業界の宿弊

 この二日ほどサイト・タイトルが文字化けしていました。文字化けの原因は不明なのだが、さしずめ鄙の堂守の慨嘆を表しているみたいでした。さて先日のエントリーの内「遠隔地の鑑定評価は原則 JVである。」に関して、少し補足してみる。


 遠隔地に限らず不動産鑑定評価というものは、取引事例資料さえあれば価格に到達できるというものではない。対象不動産が所在する地域の歴史的、自然的、社会的、経済的環境というものを熟知していなければ、的確な評価などできるわけがない。このことは鑑定評価に携わる者であれば、誰もが自明のこととして承知しているものである。
 にもかかわらず、なぜに取引事例のみが注目されるのかと云えば、背景にはこんな事情が浮かび上がってくる。都会の不動産鑑定士と話をすれば、こんな事情というか愚痴めいた話を気化されることが多いのである。
 つまりM&Aからみであれ、いわゆるデューデリからみであれ、バルク評価などと称される類の多量評価案件は、受託競争が激しく、受託総額はともかく一件あたりの評価報酬は低額な案件が多い。土日無し残業当たり前・年収一千万の世界がそれであるようだ。当然調査に時間をかけていられないし、とにもかくにも地価水準さえ把握できれば事足りるという案件だともいう。
 だから、閲覧料の上昇傾向は収益を悪化させるからパートナーシップさえ使えないと云う。そこで彼らはオンライン閲覧を望むという背景事情もあるようだ。しかし、考えてみれば安値受託する経営姿勢が本来問題なのだし、そのような場合でも地方の鑑定士とジョイントすれば、まだ何とかなるのである。現実には都市圏と地方圏を縦系列で鑑定士を結ぶネットが誕生しているのも実態である。とはいっても、競争が激しいから安値受託せざるをえないし、それがますます収益を圧迫し業務の効率化を求めてゆくこととなる。いわばマイナスのスパイラル状態といえよう。
 こんな風に言えば、地方の鑑定士は固定的収入もあるし経常費も相対的には低いから気楽なものだと反論が返ってくる。でも地方とてそれほど楽ではない、従来から存在する業務は先細りしているし報酬縮減競争も激しい。(都市圏周縁の地方圏では、それも都市圏における競争の波及結果とも云える。)
 これも云うまでもないことであるが、業務現場では地元に居る者しか知り得ない情報がある。何よりも最新地価動向情報は地元にある。過去二十年間の浸水、土砂崩れや活断層の所在等災害関連情報、工場跡地開発や宅地開発の経緯、もっと歴史的な地縁的情報などなど、ネットで調べれば判るというものではない。マイナス情報の発掘はそれほど容易ではない。
 地方は都会の鑑定評価業務依頼者に向かって、地方へ依頼する利点や地方鑑定士とのJVの利点をもっとアピールすべきであろう。事例資料を封鎖するばかりが智慧では無かろうと思う。同時に業務発生現場である都市圏鑑定士も、地方圏鑑定士と広汎なヒューマンネットワーク形成に努力すべきであろうと考える。業務発生現場が百パーセントを懐にしようと考えるから軋轢が生じるのだと考えてほしいのである。今や有名無実化している既存のパートナーシップ制度というものが、そういった方向に発展充実してゆけば、取引事例にまつわる軋轢など雲散霧消すると思うのである。
 いわゆる世間では、こういった類の話をすれば返ってくる言葉決まっているのである。曰わく「理想はそうでも、現実はね。」とか「懐具合からすれば、背に腹は代えられない。」という類である。でも茫猿は思うのである、理想を失った世界に未来はない、一歩でも理想に近づこうとするから将来が見えてくるのである。

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