郵政事業庁入札(続)

【茫猿遠吠・・郵政事業庁入札(続)・・02.10.26】
 10/24、郵政事業庁が全国的に大量の鑑定評価業務を自由競争入札により発注し
ている事件について、日本不動産鑑定協会から地元士協会経由で送付されてきた
当該事件に対する各単位会の対応報告アンケート結果をもとにして記事にした。
 10/25、その続報が同じく士協会経由で送られてきた。
 各単位会の日本不動産鑑定協会への報告内容は以下の通りである。
・アンケート未回答  6単位会
・特には何もしない  6単位会
 ※ただし、所属会員へ周知後は何もしないのか、周知もしないのかは不明。
・所属会員周知した  25単位会
・地元郵政局と協議  4単位会(今後協議予定も含む)
・地元郵政局へ返却  6単位会
 珍しく、日本不動産鑑定協会が迅速にアンケート調査を行い、さらにその結果
情報を逐次開示している。これは、協会事務局がことの重大性を認識しているか
らであろうし、全国各地から問い合わせ等が殺到しているからでもあろう。
何はともあれ、迅速な行動と積極的情報開示は評価できる。
 しかし、日本不動産鑑定協会はこのような事態を予見できたか出来なかったの
か、事前情報を入手していたのかいなかったのかは問われなければならない。
 入札説明会が実施された後では、士協会も鑑定業者も基本的に何もできない。
過去の経緯などにお構いなく発注者が入札で発注すると決定してしまえば、後は
個々の鑑定業者が当該入札に参加するかしないか、幾らの入札額を投函するかだ
けである。
 さて、今回の一件が既成の事実として、官公庁が鑑定評価を発注する場合の発
注方法に劇的変化を生じさせる端緒となるか、それともこの件は今回限りの例外
的措置として片づけられるかは、今後の推移を見守らなければわからない。
 ただし、どのような推移を辿ろうとも、鑑定評価の依頼・発注方法並びに鑑定
評価報酬の積算方法の再検討は、我々の大きな課題として残るであろう。
複合不動産や借地権或いは農地林地等の評価については、別途言及するとして、
今は更地評価に限定して考えてみたい。
※茫猿は今回の事件に関して説明会にも出席していないので、今回の郵政事業庁
発注案件が更地評価か建付地評価か等の詳細は不明であるが、複合不動産鑑定評
価ではないと聞き及んでいる。
 官公庁が更地の鑑定評価を依頼する場合に、地価公示・地価調査・固評標準宅
地評価・相続税路線価標準地評価のケースが無視できないであろう。
各事案は評価対象地の点検(時に選定替も含む)作業を含んでなお6桁未満の評価
報酬である。評価依頼から納品までの期間、分科会討議を経ることなど、単純に
同一視はできないものの、これらの更地評価報酬が一地点当たり十万円未満であ
ることは今や公知の事実である。
 地価公示等の鑑定評価書(点検・選定調書を含む)と、今回の発注に関して発注
者が求めている評価書との間にどのような差異が有るのか、或いは無いのかを明
らかにする必要があるであろう。
 地価公示等のいわゆる公的評価には、国家的意義があるからとか、不動産鑑定
士の義務であるとか、鑑定評価制度の根幹を成すものであるからといった理由で
低廉報酬に甘んじてきたという説明が説得力を持つものか否かが問われている。
 鑑定評価の発注行為が競争入札になじむかなじまないかも、不動産鑑定業者側
の論理はあるとしても、発注者側の論理はまた別のものがあろう。
 一括大量発注は精度管理に疑問が残る。或いは大量故に応札業者が限定される。
地方には応札可能なスタッフを揃えた鑑定業者が存在しない。といった不動産鑑
定業者側の論理にどれほどの説得力が認められようか。
 しかし、発注者が求める鑑定評価の精度に言及するのは矛盾する話になるが、
同じ不動産を鑑定評価依頼する場合に、報酬金額が5桁か6桁か7桁かと云うの
は大きな問題である。簡易鑑定などと云う用語は用いたくないが、業界の底流に
そういったものが存在するのは事実であろう。
 早い話が更地評価であれば、対象不動産最寄りの固評標宅評価額を基礎にして
書類を作成すれば、迅速に且つある水準の評価額は試算できるであろう。
いわゆる簡易評価で発注者の要求が充足されるのであれば、それはそれでよいが、
その場合は鑑定評価と呼称しないことが求められる。鑑定評価という呼称は烏滸
がましいものであり、単なる調査業務であろうと考える。
 茫猿は、いわゆる簡易鑑定評価と称するものを容認する考え方に組みしない。
随意契約であれば、鑑定評価の依頼者側精査により自ずと鑑定士及び鑑定業者が
淘汰されてゆくものであるが、自由競争入札契約では長期的にはともかく短期的
には淘汰の方法がなく、鑑定評価成果物の内容如何に関わらず、一番安価な応札
者が落札してゆくばかりである。
したがって、入札に際しての発注仕様書が大きな意味をもつものと考える。
 仕様書の内容を例示すれば、納期や付属資料などは別としても次のようなもの
が考えられる。
・評価対象圏域の精通度(過去一年以内の評価実績の有無とその量)
・地域分析、個別分析等の価格形成要因記述基準
・三評価手法の実施(適用できない場合の理由の記述基準)
・取引事例、賃貸事例について、発生時期・地域等に関わる採用基準
・取引事例、賃貸事例の採用数及び基礎資料(写真・図面等)添付基準
・比準価格試算過程の記載内容
 ※事情補正、時点修正、標準化補正、地域格差補正、個別格差補正についての
  記述基準(各補正値・修正値の判定根拠の詳細な記述基準)
・収益価格試算過程の記載内容(比準価格に準拠)
・評価額決定の記述基準
 随意契約のみで鑑定評価委託契約が結ばれてきた経緯からすれば、奇異にも受
け取れようし、なんでそこまでというふうに思えるであろうが、鑑定評価という
枠を離れて、一般の建築工事を考えてみれば理解できるであろう。
 随意契約であっても、設計書を示して建築工事契約を結ぶであろうが、入札契
約であれば工事仕様書である設計書抜きの見積入札など考えられないことが理解
できよう。鑑定評価の入札についても同様である。
 尚、地価公示や地価調査の評価報酬については次のような理由から、一般の鑑
定評価と同列視するべきではないと考えるが、諸兄姉におかれては如何にお考え
であろうか。
・地価公示は、鑑定評価にとって一種の実務標準的存在である。
・地価公示作業に参画することが、実務標準のレベル向上につながる。
・分科会討議は、広範な不動産情報の交換の場である。
・当然なことであるが、広範な資料収集の柱の一つである。
 以上を考慮しても、分科会参加の拘束日数、点検・選定等の工程日数、鑑定評
価作業日数を積み上げた場合に、納得できる報酬云えるか、疑問は残る。
読者諸兄姉はどのようにお考えでしょうか。
 何にしても、軽々な自由競争入札の導入が、「安かろう易かろうを蔓延させて、
悪貨は良貨を駆逐するという」グレシャムの法則につながらなければいいのだが
と、またまた茫猿は遠吠の末に暗然とするのです。

関連の記事


カテゴリー: 茫猿の吠える日々 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください