線状降水帯

 熊本県の球磨川流域で線状降水帯発生による異常な大雨が降り、球磨川が氾濫した。線状降水帯という用語は昔は聞かなかった言葉である。地球温暖化現象や超大型台風などと並んで最近よく聞かれる気象用語である。

線状降水帯』 – 日本気象学会
線状降水帯とは』 – ウェザーニュース

 揖斐川と長良川に挟まれた海抜ゼロメートル地帯である輪中地域に住まう者としては、球磨川の水害は他人事ではない。 いつかは我が身にも降りかかるかもしれないことであり、高齢者の域に至った身でもあれば生きているうちには避けたいことでもある。

球磨川に掛かる橋が崩落し、河川堤防を越えて溢水しているように見える《日経ネットより引用》

 球磨川水害では高齢者施設に大きな人的被害をもたらしたようである。詳しくはまだ判らないが、とても痛ましく悔やまれることである。近年は河川施設の整備が進められてきているはずであるが、それでも中小河川を中心にして災害が頻発するようになった。球磨川は人吉市を流れる一級河川であるのに破堤したようである。

右上の住宅地より明らかに低湿地に老人施設は建設されている《日経ネットより引用》

 球磨川流域では、24時間降水量が500mmを超える局所的大雨が降ったようである。局所的降雨であるだけに予測も難しいようで、高齢者の避難が遅れたことも被害を大きくしたようで痛ましい。揖斐川や長良川の上流域である揖斐山間地や郡上山間地に同様の線状降水帯による大雨が降ればと考えれば、寒気がする。

 台風や梅雨末期豪雨などの水害については経験値が役立たないようになったようである。異常気象について”高を括る”ことなく、慎重な早め対策を心がけするようにしたい。

 上掲二枚の地図は、国土地理院が収集した画像等と標高データを用いて、浸水範囲における水深を算出して深さを濃淡で表現した地図である。時点情報のため、最大浸水範囲を示したものではない。実際に浸水のあった範囲でも把握できていない部分、浸水していない範囲でも浸水範囲として表示されている部分がある。最大浸水深さは8mに達すると推定される。

 地図を見れば解る事であるが、右手上流から人吉盆地に流れ込んだ球磨川は、左手下流の球磨村山間地に至って川幅は狭隘となる。人吉駅付近から渡駅にかけての球磨川は川下りで有名な急流でもある観光地である。人吉盆地より右手上流側に降った線状降水帯発生による異常降雨は、人吉盆地を抜ける左手球磨村山間地に至って狭隘となる川幅に阻まれて破堤や溢水を引き起こしたものと認められる。

 軽々に破堤原因を云々することはできないが、①線状降水帯発生による短時間異常降水、②人吉盆地の地勢と球磨川急流である河川の狭隘幅、③予測を上回る降水量に堤防高と堤防強度が耐えられなかった、以上の三点が考えられよう。

 多数の被害者を出した老健施設・千寿苑は人吉市の下流側、球磨村渡地区に位置する。球磨川と支流の合流点に位置し、球磨川が人吉盆地から山間狭隘部に入る地点でもある。球磨川に合流する支流の逆流現象が起き、同時に球磨川も逆流現象が起きたものと推定される。その為に溢水が堤防を越えて施設に浸水したのであろう。

 このような類似する被害が起きるたびに思わされるのは、身体的弱者が居住する施設が立地するに相応わしく無い場所が選ばれている理不尽さである。低湿地や忌地が選ばれることの多い理不尽さである。高台で陽当たりが良く風通しも良い、それでいてアクセス道路も通じている、そんな良好な住宅地が選ばれることなど殆ど無い。弱者対応施設の立地条件と経済合理性が相反関係にあることなど自明であるだけに、余計に理不尽であり遣り切れない。

 2011.10.14 に茫猿は熊本市で開催された不動産鑑定フォーラムに参加し、翌日は熊本県士協会がご用意頂いたエクスカーションツアーに参加した。肥後相良藩城下町を訪ねる人吉ツアーである。人吉ツアーは熊本駅に08:00集合、球磨川下りを楽しみ、球磨川鮎尽くしを堪能し、SL人吉号で熊本に帰ってくるという、鉄道ファン茫猿にとっては垂涎のコースでもあった。 今も記憶に残る清流球磨川が氾濫したのである。
時刻表の無い旅・人吉編 : 2011年10月23日

関連の記事


カテゴリー: 茫猿残日録 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください