【茫猿遠吠・・何はともあれ良かった・・02.05.24】
父母が中国警官に取り押さえられる一部始終を、涙を浮かべて見守る幼児
と、その直ぐかたわらで傍観する日本領事館員という映像が全世界に配信さ
れることにより始まった事件は、5名の北朝鮮難民が韓国に到着することに
より一応の決着をみました。日中間の領事館域侵犯というもう一つの事件の
結末はまだまだ遠い道のりでしょうが。
何はともあれ良かった。ほっとしました。あの幼子にも頬笑みがもどるで
しょう。でも、本当のところは何も終わってはいない。始まったばかりといっ
てもよいでしょう。
それは将来、或いは極く近い将来に予想される、北朝鮮の飢餓と大量の難
民に日本と日本人はどう対処するのかということです。
日本には彼等北朝鮮国民の親族も多い。日本国籍を取得した人も在日身分の
人も含めれば百万人を越えるであろう彼等の親類縁者を頼って、来日が予想
される難民の数は予想不可能です。
一旦有事の時にどう対応するのか。腰が定まっていないというよりも、問
題先送りをしたいという政府の姿勢を私達はどう考えたらよいのでしょうか。
瀋陽の亡命者連行事件関連ニュースの中で、茫猿が大変気になったことが
あります。
それは小泉首相が民主党瀋陽領事館調査を捉えて自虐的調査と表現したこと
です。そして彼は国会答弁で「自虐的調査と云う表現」を言論の自由だと主
張しました。首相の発した自虐的調査と云う言葉を耳にして連想したのは自
虐史観という言葉です。太平洋戦争を大東亜戦争と表現し、近隣諸国から指
弾される教科書を編集する人々は、戦争を反省する人々を評して「自虐史観
派」と云います。
有事法制整備を急ぎ、海外派兵や米軍との共同作戦のみを優先する小泉首
相は、靖国神社公式参拝と憲法改正しか頭にないのでしょう。
彼の願う改革は「日本を普通の国にするということ」であろうが、それは軍
隊保持と交戦権を憲法に明記することなのでしょう。
そして対立派を「自虐的調査」と切り捨ててしまう態度は、有事に際して
国民の一致団結を求め、対立派の存在を認めようとしない人々につながるよ
うに思えてなりません。それは、「多くの良識派やラジカル派を非国民と称して切り捨てた」過去の歴史にもつながるモノでしょう。
外務省の事なかれ主義は破綻しているのでしょう。しかし、事なかれ主義
は外務省や霞ヶ関だけの問題ではなく、日本全体の問題なのだと思います。
合併人事の事なかれ主義から生じた、みずほ銀行のコンピューターネット
のエラーだって、根っこは同じでしょう。
和をもって貴しとし、争いを避ける考え方は一見美しく見えます。
しかしそれは、異端を排除し、蛸壺的論理や内向き論理につながり、内輪の
都合を優先し事なかれ主義に陥り易いものです。
「そうは云っても、現実は」という決まり文句で、異を排し現実に妥協し、
現実に添い寝する私達自身が問われているのだと思います。
不動産鑑定業界だって同じだと思いませんか。
現実に添い寝する業容拡大主義、何かと云えば官公庁の顔色を窺う地価公示
至上主義、自分たちの情報閉鎖姿勢を棚に上げて情報公開を求めるご都合主
義等々、思い当たることばかりです。
太平洋戦争中のことですが、外務省に「杉原千畝」という硬骨の外交官が
いました。彼はリトアニア領事館勤務中に本省命令に抗して、ユダヤ人難民
に大量のビザを発給しました。その硬骨の故に、彼は外務省を解職されまし
たが、彼が今在りせばと思います。
彼だけではありません。己の主義と信条を大切にし、他者の主義主張に虚
心に耳傾けるリベラル派が少なくなっている日本の在り様をとても寂しく思
います。
「杉原千畝」氏については、下記サイトから。
http://www.town.yaotsu.gifu.jp/spot/sugihara/sugihara.html
・・・・・・いつもの蛇足です・・・・・・・・・
尊敬する「久野 収」氏の言葉を再掲します。
「少しでも理想に向かうことが我々の勝利であり、どんな敗北の中からも民
主主義完成の契機がある。どんなに敗北を重ねても負けない自分がここにい
る。それが人間の勝利であり、それ以外の勝利を考えるようになると組織や
運動はもちろん人間の堕落が始まる。」
茫猿は折にふれて、この言葉を再掲します。茫猿自身の為に。
・・・・・・・本日これまで・・・・・・・
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