収益事例収集試案-2

 本試案は、鑑定協会・賃料インデックス専門委員会の9/14までの審議
結果に茫猿が加筆したものである。Webで公開することには賛否両論
があろうと考えます。
 しかし前号-1-で述べたように、調査に関心がある単位会から進め
ることにより、調査のノウハウ取得や調査体制或いは調査項目の検証を
行って、速やかに収益事例調査を充実することが先決と考えて公開する
ものです。又、委員会審議内容について守秘義務は課せられていないこ
ともあり、情報公開は委員会に参加するものの義務であるとも考えます。
 公開に伴う責任の一切は茫猿が負うものであると同時に、読者諸兄の
ご意見を待つものでもあります。別の観点からすれば、Webを利用し
て情報を公開し、広範な意見を集約することは時代の要請であると考え
ます。
<収益事例収集調査・試案>
一、提案趣旨
 収益還元手法の充実が鑑定業界のみならず社会の関心事であり、賃料
をはじめ収益データの整備充実が世の注目を浴びている。
なかんずく不動産鑑定業界にとっては、喫緊の課題となっている。
 時代の要請に応えて、取引事例のみならず、収益事例収集体制のより
一層の整備をはかり、蓄積データ量の質及び量、両面にわたる充実が必
須と考える。
 新築新規賃貸事例のみならず、不動産鑑定士の立場から特に重視すべ
きは取引利回りの基礎をなす継続賃料である。
全国に200を超える地価公示分科会があって、各地の実際の収益事例
を集積するならば、客観的で貴重なデータバンクが実現することとなる。
 当面は3大都市圏から着手ということも考えられるが、現実の不動産
証券化業務の展開は予想を超えたものがあり、事務所・マンションとい
う種別類型にかぎらず、収益不動産取引の範囲が広がり、地方において
も正確なデータ収集とその公表は需要度の高いものとなっていることに
着目すれば、調査作業は当然、全国を見据えたものとすべきである。
二、提案内容
 このような観点から、新築新規並びに既存継続賃料データの収集に関
して、次の通り提案する。
 この場合の収益事例調査は地価公示分科会が所掌するのが相応しいと
考える。必要諸経費は、取引事例収集諸経費に準じて、それぞれの単位
組織にて予算計上されるものである。
A. 調査担当等
 公示等分科会に於いて、公示設定区分図等により、各評価員の担当エ
リアを決めて調査を行う。
B.基礎データの作成
 既存の賃貸建物の内、一定の基準に見合う調査対象物件をリストアッ
プしデータ化する。これらの建物所在、名称等を基礎データと云う。
 基礎データは地価公示の設定区分図を用い、住宅地図で一棟ごとにチェッ
クする。(建物カード:収益事例の基礎としての賃貸建物ファイル)
 この基礎とする建物調査のためには、市役所等に対して建築確認申請
書の閲覧要請を行う。居住用物件も収集するが、店舗オフィス等事業用
途のデータ収集に特に努めるものである。
C. 基礎データへの入居者・テナントの書き込み(入居者情報)
ア. 現地確認する。(面接により賃料データの同時収集も可能)
イ. 住宅地図データの利用。
ウ. 住宅地図会社や生保等の大手ビルオーナーへの協力要請。
D.アンケート調査(郵送によるアンケート調査を行う)
 アンケート照会事項の例示
ア. 月額支払い賃料、一時金月数
イ. 契約の始期、契約期間
ウ. 賃貸階層、賃貸面積
エ. 契約の目的(用法)
※この場合も次項Eと同様、可能な限り、一棟全部の賃料を把握するよ
う努めるものであるが、テナントへの毎年の継続調査を前提にすれば、
初年度に全ての充足を目指さなくてもよい。
E. 縁故ないし現地調査による面接調査
 ビルオーナー、宅建業者、管理人を対象として、アンケートと同項目
を調査する。一棟全部の賃料を把握するよう努め、利回り調査の資料と
して利用可能なデータを収集する。
三、具体的作業工程
A.アンケート方式
1. 分科会での基礎調査の区域の決定
2. 住宅地図・別記等により、調査対象ビルのリストアップ
3. テナント・入居者リストの作成
4. 法務局、市役所等にて建物データの収集
5. 基礎データの入力と集約(フロッピーディスク)
6. 士協会事務局にてファイル集約後、アンケートの発送
7. 回答の集計
B.面接調査
1. 鑑定士の現地調査によるもので、従来の賃貸事例収集と同手法
2. データを士協会事務局にて集計
C.データファイル作成
1. 建物調査表ファイル
 (所在、道路、接近条件等、内外装、設備、施工面積等)
2. 部屋番号別入居者ファイル(経年継続調査対応)
3. 賃料ファイル(経年継続調査対応)
4. これらを統合したファイル(取引事例が判明すれば掲載。)
5. 参考データ:建築確認資料の閲覧調査、税務台帳の物件閲覧
※これらのデータファイルは単年度打ち切りと云うものではなく、経年
継続調査を前提とするものである。データ量にもよるが、築後五年~十
年間は継続調査の対象としてよいのではなかろうか。
 同時に競売における収益物件の落札結果もファイル化して、早期売却
市場に対応する「収益物件取引事例」として活用すべきである。
※データファイルは、当然のこととして、ファイルソフトによって作成
されるものである。地価公示ソフトの内、収益事例作成部分の分離独立
を基礎として、国土庁フォーマットに準拠し地価公示ソフトとのデータ
インポート・エキスポートが容易であることがファイルソフト作成の上
で必須条件となる。
四、データ量 
 地価公示分科会の組織を利用すれば、全国の多数の鑑定士が参加して
多量の継続賃料の賃貸事例を収集することができる。
 さらに、この実際データを基礎として賃料インデックス或いは取引利
回りインデックスを作成すれば、既存の想定モデルによるインデックス
と比較して、その精度と信頼度は遙かに優るものと云える。
 基礎データとして、エリアの賃貸建物の把握を行い、年に一回程度の
アンケートを発送して各賃貸建物毎の賃料事例を把握する手法に拠れば、
当初の作業量は多いものの、経年調査に入った段階で作業量は軽減され、
調査対象区域の拡大或いはエリア内の新築賃貸建物を追加する作業が主
となる。
 同時にアンケート等の繰り返しにより、賃貸情報の充足度は年次の経
過毎に増して行くものである。つまり、作業量の軽減とデータ量の充実
という二兎を追うことが可能となるものである。
 さらに、エリア情報として見逃せないのは、調査年次の累積と共に、
実際のテナント充足率(空室率)、及び実際のテナント回転率等が把握
できることである。これらのデータは鑑定士が評価を行うに際しても、
コンサルテイングを行うに際しても、重要な基礎情報となるであろう。
以上

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