賃貸事例収集について

 某日、某筋から可能な限り多数の賃料事例を収集する方法を、不動産
鑑定協会として立案できないかという示唆があったようです。
 茫猿は先の私案を踏まえて以下の提案を致します。検討に値するか否
かは兎も角として、何かの叩き台になればと思います。
 先に掲載の「茫猿遠吠・インデックス事業私案・00.07.01」と併せて
お読み下さい。
 利回りデータ(賃料インデックス或いは収益・投資インデックス)に
ついて、より精緻なもの、より的確なもの、より汎用性の高いものを作
成しようとすれば、基礎となる賃貸事例データ等の質と量如何に左右さ
れるのではないでしょうか。
 そして、専門家集団として豊富且つ的確・適切な収益関連データの整
備が今こそ求められているのではないでしょうか。
・では、如何にするか。まず都市圏では。
 都市圏では既にシステマチックにデータ収集を行い、収集したデータ
の有償頒布も行っている既存の組織が複数存在するわけで、その収集方
法に学ぶか真似るか、別の方法を考えるか、提携するか。選択肢は少な
いようでもあるし、多いようでもある。
 いずれにしても、既存の収集組織の存在や競争相手の存在を意識すれ
ば、調査対象も広く大きいだけに事業採算性の視点が不可欠であろうと
考えます。
・地方圏ではどうか。
都市圏にみられるような、既存のデータ収集頒布組織がない。単位会も
頒布はともかくとして、収集体制が整備されているとはいえない状況に
ある。 ただし、A社等ののデータ頒布はありますが、住宅中心であり、
市街地中心部の賃貸ビルデータは未開拓な状況である。
・そこで、地方圏を中心とした対案です。
事業費の捻出という問題がありますから、私案の全てを行うわけには参
らないでしょう。関係機関や一般法人等も直ちに、データを有償で購入
してくれるわけでもないでしょうし、初手から有償頒布を考える訳にも
参らないでしょうから。
 そのことを念頭において、以下をお読みください。
1.当面の調査区域
 県庁所在地或いは有力都市の、商業地を中心に考える。
住宅地は地価公示等の付随作業とする。調査対象エリアは逐年毎に拡大
することを考える。作業単位は、単位会全員或いは地価公示等の分科会
単位が相当と考えられる。
2.基礎データとして、賃貸ビルデータの整備
 都計商業地域全域、もしくはその内でエリアを限定して、賃貸ビルを
リストアップし、ファイル化する。原始データとしては住宅地図等が基
礎資料となり、テナントのファイル化が是非とも必要である。
 登記事項調査や建築確認資料の閲覧調査も並行して、建物の登記床面
積のみならず施工面積等の基礎データを正確に且つ充実させる。
3.賃貸データの収集
 各ビルのテナントにアンケート調査を行う。別途、宅建業者アンケー
ト等も並行する。アンケートは郵送、一部は面接併用である。他にも募
集データが入手できればデータファイル化する。初回の回収率は低くと
も、継続することにより他の調査方法も併せれば、次第にデータは充実
すると考えます。アンケートの詳細な内容は省略しますが、賃貸面積、
賃貸期間、賃料、一時金その他ということになるでしょう。
4.その他
 この作業を反復継続する以外に有効なデータ収集方法は見出せません。
調査エリアにおける悉皆調査か、サンプリング調査か、事業予算に比例
して議論は別れると思います。また、鑑定士が片手間に行うのか、事務
局等を整備するのか各単位会によってマチマチになるだろうと思います。
 何らかの情報整備関連委託事業になり得るとしても委託予算と納品成
果物との関連も見逃せないでしょう。
 いずれにしても、取引事例の収集に比較して当初は困難なことが多い
と考えられますが、軌道に乗れば継続する調査に意味があり、データの
陳腐化が取引事例程ではないことから、継続性も容易であり次第に有効
なデータファイルを構築できると考えますが、如何でしょうか。
 最初から100%を期す必要はないと考えます。少しづつ整備を図って、
数年後を目途に有効なものにすればよいと考えます。
「データファイルソフト」は地価公示ソフトの収益事例(間接法収益価
格)部分を分離して、インデックス作成も踏まえて開発すればよいので
はないでしょうか。
5.ご参考までに
 某・単位会では、取引事例を以下の手順で収集しています。
a.移動通知書の複写を、県を経由して市町村より随時入手する。
b.次いで、事務局で全件をデータとして随時ファイル入力する。
c.事務局より買主にアンケートを随時発送する。
  ※アンケートは宛先入り案内文、宛名シールを同時印刷して、返信
  用封筒も同封して発送する。
  ※返信封筒は着払い封筒を利用して、郵送費を節約している。
d.回収できた返答を、ファイルに入力する。(回収率40%前後)
e.取引データファイルは、国土庁フォーマットに準拠しています。
f.取引データファイルは、全数取引基礎データ、回収取引価格データ
  から構成され、土地建物取引も含まれます。底地取引データや借家
  取引データ、新築・中古マンション取引データも存在します。
  当然のことですが、データファイルには個人情報が多数含まれます
  ので、ファイルの管理は厳重に行われており、情報の漏洩は万が一
  にも無いように万全の注意が払われています。
同時にこの事業は「土地取引詳細調査」として、主務官庁からの委託事
業も兼ねていることから、事業費の多くは委託費が充てられています。
事業は95年以来継続して実施されており、毎年3万件前後の取引デー
タ(発生取引)が継続して蓄積されています。
 賃貸事例収集についての問題点は、aの基礎データの入手です。
これを住宅地図や建築確認資料等から行おうと考えるのですが如何でし
ょうか。建物図面データが入手できれば、イメージファイル化も考慮し
なければならないでしょう。
 事業予算は未解決です。補助金や委託事業費が当てにできるのかどう
かによっても変わらざるを得ないと考えます。しかし、鑑定評価を取り
巻く社会情勢の変化、特に鑑定に求められるものが比準価格から収益価
格に移行している現実を考えれば、充実した賃貸資料の収集・整備は避
けて通れないと考えられます。
取引利回り等インデックス関連で重要な賃貸物件の取引事例は、賃貸デー
タと取引データとのマッチング・併用により照会可能と考えます。
 インデックス事業については、この賃貸データファイルを加工すれば
よいのであり、賃貸データ(賃貸物件取引データも含む) → インデッ
クス算出ソフト → インデックス整備 という流れになるのではない
でしょうか。
 当然に、取引データファイルの電算整備が未着手の地域では、bにつ
いても多くの難題を抱えることとなるでしょうから、鑑定協会の支援が
不可欠と考えます。または複数の単位会が合同して事業を行うか、本会
が入力支援をすることも考えられるでしょう。
 同時に固定資産税標準宅地評価業務との関連を検討すれば、基礎デー
タの収集や事業費の捻出について、より効率的効果的な運用も可能では
ないでしょうか。(この辺りは都市圏と地方圏では、事情が大きく異な
るとは思いますが)
 全ては基礎データの集積から始まると考えます。同時に加工が可能で
利用が容易なデータ収集や整理を行わなければ何もならないのであり、
賃貸事例の紙の束を積み上げても意味がないのであって、最終利用の在
り様を視野に入れながら、データを少しづつ蓄積して行くということが
大事なのではないでしょうか。
 鄙の帰納法的(帰農法的)発想に過ぎましょうか。
拙速か巧遅かと、よく問われます。思案を重ねることを否定するわけで
はありませんが、まず始めることも大事なのではないでしょうか。
 思案を重ねるばかりで、一歩も前に踏み出さなければ、何も得ること
はないでしょう。賃貸データのデジタル的、システム的収集を始めたと
して、意図する成果を得られなかったとしても、改善すればよいのであ
り、蓄積できたデータが無駄になることはないと考えます。

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