不動産鑑定士は蛸壺のタコか?

 不動産鑑定士はあまりにもビジネス感覚が無いと茫猿に向かって見事に喝破したのは、S友システムの I 氏であるが、茫猿は「蛸壺のタコ」と云わざるを得ないのである。不動産競売に関して、日弁連が二度にわたって「非司法競売手続に関する意見書」を公表して反対意見を鮮明にしているのに対して、鑑定協会はいまだ音無の構えである。非司法競売手続導入に関して重要なステークホルダーである鑑定協会は、及び腰に終始していると社会から見られても仕方ない状況なのである。


 非司法競売手続(民間競売制度)導入に関して、茫猿は以下の意見を公表している。
・2008年02月18日 「司法競売制度批判に答える」
・2008年04月12日 「何が起きているの?
 それらのなかで、「司法競売制度批判に答える」では、内閣府規制改革会議が司法競売制度の実態を正確に把握しないままに、的はずれな認識に基づく「規制改革推進のための第2次答申:Ⅱ.各重点分野における規制改革(4)住宅・土地分野」を取りまとめ公表していると異議申し立てを行っている。同時に日本不動産鑑定協会や全国競売評価ネットワークが速やかな対応を行うよう求めてもいる。
 「何が起きているの?」では、非司法競売手続導入問題を俎上に揚げて、日弁連をはじめとする様々な意見を紹介し、鑑定協会の及び腰姿勢や内部不統一をただしている。茫猿は既に2007年12月26日記事において「民間競売制度導入問題」を取り上げ、斯界の注意喚起を促している。これらに関しては平澤氏のサイトに触発されること大であり、氏に謝意を表するものであるが、他にも少なからぬ方よりメールなどで情報を頂いているのである。
 『鄙からの発信』読者各位には、あらためて日弁連意見書全文を読んで頂きたいのである。民間競売制度導入がいかに問題多い施策であるかを、厳しく指摘するものであり、現在の格差問題を引き起こした「新自由主義者が唱えるグローバル化や、自己責任主義や、過度の規制緩和・自由競争主義」がもたらす弊害を鋭く指摘しているのである。
  日弁連 2007年11月22日 「非司法競売手続に関する意見書」
  日弁連 2008年3月19日 「非司法競売手続に関する追加意見書」
 この問題に関する日弁連・ワーキンググループの方々を講師に招いてセミナーを開催するまでもなく、両意見書を精読すれば、問題の在り処はつぶさに理解できるのである。鑑定協会は鑑定士(競売評価人)の立場から、三点セットの必要性を社会に意見表明すべきなのである。競売手続きにおける、いわゆる三点セットは、執行官の作成する現況調査報告書、評価人鑑定士の作成する評価書、執行裁判所の作成する物件明細書から構成されるされるものであり、三点セットと買受け可能額の設定は、競売執行手続きにおける債務者、買受け人等の適正な利益保護を図るための必須前提条件であることを社会に向かって声高く意思表明すべきである。
 不動産鑑定士・競売評価人が、当事者の好意的な協力が得られない執行手続き現場において、汚染・破損などがあり良好とは云えない現場環境のなかで、慎重かつ丁寧な調査を行い適正な価格を得るべく努力している実態を社会に申し立てるべきなのである。それらの努力は業務として専門職業家として当然のことではあるが、同時にその実態を社会に了知してもらうことは、鑑定士の在り様を社会に認めてもらうだけではなく、執行手続きの在り様とその存在意義を社会に知らしめることに他ならないのである。その努力を怠ることを指して、茫猿はビジネス感覚が無いと云い、自らのプレゼンスに無関心過ぎると云うのである。
 鑑定協会執行部は「水面下の活動は、おさおさ怠りなく行なっている。」と云うのであろうが、社会に見えない努力は無きに等しいのであり、社会から見れば無関心あるいは及び腰とみなされても仕方ないのである。それらを称して茫猿は「蛸壺のタコ」と云うのである。なかでも全国競売評価ネットワークのセンス・センサー・スピリットの無さは、強く指摘しておきたい。特にTOPページにおいて「地価の上昇や賃貸市場の好転は経済情勢の良化と相俟ってここ数年不動産競売の申請件数が減少しておりましたが、最近に至ってさらに減少傾向を加速させておりまして、評価人候補者の生活を脅かすようになっております。」などと云うに至っては、何をかいわんやという心境である。
 競売執行手続きの現場で弁護士の関与は、いわばデスクワークである。その弁護士が、司法競売制度は競売執行に関わる債務者、所有者、保証人、買受人などのあらゆる利害関係者の利益を保護するために必要不可欠な制度であると意見表明するのに対して、不動産鑑定士は自らをあまりにも矮小化してはいないか。我々鑑定士も社会正義と関係者の利益均衡実現を目指して、日々努力と研鑽を重ねているのである。評価人(鑑定士)の作成する適正価格を表示する評価書は、利害関係者の利益保護に寄与するものであり、ひいては社会的正義の実現に寄与するものであると、何故、広く世間に意見表明できないのかと考えるのである。
 競売件数の減少は、即、評価業務量の減少であり、評価報酬の減少につながる。しかし競売手続きというものが、そもそも破綻した経済的行為のエンドを担うものである以上、経済情勢の好転による競売事件数の減少は市民として喜ぶべきことである。不動産鑑定士が関わる公的機関からの評価依頼は地価公示、地価調査、相続税標準地評価、固定資産税標準宅地評価など様々な機関・分野に及ぶものであり、執行裁判所から受託する競売評価もその一分野である。公共事業用地取得に伴う鑑定評価依頼も含めて考えれば、時々の経済情勢や社会施策の変動によって、一つ一つの分野は時々刻々に増減が伴うものである。違う表現をすれば、経済情勢の好転は競売評価を減少させるが、開発や再開発や新規経済(物件取得や債権設定)取引に伴う評価業務を増加させるのである。
 茫猿はこれ以上は云わない、云わないが「生活を脅かす」などと云う、そのビジネス感覚を疑うのである。ひいてはそのことが、内閣府規制改革会議:規制改革推進のための第2次答申(平成19年12月25日) において、様々に批判され、「情報公開が不十分」とか「既得権益化」などと揶揄されるのである。競売評価も公的機関からの評価依頼のひとつの分野である以上、情報公開や評価人選任の機会均等化は今や必須条件であると知るべきなのである。
 実は、斯界にも内在する情報非公開と機会不均衡とが、鑑定協会と競売評価ネットワークとの意思疎通を欠く遠因とも云えるのであり、鑑定協会の及び腰にもつながるものである。現鑑定協会副会長のO氏は、競売評価ネットワークの元副代表理事であり、第三回総会において併催されたパネルディスカッションでは司会を勤められた方である。氏が情報公開充実と参入機会均等化に向けての、一層のご尽力を果たされることを期待すること切なのである。

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不動産鑑定士は蛸壺のタコか? への1件のフィードバック

  1. 地方鑑定士 のコメント:

    民間競売をめぐり、鑑定協会内部の意見対立が表面化したことは、対外的には恥ずかしいことです。
    しかし、波風が立つことも必要なことがありますし、雨降って地固まるとなることを期待してます。
    私も森島先生と同様の意見を協会の掲示板に投稿しましたが、不測の事態になり、掲示板が閉鎖になりました。掲示板が再開されましたら、森島先生も投稿をお願いします。

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