取引価格情報開示制度の行方

2011年も六月に入った。 6/21には鑑定協会総会が予定されている。新公益法人移行手続きが順調に進めば、今月の総会は現行体制における最後の総会となるのであると同時に、三月に実施された役員選挙において当選が確定した現行社団法人における最後の役員任期が始まるのである。 この2011年度新役員任期の開始を前にして、茫猿が優先課題と考える幾つかの事項について、その現状と展望を述べてみたい。
なお、鑑定協会における平理事(茫猿のポジション)などは、何もできないとか、理事会は追認機関に過ぎず無力であるなどと言う会員が多くいるし、過去に任期を勤めた理事のなかにも同様の趣旨を述べる方が少なからず存在した。 茫猿も平理事にはさほどの力は無いと同感であるが、それもやり方しだいであると考えるのである。


平理事が会長指名の副会長や常務理事に選任されることも無いではないが、地方の小規模士協会を出身母体とする理事にとって、それらは望外のことである。 しかしながら、自らの力を発揮できる委員会に配属を希望し、それを叶えることはあながち不可能なことではない。
そうおうの実績や所信を背景に働きかけを行えば、希望する委員会に配属されて自らの所信を実現させ、さらに理事会においてそれを鑑定協会の施策として実現させてゆくことも不可能ではないのである。 茫猿はそれらの水面下の活動を既に開始しており、実現の可能性も少しは見えてきていることを背景にして、茫猿が考える当面の優先課題並びに選挙公約事項について述べてみる。
無投票で選挙が終わったことから公開はされなかったが、茫猿は選挙広報において、その立候補所信を次のように述べたのである。

 (社)日本不動産鑑定協会の新公益法人へ円滑な移行に努力すると同時に、Rea Net ,Rea Map並びにRea Reviewのさらなる充実に努力します。また新スキーム調査の負担軽減と有効活用に資する施策の実現に努力します。

先ずは取引価格情報開示制度の行方についてである。 取引価格情報開示制度、いわゆる新スキームは曲がり角にあると言われて久しいのである。 地価公示評価員が負担する「事例調査業務」の負担の重さ、並びに事例調査を行う公示評価員の負担と、調査結果としての事例を活用する会員の受益との乖離が近年ますます大きくなっているという指摘に、如何に答えてゆくかが喫緊の課題なのである。
「北谷菜穂子氏が公開している寄稿論文「難しい試験に受かったのにやってられねー僕らの行く末は?」by Mr.X(ダイジェスト版)も先日、最終回が開示された。 そこで改めてX氏の提唱するところを振り返り、同時に茫猿の考えを述べてみたい。
Mr.X は、鑑定評価の現状を次のように認識するのである。

「説明責任以前に、依頼者に迎合する鑑定(エクスキューズ鑑定:依頼者が言い訳に使いたいために自分に都合のいい価格を求めさせる鑑定)やマーケットの価格情報を単に追従し鵜呑みにする鑑定(スワロー鑑定)で信用を失っている。」
「鑑定業界はすぐれて信用産業であるが、信用と鑑定業界が同時並行で崩れつつある。そして、これはいずれ業界のみでなく、鑑定評価制度自体が崩れかねない危険性を孕んでいる。」

前項については茫猿が度々述べてきたことであり、Mr.Xがエクスキューズ鑑定と呼ぶ事象について茫猿は「Client Influence Problem」と呼んできたのである。Client Influence ProblemからRea Review 制度創設提唱に関わる経緯は、当サイトの関連記事をカテゴリ:Rea Reviewにて検索してお読み頂きたいのである。
次項、「鑑定業界はすぐれて信用産業である」について茫猿は「鑑定業界はすぐれて情報産業である。情報産業の業としての成否はその信頼度に懸かっている。」と言い換えたい。鑑定評価というものが、不動産に関わる情報の収集・処理加工業であり、情報を提供することを生業(なりわい)とするものである以上、提供される情報への信頼度は提供者への信頼度如何に懸かっていると云えよう。 信用か信頼かのいずれにしても、字句のあれこれを問うことには何の意味もなく、茫猿が申し上げたいのは不動産鑑定士が自らの業の本質を正しく理解していないことに問題の本質が存在するということなのである。
鑑定評価書を発行できる国家試験合格者などという皮相的な理解に止まっている不動産鑑定士では、自らが発行する鑑定評価書の地位を高めるために何が必要とされているかが理解できていないであろうと云うのである。 自らを情報処理加工業であると認識すれば、先ずは情報の質と量が問われるであろうことは、類似の情報産業を比較するまでもないことである。 情報の網羅性、即時性、当然に正確性が問われることも云うまでもない。
次に情報提供者であることから、情報の処理加工能力が問われるであろう。 最新・大量・正確な情報であっても、羅列情報を届けられた依頼者は途方に暮れるだけであろう。依頼者が求める情報、役に立つ情報はどの情報なのか、それらの情報は過去の傾向として何を示しているのか、今はどのような状態にあるのか、そして最も重要なのは、今後どのような傾向を示すのか展開をしてゆくのであろうかということにあろう。
Mr.Xは鑑定評価評価におけるザインとゾルレンに関連して、以下のように述べている。

 ひとつは単なる市場価格を求めるだけではなく、さらに踏み込んだものを求めるべきである。依頼者に迎合する鑑定は時代遅れであるだけでなく、鑑定評価の信頼性低下をもたらす元凶とさえなっている。これは正常な依頼が豊富にあったときのお目こぼし的な需要でしかない。またマーケットの価格情報を単に追従し鵜呑みにする鑑定では市場のいいなりであり、依頼者のほうが詳しい場合、なんの付加価値もなく馬鹿にされ、業界崩落のきっかけとなってしまっている。
したがって今後は、チェック鑑定へ舵をきるべきである。チェック鑑定とは、市場で観察される価格がオーバーシュートしているか否か、異常値でないかどうかの判断を踏まえた鑑定であり、本来の正常価格といえるものである。

不当な鑑定評価報酬の切り下げ競争を止めさせ、鑑定評価が市場に信頼される制度に戻し、鑑定評価の基盤である「取引価格情報収集・開示制度」を拡充しその機能を高めてゆく幾つかの施策をMr.Xは提言している。それらの提言に見るべき処は多いが、それについてはMr.Xの論文をお読み頂くとして、茫猿は以下のように提案するのである。
一、鑑定評価の不当な廉売競争を止めさせ、市場の信頼を復活させる施策
かねてから提案する「Rea Review 制度」の実現を提案する。 制度の詳細については、「Rea Review 制度創設提案」記事並びに、本サイトをカテゴリー「Rea Review」で検索してお読み頂きたい。
Rea Review は鑑定協会に資金的あるいは労役的負担を発生させないと云う点で、直ちに創設が可能な制度であると考える。 その効果は直ちに発揮されないであろうが、鑑定評価の依頼者に制度が正しく認識されれば、大きな効果が得られるであろうと考えるものである。
一.新スキーム負担と受益の均衡化施策
Mr.Xの言うフリーライダーを排除し、調査を担当する公示評価員と調査済み事例を利用する受益者との間の不均衡を是正するためには、Rea net-Rea Jirei を拡充するのが近道であり合理的であると考える。
いわゆる三次事例(新スキーム事例)も五次事例(公示等作成事例)も、その閲覧はRea Jirei による閲覧に限定する。 限定することによりRea Jirei のLog(閲覧記録)を利用して閲覧利用に伴う課金を請求すればよいのである。
この手法は「ReaNet接続の全面開示を求める」記事にその一端を示しているのであるが、要するに事例閲覧を希望する会員は鑑定協会が提携するクレジットカードを登録し、カード会社は閲覧Logを基にして会員に閲覧料のカード引き落としすればよいのである。 この方法を採用すれば鑑定協会における事務負担はほとんど発生しないのである。
事例作成役務を提供した会員には、集められた閲覧料を作成件数に応じて配布すればよいことである。 この際に士協会毎の閲覧料の多寡とか、個々の事例における利用頻度などをどのように配分するかが問われることであろうと予想されるが、取引価格情報開示制度の本質は鑑定士の協同作業であり、近視眼的閲覧頻度とか利用価値などは無視すべきであると考える。 すなわち取引事例なるものは網羅性にこそ意味があり、個々の事例の有用性とか限られた期間における利用価値などは捨象すべき事項であると考えるからである。
Rea Review制度やRea Jirei制度提案に一瞥も与えない役員や会員が多いことは承知している。しかし、現実的でないとか、意味が理解できないとか批判する会員に限って、無意味な精神論や倫理論を言うだけであり、実現可能な実効性有る対案を示した例を、茫猿はかつて知らないのである。
鑑定評価制度が創設50年を迎え、制度創設当時の目的や目標を見失っている今こそ、抜本的改革を行うときであろうと考える。過去の経緯や現実論に足元をすくわれてはならないと考えるのである。茫猿の提案を批判する役員も多いが、同時に積極的に賛意を示す会員も少数とはいえ存在するのである。 茫猿は以上二項の実現に向かって努力したいと考えている。
両提案の細部には詰めなければならない検討事項が多いと考えるが、注意しなければならないことは枝葉末節に目を奪われて、本質を見失うことである。肝心なことは鑑定評価の信頼を回復することであり、鑑定評価の根幹であり鑑定士の米櫃である事例ファイルのさらなる充実と取引価格悉皆調査制度を鑑定業界固有の制度とする実体の確立なのである。
【今朝の庭】
いつの頃だったか記憶にないが、随分まえに山取りして庭の隅に植えておいた木が今年は満艦飾に花を付けている。 こんなに美しく飾るのかとまじまじと眺めるのである。背丈を少し上回るほどの灌木だが名前は未だ知らない。

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