朝日新聞記事に異議あり

 10月13日付け朝日新聞朝刊に、(社)岐阜県不動産鑑定士協会が平成1
2年固定資産税標準宅地評価に関して、独禁法違反容疑有りとの記事が
掲載されました。法8条抵触の容疑で公正取引委員会の事情聴取を受け
ているのは事実ですが、記事内容には多くの誤解や事実誤認が含まれて
おります。士協会では、同日午後より緊急理事会を開催し、夕刻8時よ
り共同記者会見を行いました。
 朝日新聞記事の見出しは「聴取後、口裏合わせ」とか「事前調整、な
かったことに」等という大活字が踊っていますが、全くの事実無根です。
いかなるレベルの会議でも口裏合わせを行ったことはございませんし、
ましてや「行ってもいない事前調整をなかったことにするように要請し
た」事実もございません。評価受託を希望する市町村名を会員から提出
を受けたことは事実ですが、その目的は後述するところにあり、割当調
整を行うことにはございません。
 一連の経緯について、茫猿の考えをお伝えし、各位のご批判を仰ぎた
いと存じます。
 同時に、我々岐阜県士協会が独占禁止法をないがしろにする意志は全
くなかったことを冒頭に申し上げたいと存じます。
独占禁止法について ———
 私的独占に当たる場合を鑑定業界に当てはめて、具体的に考えると次
のようになると考えます。規制緩和の時流に押されて、鑑定評価依頼に
も競争入札の導入が図られるような動きがあります。鑑定評価業務に価
格競争が馴染むのでしょうか、考えてみたいと思います。
一、私的独占禁止法の解釈
第3条〔私的独占または不当な取引制限の禁止]
事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。
 これは「事業者が価格や取引先など、本来個々の事業者がそれぞれ自
主的に判断して決めるべきことを、共同して決定し、公共の利益に反し
て、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」を云うと解
されます。
※実質的独占・寡占状態にある事業者団体が共同して、業務契約先や業
務報酬を調整した場合はこれに当たるものと解されます。
 内実的には事業者団体でもある「士協会等」が、包括的に業務依頼先
と契約を締結したり、業務見積書を発行する行為は、取引制限や価格カ
ルテル行為に触れかねないものと解されるようです。
第8条〔事業者団体の禁止行為・届出義務〕 □□
事業者団体は、次の各号の一に該当する行為をしてはならない。
一 一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。
二 第六条に規定する国際的協定又は国際的契約をすること。
三 一定の事業分野における現在又は将来の事業者の数を制限すること。
四 構成事業者(事業者団体の構成員である事業者をいう。以下同じ。)
の機能又は活動を不当に制限すること。
五 事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること。
二、処分の手続き
 公正取引委員会は、違反を認めた場合は、違反行為の排除のため必要
な措置をとるように勧告します。
事業者が勧告を受け入れた場合は、勧告審決がなされます。
受け入れない場合は、審判により審決が行われます。
 他にも排除措置勧告よりは軽い処分として、注意処分及び警告処分が
あります。警告処分は一見して軽い処分ですが、是正措置をとるように
指導されると同時に公表されます。公表に伴う社会的制裁は大きいもの
と考えられます。
三、処分の効果
勧告審決を受けた場合に、対価に影響のあるカルテルの場合は(業務報
酬カルテル)、課徴金の納付を命ぜられます。
課徴金は、小規模サービス業者の場合は売上高の3%です。この課徴金
は損金算入できません。他、刑事告発の可能性も全くは否定できません。
 尚、カルテル行為か否かは、協定や議事録の有無等ではなく、実質的
にカルテル行為と見なされるかどうかが問われます。
四、その他
特定の事業収入を会費算定の基礎とするのも問題となりかねません。
鑑定業界はどのように考えたらよいのか ———
 さて、独占禁止法及びその運用を司る公正取引委員会は、以上のよう
な法の趣旨に基づいて、士協会の事情聴取を行っています。
 鑑定評価業務のなかで、士協会が直接的間接的に関与してきた或いは
関与しようとしている業務は、「公的評価」と総称される分野です。
一つは地価公示であり、地価調査であり、相続税路線価標準地評価であ
り、そして固定資産税標準宅地評価であります。
 前三者は、法に基づく業務であったり、二者しか存在しない相対契約
であったりします。ところが、固定資産税標準宅地評価業務は些か様相
を異にします。
 固定資産税標準宅地評価業務は基本的に市町村と個々の鑑定事務所と
の委任契約(業務委託契約)行為であります。そこに、鑑定事務所が加入
する団体である士協会が介入することは、慎まねばならないと考えます。
 このことは、市町村の税務課以外の業務、例えば道路用地や学校用地
の鑑定評価委嘱契約、或いは遊休地の売却処分に伴う鑑定評価の依頼等
を考えてみればよく判るものです。
 固定資産税標準宅地評価は全市町村一斉一括依頼であることと、仕様
が共通であることを除けば、一般の鑑定評価業務依頼と契約行為として
は大きな差がないものと考えることが可能です。
 用対連(中央用地対策連絡協議会)が、公共事業に係る不動産鑑定報酬
基準を理事会で申し合わせているのは、鑑定評価報酬の決定に際して競
争入札はなじまないと考えているからです。鑑定評価は価格競争に於い
て依頼するものではなく、非価格競争(鑑定評価書の内容品質)において
鑑定業者を選択し依頼するべきものであると考えているからであります。
 固定資産税標準宅地評価も同じ観点から、依頼先が選択されるべきで
あり、全市町村の価格均衡の検討や、山間遠隔地や離島に於いても同質
の鑑定評価水準が維持されなければならないと考えられます。
 前述の公的評価なるものは、国民経済的に云えば安価に提供されるこ
とが望ましいことは云うまでもありません。しかし、報酬額の多寡にも
増して要請されるものは評価書の内容であり、全市町村の評価額の適正
さと公平さを維持することであろうと考えます。
 その観点からすれば、一方的規制緩和的な判断や単純な価格(評価報
酬額)競争の導入には、大きな疑問が残ります。保健医療サービスの提
供など業務自体に公益的側面を多く持つものは、価格競争には馴染まな
いと考えます。
 勿論、安価に良質のサービスが提供されるように図るべきことは当然
のことですが、価格競争によりサービス提供業者を選択することは安価
に業務結果を獲得できたとしても、品質が維持されている保証は何処に
もありません。
 固定資産税標準宅地評価業務に関与している全国各地の鑑定士諸君は、
どのように考えらておられるのでしょうか。
我々が、いわゆる公的評価に関して、安価で良質な鑑定評価を提供する
ことは、鑑定評価制度の生い立ちからしても、鑑定士の倫理綱領からし
ても、当然の責務と考えます。
 しかし、だからといって、公的評価業務の委託或いは依頼に際して、
価格競争を強いられるのは容認できましょうか。
岐阜会務執行の実際 ———
・独占禁止法の趣旨に照らして、岐阜県士協会の運営に落ち度の有りや
無しやを考えてみたいと存じます。
・平12固評契約は、市町村と「鑑定評価に関する業務委託契約・市町
村の指定する固定資産鑑定評価員に鑑定評価を行わせ、その結果を報告
させる業務及びこれに付随する業務」を締結しておりますが、これは従
来型標準約款に基づくものであり、評価業務を「行政側が委嘱する評価
員」に執行させる責任と、評価員に代わって報酬の授受を契約するもの
であります。
・市町村は評価員を選定し委嘱状を発行してますが、士協会と評価員は
何の契約も締結していません。
・会員が委嘱を希望する市町村の数は原則、7市町村程度が望ましいと
要請したのは事実です。しかし、評価地点数、合計受託報酬額について
は何の要請もしていません。希望市町村数を7市町村程度以下にと要請
したことについては、後述の合理的理由があり、直ちに自由競争を制約
するものとは考えられません。
・営業自粛要請通達が話題になっているようですが、それほどの罪ある
行為でしょうか。当時は室長通達廃止を受けた本会の基本方針も示され
ていない状況下にあり、平12固定資産税標準宅地評価業務を如何に執
行してゆくかの判断に迷う時期でした。
 ですから混乱や誤解を避けるためにも暫くの間は市町村訪問自粛を要
請したことが、直ちに自由競争を制約することにつながるのでしょうか。
尚、自粛要請期間は1〜2ヶ月程度と記憶しています。
・固評受託会員より、受託報酬額の5%を事務負担金として徴収しまし
たが、これも経費実額に見合う負担であり、法の趣旨に反するものとは
考えられません。
 即ち、固評業務に伴う、事務局職員給与、印刷通信費、さらに大きな
ものとして固評業務をサポートする地図システムデータファイル作成費
用があります。この地図ファイルは、地図上に固評標宅全地点をプロッ
トして、価格形成要因ファイルと併せて、CD−ROMに複写して、希
望全会員に貸与しております。これらの経費負担は受益者の当然の負担
と考えます。
・先ほどの、希望市町村数は七市町村以内でと要請したことについて、
その理由を述べます。
固評業務は長期間業務であり、病気・事故・最悪死亡等の不測の事態の
発生が予想されます。その場合に、包括契約者である士協会は業務遂行
責任を負うものであるが、著しく偏った担当市町村数或いは担当地点数
を抱える評価員の代替には困難さが予想されます。つまり、代替者への
負担が過重になります。
・受託報酬について、法に抵触するようなカルテル行為を行った事実は
認められませんが、見積書発行が抵触するというのであれば、前項と同
じく著しい廉価受託は、同じように代替者が得られません。
 つまり、最終業務遂行責任を負う士協会として、業務の円滑な完成を
期すことが最も重要であり、正当に積算した報酬額見積書の発行は当然
と考えます。同時に包括契約上、士協会は業務履行遅滞又は履行不能に
伴う損害賠償責任も負っています。
・他にも山間僻地の業務を士協会として遂行する責任の達成
・業務の公益性、社会的公平さの実現のために必要と認められる要請、
誘導を行うことは、公益的見地からして当然の行為であり、法の趣旨と
社会的公平さの見地からすれば逸脱するものとは考えられません。
 以上、申し述べました平12固評業務に対して、岐阜会が行った行為
は遵法精神に欠け、法に抵触するものでありましょうか。
 百歩譲って、岐阜会が法を熟知することに欠けたとして、一方で固定
資産税標準宅地評価を的確に円滑に遂行することがもたらす社会的利益
を考えれば、岐阜会のみが一方的に非難告発される由縁はないものと考
えます。現実の問題として岐阜士協会では会員の受託地点数は最大100%
近くの開きがあると同時に、業務実施直前に加入した市町村に面識のない
新会員にも業務委託が行われています。また一地点当たりの鑑定報酬額も
最大30%近い開きがございます。この事実に照らせば、談合的行為が存在
したとはとても認められません。
 勿論、申し上げたとおり、法の存在を無視してよいものとは考えませ
ん。しかし、実態に大きな差違がある事象について、一律一元的に法を
適用することは、角を矯めて牛を殺す行為であると考えます。

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