都 イズチ

 如何なる組織も、何らかの目的や目標があって形成される。
例えば鑑定協会ならば、鑑定評価の地位向上、技術向上その他、定款に
記載される目的をもって組織形成されるものである。これは公益法人で
あろうと、営利法人であろうと、NGOであろうと同じことである。
 しかし、多くの場合というよりも、歴史の教訓は組織の誕生と時を同
じくして組織創成の目標がいつの間にかすり替わり、組織維持が目標と
なることが多いことを教えている。出発当初において、組織の為に組織
を造る者はいないと普通は考えられるが、誕生した組織は予定調和的に、
自己増殖、自己防衛本能を組織内にビルトインする場合が多い。
 勿論、最初の内は組織目的の遂行の為に、目標に着実に到達するため
に組織増殖を図らんとし、組織防衛を図ろうとするものであろう。しか
し、残念ながら組織の強化・肥大とともに、組織の増強維持のみが優先
されるようになるのは皮肉な教訓である。
 すなわち、目標遂行に忠実であろうとする組織の姿勢が、組織に忠実
であれとする方向に変化し、組織に忠実でないものを排除する方向に変
化していった事実は枚挙にいとまが無いというのも否定できないことで
ある。言い換えれば、組織目的や目標に忠実であろうとすることと、組
織に忠実であろうとすることが背反分離する皮肉が認められるのである。
 昨今話題の警察、自衛隊、農水省構造改善局(省益・局益)等の不祥
事は、その根元をここに見ることができるのではなかろうか。本来は市
民国民の安全確保や農業の構造改善が目的であり目標であったものが、
いつのまにか悪しき組織論理を優先させ、組織維持を優先させ予算確保
を優先させていった結果が、今日の状況を招いていると云えるのではな
かろうか。
 総選挙も近いが、有力代議士の後援会組織防衛事情が二世議員を誕生
させる有力な、時には唯一の目的と化している例はあまりにも多すぎる
し、そのことが政治をますます悪くする方向に作用している。
 小渕後継の「青き森の中政権」が、この最も卑近な例であるとすれば、
あまりにも悲しい事象です。
 政治の世界や官僚の世界のことはさておくとしても、私たちの身の回
りにもこのような例は多いのではなかろうか。前例踏襲、前年踏襲主義
で運営され、事なかれ主義が跋扈する例が多すぎると感じるのは茫猿だ
けでしょうか。それでは、何故にこのようなことが起きるのでしょうか。
 一つは、前任者あるいは担当者への遠慮や気兼ねが原因であることが
多いでしょう。組織や事業を立ち上げ、運営に努力してきた先輩への配
慮があればこそ、当該事業の見直し、廃止は提案できにくいものです。
 特に先輩諸氏が力をそそぎ成果を上げてきた場合には、彼等先進の意
向を損ないかねない改革提案は言い出し難いものです。
 しかし、それよりも大きな理由は、後輩・後進自身のなかに見つけら
れるのではないでしょうか。過去の成功体験に囚われ、現状のぬるま湯
に安住し、改革や改善につきまとう軋轢を避けようとする事無かれ主義
や、新しい企画を起案し、説得し立ち上げようと云う意欲の乏しさ、自
己の殻に閉じこもる無気力さこそが、目標を失った組織を温存させ、目
的を見失った事業を温存させる大きな原因ではないでしょうか。
 人間社会に存在する組織は、基本的に有機的生命体の結合から構成さ
れるものであります。とすれば、組織も有機的生命体であることは当然
の帰結であり、日常的脱皮(新陳代謝)が必要であり、周囲の環境変化
に適合してゆく不断の行為が求められるのではないでしょうか。
 規制緩和・規制撤廃が至上命題であるなかに、鑑定協会も公益法人の
本来の在り方を模索することが求められ、受益者自らの発議としての事
業廃止・改善が求められているのではないでしょうか。
 そういう時代には、右隣が行うから遅れずについて往こうとか、左隣
が行わないのだから我々も踏み出さずにおこうという姿勢こそが問われ
るのだと思います。
 外圧(外国からの圧力であれ、組織外からの圧力であれ)によっての
み、変革が可能な組織は、既に死に体であると云えましょう。自己変革、
自助努力は今に限らず、日常的に求められていると云えましょう。
 組織防衛本能がビルトインされている組織ではなく、恒常的変革本能
がビルトインされている組織が求められていると考えます。
 この連休に某旅荘で出会った掛け軸に、こんな辞がございました。
「都、イズチ(何方)  問ヒノ、サ中ニ」 柳 宗悦

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