バブル荷担の反省

-不動産鑑定99年3月号巻頭言に応えて-
 不動産鑑定99年3月号の巻頭言(朝日新聞・山本努氏)の叱責に、私は、些かの身びいきと反省を込めて、次のようにお答えしたいと考えます。


 地価がGDPの伸びに連れて、上昇してゆくのは当然の帰結ではあるが、経済活動の在りようの変化に伴って、下落地もあり、上昇地もありという状況が生まれるべきであると考えます。そのことが新しい投資行為を誘導する因子でもあります。
 小生は十数年間、某ロータリークラブに所属していますが、ロータリー会員の小生への問い合わせは常に「値上がる土地は何処か、イクラまで上がるのか」というものでした。その折りに小生は答えて曰わく、「地価は必ず下がります。だから投資目的や投機目的で取得するのはお止めなさい。今、事業拡張で必要ならば、今が買い時です。今、居住用地で必要ならば、今が買い時です。」と答えました。
 このカウンセリングに間違いはなかったと、思っています。東京都とアメリカ一国を交換できるなどと幻にもならないお伽噺を語るのは止めましょうと言っておりました。 某労組の講話では、連合が土地の不買運動を数年間行うことを勧めもしました。 又、1980年代後半から以下の理由で地価は将来下がると各所で伝えて参りました。
今でも居住家屋は戸数のみを捉えれば世帯数を上回っているのに、更に小子化が進行して参りますから、全国的に見れば住宅過剰時代が到来します。
 更に、ライフスタイルの変化と農業生産のあり方、特に農家の高齢化と米価の低落が平坦地の余剰を生み、工業生産のあり方の変化が追い打ちをかけます。
それらの変動要因を抑えているのは、固定資産税等の保有コストが著しく低いこと。同時に日本の都市計画や土地利用計画が限定列挙主義でないこと。及び、居住用家屋の品等が劣り、長期の使用に耐える住宅建築を誘導する政策を実行してこなかったこと等に帰因すると思います。(将来的な食糧生産の逼迫は論旨の外です。)
 それらの外的要因を指摘できるにしても、鑑定士は当時から不動産並びに地価のマクロ的な状況を説明し、今頃になって収益価格を声高に語るならば当時より収益採算分析を社会に示す努力を行ってくるべきだったと反省します。
 一歩譲って、時の地価を反映した評価を行わないと、それでなくとも困難な公共事業用地取得が更に困難になる状況があるにしても、困難さの緩和が地価変動に連動する評価と担当職員の努力に待つような状況を、少しでも改善する努力を続けるべきだったと反省します。さらに言えば、バブル期の反省なくして、「不良債権担保不動産の適正評価手続き」や「収益価格一辺倒の風潮」に流されることを、自ずから戒めるべきと考えます。
 このような反省にたって、今の鑑定業界が直面する課題とその方策について、小生は以下の様に考えます。
a.情報網の整備
 インターネットやイントラネットを整備して、情報交換や会議連絡業務の合理化を図ると共に鑑定業界内の情報受発信を活発化する。同時に一般社会への情報発信を充実することにより、正確で新しい不動産情報を市民に提供する。そのことが、土地に対する過去の神話の復活を阻み、有効で且つ適切な土地利用を進めてゆく力になると思います。
 行き過ぎた下落も、経済性を離れた暴騰も、社会にとっては有害無益なものです。
b.土地情報収集体制の充実と利用の拡大。
 土地取引情報の悉皆調査を実施し、土地センサスを作成し社会に提供することが大切だと考えます。国民の重要資産でありながら、正確な動態が把握されていない状況は、有効適切な施策を実現する上での阻害要因であり、同時に公共投資の投資効果の測定もできない状況にあるのです。
c.GIS(地理情報システム)に本格的に取り組む。
 以上のa・b両事業は、鑑定評価の精度を高め、社会の信頼を回復するのみならず、大量の的確なデータ提供により、公共の益に資するものと考えます。
 更には、不動産は地図を離れて有り得ないことから、地図情報或いは地理情報システムにも取り組むことにより、地図システム業者と自治体との間に鑑定士は位置して市民感覚で事業をリードすることも視野に入れるべきと考えます。
 地図システムは今後の市民行政に不可欠なものであり、税務・上下水・土木・防災・介護福祉等の行政施策に有効なツールとなり、事業効果の追跡にも有効です。
 我々自身のネットワークの充実、情報基盤の整備、周辺関連分野のノウハウの蓄積により、業界内にあっては周辺分野への事業拡大を助成し安定性を高め、対外的には不動産情報の公開度及び情報発信度を高めることにより公益性と信頼性を高めることができると考えます。

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