モンテカルロ法ほか

 有り難いことに、早速に「間違いだらけの地価評価」に幾つかのRES
を頂きました。Web Masとしては、読者が少しづつ増えているのも嬉し
いのですが、こうした貴重な御教示はもっと嬉しいものです。
寄稿者の御承諾が得られましたので転載します。
元々のMM文書は以下に掲載してございます。
http://www.morishima.com/cgi-bin/np_shikan/newspaper.cgi?action=view&code=985136636
http://www.morishima.com/cgi-bin/np_shikan/newspaper.cgi?action=view&code=985136692
 尚、さらに詳しくは、寄稿者K.HOTTA氏の主宰するHPにお立ち寄り
下さい。世に溢れている鑑定評価業界HPとはひと味もふた味も違うHPで
す。寄稿者のご紹介はHPの紹介にて代えさせて頂きます。
http://www.kanteishi.net/index.html
次は難解ですが、一読の価値ありと存じます。
http://www.kanteishi.net/kantei/rife/001rates.htm
それでは転載開始 ———
  寄稿者:K.HOTTA
 前号、今号と話題になっておりました、金融工学手法について。
 実は「モンテカルロ法」というのは、Excelなどの表計算ソフトでも、
ある程度はできるものです。株価の動きは、「ランダムウォーク仮説」
といって、長期的な値動きにはある一定のトレンドが認められるものの、
短期変動は、まるで千鳥足のようにふらふらと進んでいるという、二つ
の動きに分解することができます。
 前者を「ドリフト」といい、後者を「ディフュージョン」というので
すが、後者の千鳥足をブラウン運動又はウイナー過程といって、これは
正規確率変数(ある数を実現する確率法則が正規分布で与えられる確率
変数)で近似することができます。(ブラウン運動とは、元来物理学に
おいて分子の動きを説明するための理論です。また、このブラウン運動
とドリフトを組み合わせたモデルを、幾何ブラウン運動モデルといいま
す。)
 そのシミュレーションのために、コンピュータで乱数を発生させる必
要があるのですが、 Excelでも擬似乱数(正確な意味では乱数ではない
が、乱数に近いもの)を発生させることができるので、それに近いこと
ができます。
 このモンテカルロシミュレーションが有用なのは、世の中の自然現象
の多くが、正規分布にしたがっているという一つの仮定に立っているか
らであり、実際の現象はいつもそんなにきれいな形で発生するとは限ら
ないので、その意味で、このようなシミュレーションには限界がありま
す。
 数学でいう「大数の法則」とか「中心極限定理」というのは、いわば
究極の姿なのであり、ごく小さいオーダーの数あるいは短期的な時間で
起こる出来事を説明できるような理論というのは存在しません。
**************
「リアルオプション」とは、デリバティブのひとつである「オプション」
の価格理論を、実物資産にも適用しようという試みです。
オプションというのは、「売買する権利の売買」であり、債権や株式な
どを買う権利を「コールオプション」、売る権利を「プットオプション」
といいます。
 例えばコールオプションを保有している人は、権利行使期間内にその
買う権利を行使することができるのですが、その権利行使期間に幅のあ
るタイプのオプション(満期日までならいつでも行使できる)をアメリ
カンオプション、満期日にのみ行使できるタイプをヨーロピアンオプシ
ョンといいます。
 不動産(例えば開発素地)を保有している人は、いつでも自分の好き
なときに開発に着手することができるわけですが、その立場は、あたか
もアメリカンオプションを保有している人と同じようなものなので、そ
の最適開発戦略をたてるために、オプション評価理論が使えるというわ
けなんです。
 また、「ブラックショールズ式」というのは、ヨーロピアンオプショ
ンの価格を求めるための偏微分方程式で、日本の大数学者伊藤清博士の
作り上げた「伊藤のレンマ」という確率解析学における命題をもとに、
ブラックとショールズという2人の学者が考案したものです。
 これこそ、多くの不自然な仮定を前提とした、いわば理想論なのです。
権利が行使されるまでの間の市場金利とボラティリティ(株価の標準偏
差)が一定で変化がないという極端な前提の上にたっているんですが、
現実の市場ではそんなにきれいな理論どおりにはいきません。
そこで、ブラックショールズ式の欠点を補うためにボラティリティ変動
モデルとして、 ARCHモデルなどが考案されています。
転載終了 ———
実は、この後に、この転載メールの最も肝心な部分があります。
 しかし、寄稿者は、この肝心な部分をストレートに転載することには
同意して頂けないように拝察します。したがいまして、以下は寄稿者
K.H氏の論旨だけでなく、他にも「間違いだらけの地価評価」に関連
して寄せて頂いた幾つかのEMailを、茫猿の手で集約した文章です。
勿論、茫猿自身も賛意を表するものであり、些かの私見を付け加えるも
のです。
ソースは「鄙からの発信」読者諸兄他に、集約責任と文責は茫猿にあり
と云うことでお読み下さい。
ソースは別・集約のみ ———
ソース:K.H氏、H.K氏、A.T氏
 金融工学理論というと難解で高尚な感じがしますが、その華々しく目
新しい装いに惑わされてはいけないと考えます。
 不動産市場に内在する非合理性や不確実性も含めて理論化し、その指
標データも市場から工学的に入手するという手法が秘める危うさは、現
状のDCF法の危うさに通じるものがあります。
 さて、理論(科学)は現実を解明するためにあるのだが、常に現実を説
明できる理論はないともいえます。 なぜなら、現実は往々にして「偶
然」の積み重ねで成り立つものであり、その偶然を、必然で説明しよう
という【悪あがき(些か皮肉な表現ですが)】が「理論」ともいえるわけ
です。
とは言っても、理論が現実をうまく説明できないからといって、それを
直ちに否定することは、人類の英知を否定することになるのではないで
しょうか。
 つまり、確率論とか統計理論とか既に認知された社会科学のツールを
駆使することを頭から否定してはならないと考えます。浅薄な理解によ
る皮相的な利用は排除されねばならないが、社会学や経済学における学
問的成果を真摯に不動産評価に取り入れてゆく努力は続けなければなら
ないし欠かしてはならないことと考えます。
 またそれらのツールが利用可能な環境を整備することにこそ、意を用
いなければならないとも考えます。
 別の言い方をすれば、
「難しそうな理論に惑わされるな」とか「所詮、理論は胡散臭い」
などということでは決してなく、理論に限界があるのは当然のことで、
それを無責任に或いはセンセーショナルに否定するのは、とるべき姿で
はないだろうということです。否定する立場に立つならば、否定する根
拠を明らかにし尚且つそれに代わる理論を提示すべきだと考えるのです。
 不動産評価に金融理論を応用することは、理論的には確かに高度なも
のへの転換を意味しますが、理論である以上、どうしても現実に符合し
ない部分は残ります。そこをいかに現実に符合させるか、つまり現実を
よく説明できる理論を構築してゆくかというのが、一番大切なところだ
と思います。
 また、不動産の評価に統計的手法や確率論などを導入しようというの
は、泥臭い不動産にちょっと高度な金融工学のエッセンスを振りかけよ
うというようなものともいえるかもしれません。
 でもそれは、たとえて言えば、気象情報のデータ分析をより高速なスー
パーコンピュータで行って、長期天気予報をするということにも通じる
のです。 空(自然又は恣意的な偶然に左右される社会事象)が相手で
ある以上、どんな高度な装置をもってしても、 100%確実な予報などで
きる訳もないという謙虚さを持つべきと考えます。
 ノーベル賞ものの科学者が高等数学を駆使して、DDCF法【ダイナ
ミック・デイスカウント・キャッシュフロー】を駆使したとしても、
必ず予測が的中するというものではなく、ベテランの相場観の的中率の
方が高い場合だってあるということです。
 言い換えれば難解高度な理論を用いたとして、常に最適解(※1)が得
られる保証は無いのでして、往々にして解析値はデータの質(※2)及び
量(※3)に委ねられるものと考えます。
※1:解析理論値としての最適解はともかくとして、経済的行動指針と
   しての最適解。
※2:時系列的、面的散布状況とそれらデータの精度。
※3:解析母集団として、解析結果が信頼に足り得るだけの量。
 先端的ツールの利用可能な環境整備とは、まさしく、解析対象として
利用可能なデータの整備にあり、そのような地道な努力の継続にあると
考えるのです。「コンピューター、データ無ければ、只の箱」という俚
諺は、今も十分に真実であるのです。

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