業法から士法へ

【茫猿遠吠・・業法から士法へ・・04.06.05】
 先号記事で、茫猿は業法から士法への改正について、些か懐疑的と受けとめられかねない意見を述べたものであるが、その真意を補足しておきたい。
 現行の不動産鑑定評価に関する法律は、業法とも云うべきものであり、この業法を改正して不動産鑑定士法とすることは、たいへん望ましいことであるのは云うまでもない。しかし、現実は簡単ではない。


 断っておくが、現実論を言い立てて、この運動に水を差そうと云うのではない。現実はこうだからとか、実際の処云々・・などという議論は、茫猿の嫌うところでもある。しかし、現実を着実に見据えた運動でなければ、ことの成就は覚束ないと考える。現実に対応する策が必要であろうし、現実を乗り越える動機付け(モチベーション)も必要であろうと考えるのである。
 既に20年以上も前にも、士法への改正をスローガンとして役員選挙を戦った例が確かあったはずだが、芳しい成果は得られなかったように記憶する。上場企業や財団法人を中心とする会長副会長たらい回し人事が横行していた当時と現在とでは環境の変化もあろうと考えるが、目標を掲げて戦う以上は勝てる戦いを望むし、少なくとも予期する成果を挙げ得る成算を秘めた戦略・戦術を期待するのである。
 同時にADR基本法の制定が本年秋以降の日程にのぼっており、基本法との関係からADR機関認証問題や「代理」その他について個別士業法の改正も日程にのぼることであろうことからすれば、残された時間はそれほどに多くはない。
 ADRは我々不動産鑑定士が提起したものではない。茫猿自身の理解が不十分であり、この比喩は不適切かもしれないが「ADR機関に鑑定士会が認証される」とすれば棚ボタともいえるものである。がしかし、棚ボタを待つだけで、実りあるものを得られるわけではない。その意味からして、今は抜本的法改正に挑む千載一遇の機会であるともいえよう。
 尚、ADRとそれに関わる諸問題については、近日中に稿を改めて掲載する予定である。キーワードは「隣接法律専門職種」、「認証制度」、「ADR代理権」、「弁護士法72条特例・・個別法士業法改正」等があろう。
 立ちはだかる困難の一つは
 補償コンサルタント等兼業鑑定業者の問題である。
現行の業法のもとで、相当数の鑑定事務所が補償コンサルタント業登録も行い、補償コンサルタント協会へ加入している実態を考えると、会員の多数が問題点を正確に認識して、業法から士法への改正に向かうためには、越えなければならない課題が多かろうと予想する。
 個人鑑定事務所として補償コンサルタント業登録を行っている場合は、さほどに問題はなかろうが、現に株式会社等営利法人として鑑定業登録と補償コンサルタント業登録を兼業している事務所にとって、ことは簡単では無かろう。
 補償コンサルタント業登録変更が可能か、新規登録になるのか、入札参加資格問題など社名変更に伴う多くの問題が発生する。株式会社鑑定事務所から鑑定法人に移行すると云うことは社名変更に止まらず、新規法人設立となる。他には補償コンサルタント協会側で、鑑定法人を受け入れてくれるかなど、躊躇することが多かろうと予想する。これは、固評路線価評価に従事する鑑定事務所についても同様のことが云えよう。
 つまり、「士法への改正」の是非ではなく、現状を変化させるリスクと変化することへのモチベーションの多寡が賛否を分けないかと懸念する。士法への改正は将来的にはともかく、当面は強制加入や自治・自浄能力の強化など倫理的側面が大きいように考えられる。ADRを除けば業容拡大に直結するか否か、さだかではない。
 それでも業法改正・士法制定に会員の総意をまとめてゆくためは、大きなエネルギーとなによりも説得力ある説明や提案が求められる。
 さらに財団法人や銀行や大手不動産会社などの大企業鑑定業者の問題がある。企業内に開発・仲介・保有など多くのセクションを有している組織にとって、鑑定評価部門は今や存在感は低いかもしれないが、鑑定法人としての分離独立が当該組織にとって望ましいことと云えるであろうか。
 同様に、コンサルタント部門やフィナンシャルサービス部門にとっては、鑑定業務併設は欠かせないことなのでなかろうかと推測する。
 鑑定評価に関する法律が施行されて40年を経過したことにより、鑑定事務所といっても一様ではない。組織態様一つとっても、個人事務所、有限会社、株式会社、協同組合、なかには中間法人も存在するかもしれない。
 業容はもっと多岐であろう。いわゆる大手小手の差違だけでなく、鑑定評価業務に純化している事務所、補償コンサルタント業務に特化している事務所、固評関連業務に特化する事務所、広義の不動産業務に傾斜する事務所あるいは不動産業務に付随する事務所など様々な業容の存在が予想される。
 それらの事務所態様の拡散は40年の歴史の所産であり、それら様々な組織に所属する鑑定士が直ちに士法への改正に賛成できるかどうか疑問なのである。個人としては賛成できても、組織の論理にはまた別のものがあるであろう。
 ADRの為であれば、現協会内に中間法人やNPO法人を設立してヨシとする意見は少なくなかろうと予想する。
 第一に、加入脱退自由で締め付けの緩い中間法人やNPO法人の方が望ましいと考える日和見的鑑定士も、多かろうと予想するのは失礼だろうか。
これらの障壁を乗り越えるべきものとして士法への改正を企図する以上は、緻密な計算に裏打ちされた行動計画が必要であろう。
 さらにいえば、士法への改正という方向の他に、業法と士法の併存という方向もあるのではなかろうか。そのことは鑑定業者主体の協会と鑑定士会の併存という状況を生み出すものでもある。
 鑑定士たるものは、士法によって誕生し規定並びに規制され、士会加入をもって鑑定士登録とする。いささか迂遠な道かもしれないが、結構面白い結果が得られる可能性があるのではなかろうか。そのなかで、鑑定法人というものが認められ成長してゆくことによって、業界が変わってゆく端緒となりはしないだ
ろうか。
 実務補習は鑑定士会が主宰するものとなるであろうし、鑑定評価基準改訂も鑑定士試験実施も士会が主宰するのが本旨であろう。地価公示や地価調査も鑑定業者委託ではなく鑑定士委託業務であるから、士会が関与するのが当然であろう。
 茫猿の主張はラジカルに過ぎるかもしれない。しかし、選挙に勝つことを優先するあまりに過去に見られたような「TooLate TooFuzzy」な候補者を旗印としてはならないであろう。
 鮮明な目標を掲げてぶれることなく、短期集中並びに明確な日程表を掲げて会員に訴えることが必要だと考える。そういった愚直にも見える姿勢こそが、道を開く大きな力となるように思える。
 再度、云います。
 壮図は佳し、確かな戦略眼と緻密な戦術を背景として前進して頂きたい。
・・・・・・補足です・・・・・・
・法改正意向表明アンケートはこちらから
  http://www.progres-net.co.jp/news.html
ADRについては、以下のURL他を参照して下さい。
・司法制度改革推進本部 ADR検討会
 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/kentoukai/03adr.html
・ADR JAPAN
 http://www.adr.gr.jp/index.html
・・・・・・いつもの蛇足です・・・・・・
 鑑定評価に関する法律と弁護士法について、章立てを対比させてみました。
あまりにも違うことに今さらに驚きます。何よりもその第一条の相違は悲劇的にも見えます。
第一条  (弁護士の使命)
弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。
第一条  (目的)
この法律は、不動産の鑑定評価に関し、不動産鑑定士等の資格及び不動産鑑定業について必要な事項を定め、もつて土地等の適正な価格の形成に資することを目的とする。
(章立て対比)上段は弁護士法、※印以下は鑑定評価に関する法律
第一章 弁護士の使命及び職務(第一条―第三条)
※『第一章 総則(目的・定義)』
第二章 弁護士の資格(第四条―第七条)
※『第二章 不動産鑑定士及び士補(試験・登録)』
第三章 弁護士名簿(第八条―第十九条)
※『第三章 不動産鑑定業(登録・業務)』
第四章 弁護士の権利及び義務(第二十条―第三十条)
※『第四章 監督(懲戒処分)』
第四章の二 弁護士法人(第三十条の二―第三十条の二十七)
※章立て、なし
第五章 弁護士会(第三十一条―第四十四条)
※『第五章 雑則(試験委員・鑑定士等の団体)』
第六章 日本弁護士連合会(第四十五条―第五十条)
※章立て、なし
第七章 資格審査会(第五十一条―第五十五条)
※章立てなし
第八章 懲戒
※章立て、なし
第九章 法律事務の取扱いに関する取締り(第七十二条―第七十四条)
※章立て、なし
第十章 罰則(第七十五条―第七十九条)
※『第六章 罰則』
・・・・・・いつもの蛇足-その2・・・・・・
(公認会計士の使命)
第一条  公認会計士は、監査及び会計の専門家として、独立した立場におい
て、財務書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することにより、会社等の公正な事業活動、投資者及び債権者の保護等を図り、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを使命とする。
(税理士の使命)
第一条  税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場におい
て、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。
司法書士法(目的)
第一条  この法律は、司法書士の制度を定め、その業務の適正を図ることに
より、登記、供託及び訴訟等に関する手続の適正かつ円滑な実施に資し、もつて国民の権利の保護に寄与することを目的とする。
土地家屋調査士法(目的)
第一条  この法律は、土地家屋調査士の制度を定め、その業務の適正を図ることにより、不動産の表示に関する登記手続の円滑な実施に資し、もつて不動産に係る国民の権利の明確化に寄与することを目的とする。
弁理士法(目的)
第一条  この法律は、弁理士の制度を定め、その業務の適正を図ることにより、工業所有権の適正な保護及び利用の促進等に寄与し、もって経済及び産業の発展に資することを目的とする。
社会保険労務士法(目的)
第一条  この法律は、社会保険労務士の制度を定めて、その業務の適正を図り、もつて労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与するとともに、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資することを目的とする。
行政書士法(目的)
第一条  この法律は、行政書士の制度を定め、その業務の適正を図ることにより、行政に関する手続の円滑な実施に寄与し、あわせて、国民の利便に資することを目的とする。

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