老いの道づれ

年輩の読者の方は、沢村貞子さんという女優を憶えておられると思います。映画やTVドラマで名脇役の存在だった方です。
江戸前の小股の切れ上がった佳い女でした。というには茫猿よりも随分と年輩ですが、ドラマでもインタビューを見てても頼りがいのある姐さんと云う感じを受ける女優さんでした。


茫猿は、70年代から90年代にかけて好きな女優さんが3人いました。いずれも舞台が本職でしたが、いずれの方も残念ながら舞台を観たことはありません。映画かTVドラマでしか知りませんが、好きな女優さんでした。杉村春子さん、山岡久乃さん、そして沢村貞子さんです。
あこがれたと云うかファンであるのは吉永小百合さんですが、好ましい女優さんはこの三人でした。三人とも背筋がピンと通っていて、台詞廻しがしゃきっとしていて、何気ない仕草にほのかな色気を感じさせてくれる、何というか今はもう少なくなってしまった日本の女を偲ばせてくれる女(ヒト)たちでした。何より着物の着こなし、特に裾捌き(スソサバキ)が美しい女優さんたちでした。
その沢村さんがお亡くなりになる前年、1995年85歳の時に上梓された「老いの道づれ」という本を最近読みました。そして、改めてもう一度、沢村さんが好きになりました。彼女のような、彼女の殿のような(沢村さんは夫のことを殿と云います)、老境を迎えられたらいいなと思いました。是非ともそうありたいと願いました。
スパッと自分の人生に区切りを付けて、余生を余生とせずに、淡々と日々を過ごしてゆく生き方、「誰の為でもない、自分の人生だもの」とでも云えそうな小粋な老境の楽しみ方を美しく素晴らしいと思いました。 詳しくは岩波書店刊「老いの道づれ」をお読み下さい。
この夏は沢村さんの他の著作や、更には後にふれる沢地久枝さんや城山三郎さんの本を読んで、茫猿は「老境の楽しみ」についてこんな風に考えました。
人生には三つの段階がある。
・生まれ学び、己が人生の意味を考える時期。
・己の人生の行く末に、まだまだ夢を見れる時期。
・そして己の家族などのことを想い、己が幕引きを考える時期。
茫猿はこの第三期に差し掛かっていますが、自分の終期を予想するのは難しく、ましてや自分の幕引きは自分だけの力ではいかんともし難い時がある。いや、自分の力では幕すらも引けないことの方が多い。
幕引きは突然にやってくる。
しかし、誰しもがある時期からは幕引きの到来を予感する時代に入る。
その時からの過ごし方が終わりよければ全て好しに至るであろう生き方を左右し、豊かな老境を送れるかどうかを決めてくれるような気がします。
今居る己が識る人達だけの為でなく、未だ見ぬ世代のことを考えて、そこから己の生き方を考えれるようになれれば佳いなと思います。
「粋で野暮天」(出久根達郎著・文春文庫)でありたいと願うものの、野暮天には直ぐにもなれても、粋には距離あることだと遠望しています。
いつもの蛇足です ———
他にこの夏、こんな本を読みました。
沢地久枝著 「自決 こころの法廷」NHK出版 2001.7.30発行
城山三郎著 「指揮官たちの特攻」新潮社 2001.8.5発行
松岡祐子訳 「ハリーポッターとアズバカンの囚人」静山社発行
日本の敗戦に関わる前者二冊を読んで、一番感じたことは50年前のことであるのに今では判らないことが多いと云うこと、そして今の私たちには50年前の状況ですら想像できないと云うことです。
特攻の背景も然り、敗戦前後の自決の背景も然りと云うことです。
今に生きる者にとっては当然の常識であっても、当時においては異なる常識のもとで全てが考えられ行われていたということを理解した上で、当時の人々がどのように生きたか、生きざるを得なかったかを考えなければならないと云うことを感じました。重い夏です。
「ハリーポッターとアズバカンの囚人」について、一番驚いたのは、七月末の発売であったと思いますが、大型書店に大々的にスペースを取ってハリーポッターフェアとでも云う催しが行われていたことです。
三年前の第一巻発行の頃はひっそりと平積みもされていなかったのに、今回は発売フェアで喧伝されている様子に、驚くと同時に内心ニンマリしました。『鄙からの発信』読者諸兄姉で未だ手にとっていない方は、是非とも一読していただきたい本です。子供は子供なりに、大人は大人なりに読める物語だと思います。
いつもの蛇足-2-です ———
8/24は地蔵盆でした。我が村も台風の被害も差ほどのことはなく、折からの三日月のもとで地蔵盆の祭りが渡りました。
奉納のお囃子は、豊後下がり、止車、岡崎、トッピイヒャー、お亀、ヒャーヒャリコ、打ち囃子、寄せ囃子です。
涼風のなかで祭りを渡しました。高張り提灯を先頭に十二灯(竹笹に灯りを入れた小提灯を12灯付けたもの)2対が続き、子供たちが引き回す山車【大太鼓を積み込んだ木車】を、笛と太鼓のお囃子を流しながら村内を引き廻します。久方ぶりに提灯の灯りを美しく観ました。
茫猿の住まいする村では、4年に一度お祭りの当番が村周りで回ってきます。今年はその当番年で、秋祭りから山(屋台)降ろしまで、後二ヶ月の当番を残しています。
昔は、中学を卒業すると祭り若衆組に入り、徴兵検査を経て22歳で兄若衆になります。それまでの7年間は若衆組で先輩の雑用を勤めながら色々なことを教えてもらいます。お囃子をはじめ祭りのこと、村の年寄りとのつき合い方、世渡りの方法、酒と煙草に女性との付き合い方、親の騙し方、茫猿が初めて湯飲みで冷や酒を呑まされたのも15歳の秋でした。

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