう。労働三権とは「団結権」、「団体交渉権」、「団体行動権」の3つをいい、労働者の基本的権利として全ての労働者に保障されている。企業内組合が多くなることにより団結権などが収益採算性や経済効率優先の前に形骸化し、非正規雇用者については組合組織の枠外に放置され、団結も団体交渉もその圏外におかれている。

働き方改革という口当たりの良い謳い文句に誘導されて非正規雇用者が増大し、今や全雇用者の4割を超えている。パートタイマー、派遣、期間雇用などの非正規雇用は本来は固定費である労務費を変動費に変え、非正規雇用者を景気調節弁と見なすようになった。何よりも同一労働同一賃金の原則が正規雇用と非正規雇用では大きく崩されている。働き方改革が大企業経営者に歓迎される所以である。

非正規雇用者の増大により日本の労働市場は不安定なものとなると同時に、賃金の引き下げ圧力として非正規雇用者市場が存在し、外国人労働者市場も引き上げ圧力として登場しようとしている。

3.ストックオプションの罠
大企業経営者が小泉、安倍と続く中産階級を痩せ細らせた自民党政治を歓迎するのは理解できる。しかし大企業に働く自らが中産階級であろう正規雇用者が自民党政治を支持することが今ひとつ理解できなかった。しかし気づいたことがある。識者に言わせれば今さらなのかもしれないが、山本太郎と『れいわ新選組』に指摘されて「そうだったのか」と腑に落ちたのである。それはストックオプション制度である。

ストックオプションとは、企業の役員・従業員らが将来の一定の期間内に、事前に決めた価格で自社株を取得できる権利である。いわば自社株が将来上昇することを前提にした報酬制度である。権利をもらった社員は、株価が上昇した時点で権利を行使し、会社の株式を取得、それを売却することで、差益(キャピタルゲイン)を臨時報酬として得ることができる。ただし株価が低迷すれば権利は水泡に帰することになる。

導入は80年代の米国。シリコンバレーのハイテク・ITベンチャー企業が上場し、高額のストックオプション益を手にする“長者”が続出して話題になった。日本では97年の商法改正で解禁になり、その後、公開、非公開を問わず、ストックオプションを導入する企業は増えている。2003年10月末時点での導入企業数は1,207社。最近の商法改正では、権利の付与対象者の制限枠がなくなり、弁護士、コンサルタントなど、社外の協力者にも付与できるようになった。

もうひとつ、これに似た制度に社員持ち株制度がある。従業員が給与天引きなどで継続的に勤務先の会社の株式を買う制度。こちらのほうが歴史は古く、現在、上場会社の9割強、また、未公開企業でも約4000社が採用している。実際の株を購入するところが、ストックオプションとは違う点。価格変動によるリスクがあるが、株価が上昇すれば大きなキャピタルゲインが期待できる点は、ストックオプションと同様である。

うまくいけば、普通のビジネスパーソンでも、ストックオプションや持ち株を利用して個人資産を形成することができるが、これも正規雇用者のみに与えられる権利であり、非正規雇用者には何もない。

その昔に、庶民が財産を作るには、株投資しか無いよと教えてくれた縁者がいた。その時すでに茫猿は五十を超えていて株を学ぶには遅かったけれど。株式投資のリスクを負担することなく、大企業に正規雇用者として所属していれば、社員持株会あるいはストックオプション制度の導入により「株価維持、株価上昇」への期待値を高めさせられている。

いわば「株価差益の獲得」というニンジンを目の前にぶら下げられて、ひたすら走ることを求め続けられている正規雇用労働者という存在が、結果として日本を崩壊させつつある。(八朔と白の山茶花を撮ってみた。歳末風景でもある。)

安倍内閣が何をしたのか、しなかったのかについても語らねばなるまい。ストックオプション制度にあずかる者たち(正規雇用者たち)と蚊帳の外に放置される者たち(非正規雇用者たち)のせめぎあいは、労組に守られる者たちと労組の埒外に置かれる者たちのせめぎあいでもある。

安倍内閣は「異次元の金融緩和」と称される政策で、超低金利を持続させ国債の日銀引き受けを異常なまでに増加させた。そして株価を維持し自らの長期政権を持続させている。他には「モリ・カケ疑惑」、「桜を見る会疑惑」、「度重なる公文書の改ざんや廃棄」、「トランプ大統領へのゴマスリ」、「海外視察でのバラマキ」、「異様な韓国対応」、「手付かずの拉致問題」、「小手先遊びで混乱させた入試改革」、「無策の少子化対策」などなど、どれもこれも内閣総辞職ものだが未だに居座り続けている安倍内閣である。

急激な人口減少は高齢世代を支える現役世代を縮小させ、同時に次世代も減少させるマイナスのスパイラルは今後三十年続くとも五十年続くとも言われている。人口回復の特効薬が見当たらない以上は、移民に頼るか、縮み経済に耐えるか、対策は限られていよう。

国債日銀引き受けも限界が近づいているだろう。昔、「花見酒の経済」という笠信太郎の本が話題になったことがあるが、今や「いつまで続く桜を見る会」なのである。タガのはずれてしまった新自由主義の災い、偏在する富の存在をどうするか、富者が貧者に手を差し伸べるだろうという期待が消え去り、富の格差が広がるだけでなく機会の格差さえ大きくなり固定化された災い、それらの災いを如何にするか問われている。

《追記》以上に記したような「合成の誤謬」あるいは「弱者同士のせめぎあい」については、また別記事で語ることもあろう。さて本日、賀状を投函した。止め時を探しつつも、今年も賀状を作成したのは今月の十日頃である。宛先だけは手書きで、それに一筆添えようと考えていたが、二十日も過ぎて一向に宛名書きを始める気分にならない。

生来の悪筆が脳梗塞の影響や老化現象などもあって、今や見るに耐えられないものとなってしまった。そこで止む無くアップル基本アプリの「連絡先」アドレス帳と親和性の高い宛名書きアプリをネットで購入し宛名印刷を終えたという訳である。宛名も文面も印刷もの賀状ということであるが、文面は茫猿独特のものだから多少は許されようと考えている。《賀状を2020.1.1に記事掲載するのは例年と同じである。》

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