ウェブ時代をゆく

 梅田望夫氏の「ウェブ時代をゆく」(ちくま新書)が刊行された。ロングテールを流行語にした「ウェブ進化論」の続編である。(書籍の帯に『ウェブ進化論』完結編!とあるに惹かされて購入した。


 進化論に続いて全編楽観論に満ちている。もちろんのこと梅田氏は「自然状態のネットのパブリック空間は、善悪、清濁、可能性と危険といった社会的矛盾を含む混沌なのだが、」と注意喚起をするのであるし、自助努力も求めている。 しかし「その中核に『不特定多数を信頼する』心を持ち、『人生をうずめる』ように『好き』な対象に没頭するリーダーが現れたときに、そのリーダーが作り出すコミュニテイは公共性・利他性を帯び始める。」という。
眼から鱗・Webは眠らない [2006-03-01 10:14 by bouen]
ウェブ進化論 [2006-03-05 10:52 by bouen]
「ウェブ時代をゆく」の構成は以下のとおりである。
・序章:混沌として面白い時代 
・第一章:グーグルと「もうひとつの地球」  
・第二章:新しいリーダーシップ 
・第三章:「高速道路」と「けものみち」
・第四章:ロールモデル思考法
・第五章:手ぶらの知的生産
・第六章:大組織vs小組織
・第七章:新しい職業
・終章:ウェブは自ら助くる者を助く
 
 序章で梅田氏は氏のネットに抱くオプティミズムの根拠として、ネットという技術の持つ五つの性格を挙げている。それが端的に示されているのがグーグルが示した「受益者非負担型インフラ」というビジネスモデルであるという。
1.ネットが強者よりも、弱者と親和性の高い技術であること。
2.人々の「善」なるものや、小さな努力を集積する可能性を秘めること。
3.一部の人に可能だった行為を、すべての人々に開放する技術である。
4.「個」の固有性を発見し増幅することにおいて有効な技術である。
5.社会に多様な選択肢を増やす方向の技術である。
 梅田氏はオープンソースとかグーグル・アースやグーグル・ブックサーチがもたらす開かれた未来を予想する、そこには専門家の知を凌駕する「群衆の叡智」が出現するという。でもそこに参加するのは「総表現社会の三層構造であり、「一部エリート」と「あるレベルの知を持った人たちの層」と「大衆」という構造なのである。
 ネット世界という高速道路を疾駆するためにも、そこから「けものみち」に降りて我が道を切り開いてゆくためにも「ネットアスリート」に求められる「ウェブリテラシー」として、梅田氏は四項目をあげる。
1.ネット世界の原理を詳しく徹底的に理解する。
2.ウェブで表現したいことが実現できる程度のサイト構築能力を持つ。
3.バーチャル経済圏の仕組みを理解する。
4.ITやウェブに対する理解とプログラミング能力をもつ。
 ところで、以上のような「ウェブリテラシー」を有している「ネットアスリート」であれば、既にウェブ世界のエリートなのである。
 では、そのような「ウェブリテラシー」を持ち合わせない凡俗(三層構造のうち大衆)はどう考えたらよいのであろうか。本書を一読して茫猿が突き当たった疑問はここに尽きるのである。
 ネットの世界を縦横無尽に泳ぎ切るためには、「あるレベルの語学力」が求められるし、「ウェブリテラシー」に埋没することを厭わない探求心や好奇心も求められるのだが、そのようなものの持ち合わせもないし、これから積み上げてゆくだけの時間も能力もない茫猿の在り様や如何にということである。
 それでも今、我々が直面しているのは「情報技術が世界を大きく変える時代」なのであるし、情報というものが限りなく廉価になり、限りなく開放されてゆく時代に直面しているという事実に大きな異論はないというよりも、茫猿が置かれている環境からも実感を得ている。様々な局面で、様々な場所で直面する事態を正しく理解し打開するためには、「ICT化時代が向かおうとする方向性」を過不足無く学びとることが求められていると考えるのである。
 パブリックでオープンでフリーなネット空間という「もうひとつの地球」を理解し我がものとしてゆくためには、ネット空間が目指す方向性を理解し、「インターネットは知恵を預けると利子を付けて返してくれる銀行みたいなもの」という表現や、「エリートでもなく、大衆に埋没してもいない中間層」という表現、あるいは「もうひとつの地球とリアルの地球の、接点のあらゆる分野で複雑な境界領域が生まれる」という表現が意味するところを理解するだけでなく、「時代の変わり目に遭遇している」ことを楽しむ感覚が求められていると思わされるのである。
『ウェブ時代をゆく』「ちくま新書:梅田 望夫 (著)」
My Life Between Silicon Valley and Japan』梅田望夫Blog
 末尾に掲載するのは、対照的な書評二件です。両書評を読み比べることで、啓蒙書である『ウェブ時代をゆく』をより的確に理解できるのだろうと思います。それは公益法人としての(社)日本不動産鑑定協会や(社)岐阜県不動産鑑定士協会の情報開示と共有のあり方を示唆するものであるし、ネットワーク構築の方向性を示すものでもあると思われるのです。何よりも(社)岐阜県不動産鑑定士協会が最近ネットに公開した「グーグルマップを利用した地価公示・地価調査要覧:岐阜県不動産鑑定士協会DB」が有する今日的な意味を示唆していると考えるからです。
 この[データベース]について、その有する意義を茫猿は高く評価します。身びいきと受け止められるかもしれませんが、最初に行ったということと、有償頒布の冊子をネットで無償公開したことは正しく評価されてしかるべきと考えるのです。同時に先週公開した意見上申書も「ウェブが行くであろう方向」を見据えていたいという背景のもとにあるのです。
『極東ブログ: [書評]ウェブ時代をゆく』
『ウェブ時代をゆく』は梅田さんがはっきり出た本だ(横浜逍遙亭)
『池田信夫 blog ウェブ時代をゆく 』
※こういう書評もあるということなので、誤解の無きように。

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