時代を読む五つの眼

【只管打座・・時代を読む五つの眼・・02.10.12】
 一昨日、(社)静岡県不動産鑑定士協会の十周年記念式典にご招待を受け、式
典に列席し記念講演を聞いて参りました。記念講演はとても興味深い内容でした
ので、講義概要を掲載し読者の皆様にご紹介します。
 講師は福井県立大学地域経済研究所・教授・坂本光司氏です。
 演題「時代を読む五つの眼・不況でなく時代が変わった」
http://www.rieti.go.jp/jp/special/2002_summer/ando_1.html
http://www.pref.shizuoka.jp/soumu/sm-06/01jinzai/kohyo/107.html
 坂本氏は、時代を読むに際して、二つの変化の相違を明らかにしなければなら
ないと説く。変化には「一時的な変化」と「構造的変化」があり、好況不況によ
る一時的な変化と、景況によるものではなく構造的根源的変化の二種類があり、
この両者を峻別しなければならないと云う。
 また、この二つの変化は現象的には酷似していて、一見しただけでは一時的な
モノか構造的なモノか判断ができないとも云う。売上げの減少が一時的景況サイ
クルによるものか、構造的に市場が変わってしまった結果なのかを峻別しなけれ
ば対策の立てようがないと説くのである。
 この二つの変化を峻別するためには、五つの眼を持たねばならないと氏は云う。
1.主観ではなく、客観的視野を持たねばならない。
 客観的視野・視点とは、データに裏打ちされた冷徹な判断である。
2.短観ではなく、長観すなわち、長期的な視点を持たねばならない。
 例えば地価推移について、バブル時のピークを起点にしたり、その前後を起点
として考えるのでなく、1950年代以降からの長期的スパンで検討しなければ、本
当のところが見えてこないと氏は云う。
3.ローカル観ではなく、世界観すなわち広域的な視野を持つ必要がある。
 市内だけ、県内だけ、国内だけという視野はミクロ的特殊性というバイアスが
かかってしまう可能性が高く、根源的根幹的なものが見えてこないと氏は云う。
例えば住宅新築戸数や自動車生産台数は既に成熟し類似性が高い(木造家屋が主
流なのはアメリカであり、欧州とは異なる)アメリカとの対比が有効であると云
う。
4.現象観ではなく、本質観・原理原則的視点を持つべきである。
 表象現象にとらわれていては、見えるモノも見えない。原理原則に立ち戻って
現象を解析する視点が必要であると氏は云う。
5.机上観ではなく、現場観である。
 一言で云えば、現場百遍ということであろう。現場を踏まずして語るなかれと
いうことであろう。
 企業不振の原因を、デフレ不景気のせいにし、政府の対策や業界協調などを求
める前に、以上に挙げた五つの視点から分析することが必要であり、自社の業種
は既に時代の変化の中で市場を失っているのか、単に不況のせいであり一時的な
モノであるのかを、よくよく考えてみるべきと坂本氏は説く。
 変わるべきは外的環境ではなく、自身の経営哲学であると云う。
 例えば、2000年総人口12,693万人、内生産年齢人口8,638万人、年少人口1,851
万人、老齢人口 2,204万人、合計特殊出生率1.36%、平均年齢41.4歳が、
 2020年には総人口12,411万人、内生産年齢人口7,445万人、年少人口1,510万人、
老齢人口 3,456万人、合計特殊出生率1.38%、平均年齢47.2歳へと変化する。
この外的環境の変化は止めようがなく、いわば所与の条件である。この人口構成
の変化に伴う構造的変化がもたらすモノを考えなければならないと氏は云う。
 また、全国の世帯数は4,700万世帯であるが、全国の居住家屋戸数は5,000万戸
ともいわれ、数的には既に充足し過剰となっていること。
全国の水田減反目標が約100万haで、全国の住宅地面積が約100万haであること。
一世帯当たり人口の減少はほぼ限界値に近づきつつあり、これ以上の世帯分離は
起きそうになく、世帯数も人口と同様に2006年頃をピークとして減少傾向に入る
であろうと予測されること。
 こういった視点から住宅産業を見れば、年間新築住宅戸数は建て替え需要を中
心に70万戸程度に落ち着く時期が近いであろうこと。自動車産業も成熟期を迎え
て二、三社に統合されるであろうし、国内生産台数も9百万台を切る時期が近い
であろうこと。などと統計値及びトレンドと推計値をもとに氏は予測する。
 そして、いささか文学的表現ではあるが、「今後の日本に求められる、あるい
は成功を約束される企業・製品・サービスは、感動を与える製品でありサービス
である。」と説く。
 需要者に感動を与える製品を提供できる企業が、来訪者に感動を与えるサービ
スを実現できる企業のみが存続できるであろうと、坂本氏は説いて講演をしめく
くった。
・・・・・・いつもの蛇足です・・・・・・・・・
 当たり前と云えば当たり前のことを坂本氏は説いているのだが。
デフレ不況の深刻化の中で株価8,000円にオロオロし、底の見えない地価下落に為
すすべもなく動転する様をみて、長期トレンドを見よ、視野を広くせよ、客観的
視点に立て、本質を見失うな、現場に立脚せよと、改めて目線を変えることを説
く氏の論旨は明快かつ痛快である。
 でも、何の準備もなくこのデフレ不況に直面しているであろう多くの人々は、
やはりオロオロと動転し、失意に沈むしか為すすべはないのであろうが。
・・・・・・・本章終わり・・・・・・・

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