鑑定士の勘違い二つ

少なからずの不動産鑑定士が陥りやすい勘違いが、二つあります。
一つは「鑑定士は自由業であり、自主独立性が高い」という勘違いです。鑑定士は自営業ではあるが、非自由業です。考えてもみて下さい。何時来るか判らない鑑定依頼を待つ身の辛さを。しかも、二日酔いでも、風邪で熱があっても代わりが居なければ、遠くの現場に出かけなければならない辛さを。「夏の暑い日に炎天下の道を歩く辛さや、冬の寒い日に吹き曝しの現場を歩く辛さを」想像してみて下さい。何処が自由業ですか。中には「小なりといえども一国一城の主だから、君の指図は受けない」と、宣う方もおられます。指図などする気は毛頭ありませんが、地価公示等で自分以外の鑑定士が、集めて整理してくれた情報無くして鑑定評価ができますか?


他の資格業種は固有・独自・限定情報に基づいて、弁護し税務し監査するのでしょうから、士会組織提供情報に委ねる部分は、鑑定士に比較して遙かに少ないでしょう。しかし、鑑定士は所属する単位会の提供情報ネットからはずれたら仕事ができません。仮に行っても、膨大な時間と経費がかかるか、もしくは著しく杜撰な成果しか挙げられないでしょう。
だから、不動産鑑定士は、互いのネットワークに支えられた自主自営業種なのです。鑑定士を志す若い人の為に付け加えれば、ネットワークが整備充実すれば、鑑定士ほどいい資格業種はありません。春は野道の花々や生け垣の新緑を愛でながら、夏は水田をわたる涼風を感じながら、秋は紅葉を楽しみながら、冬は現場先各地の鍋料理を楽しみながら、仕事が行える、素晴らしい資格業種です。時に自然に囲まれ、時に都会の雑踏を楽しむ人間観察・路上観察の一面もある「社会事象分析業」です。
今一つのそれは「価格・賃料情報」にこだわりすぎることです。
よく言われます、「価格の無い情報は無価値、賃料の無い情報は無価値」と。本当にそうでしょうか。少し、想像してみて下さい。虎ノ門2丁目の土地建物の評価依頼を受託したとしましょう。その時に、虎ノ門1丁目から3丁目にかけて、過去5年の間、どんな取引が発生したのか、どんな賃貸建物が建設されたのかを知ることはとても重要です。勿論、価格や賃料が判明していれば最高です。
しかし、価格も賃料も不明でも、取引発生の有無と件数、建物建築の有無と棟数が判れば、追跡調査はさほどに困難なことではありません。少なくとも、発生の有無を調査するよりは、時間も経費も少なくて済みます。何より、評価受託地の隣地が2年半前に売買されていたと、後から知るようなことはないでしょう。更に、1丁目地内には20件の取引があり、3丁目地内には10件の取引が発生しているのに、対象2丁目地内ではゼロ件であった等という情報は、地域環境の推移状況を把握する上で、大変重要な情報です。
別の一面を言えば、自分にとって無価値で不要な情報も、他の誰かにとっては大変有用且つ重要な情報かもしれません。情報の収集整理共有とはそうゆう事なのだと思います。単独で何時必要になるかもしれない情報をストックするのでは、時間も経費も幾らあっても足りません。しかし互いの力を合わせれば、コストは低減し合理的な情報ストックが実現するのです。鑑定士ネットワークとはそういうことを指すのです。

関連の記事


カテゴリー: 茫猿の吠える日々 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください