ホット一息

 岐阜市内柳ヶ瀬付近で仕事の帰り、柳ヶ瀬本通りから神田町通りを越えて東方の山地に向かって美殿町通りをブラブラした。 美殿町通りの中程、角の小店に、鄙の堂守よりは年輩のご老人達が集っている。


 何のお店だろうかと立ち止まると「薄皮・一本焼き鯛焼き」のお店である。 覗いていると三々五々立ち寄る多くは年輩の方々が、四匹、十匹なかには二匹と鯛焼きを求めている。
そこで堂守は十匹下さいと頼んだら、二十分待って下さいとの返事である。 なにせ店主独りで十数本の一本焼き鯛焼き器をひっっくり返しひっくり返ししているのに、焼き上がるそばから売れている。予約の注文も受けているようである。 そこで、店先に腰を据えて店主の話を伺いながら、焼き上がるのを待つことにした。
 店主曰わく、『二年前までは関東は藤沢で暮らしていましたが、両親が高齢になり、こちらに帰ってきて、何か商売を思いましたところ、ここに適当な空き店が見つかったので鯛焼きとカキ氷の店を始めました。子供が中学生だから、家族はまだ「藤沢においての単身帰郷です。 鯛焼きは思い立ってから東京で修行しました。 皮はもちろん餡も全部自家製で頑張っています。』 彼の話の通り、鯛焼き器の横には餡を煮る大鍋も鎮座しているのである。 夏のカキ氷も自家製餡が好評で金時氷が一番売れるとのことである。
 そんな話を店主としていると、一休みしていた老婦人が、「有り難いことです。空き店ばかりではかないませんが、こうして店を開けて賑わいを少しずつ取り戻して頂いて、とても嬉しいです。」と言われる。 彼女の話に感謝して、堂守は鯛焼きを受け取る順番を譲ってあげて、また話し込む。 一個百円の鯛焼きである。堂守が店に居た三十分ほどの間に五十個は売れただろうか、それでも雨の日も風の日もある、一日に何個売れることだろうかと余所事ながら懐勘定をしてしまう。
 買い求めた鯛焼きをぶら下げて馴染みの喫茶店に行き、喫茶店の店主夫妻と珈琲のアテに鯛焼きを頂くのである。 鯛焼きは縁日などで求めるのよりは幾分小振りであるが、あっさりとした甘味とサックリとした皮の焼き加減がサッパリと旨いのである。 町興し村興しと政府や役所や学者や不動産鑑定士などが高邁な理屈を並べ立てているけれど、町興し村興しの実相は、こんな些細なGNPにも数えられないような小店の積み重ねがあって初めて出来てゆくのだと実感する。
 岐阜市柳ヶ瀬東の美殿町通りの一本焼き鯛焼き店『福丸』は、地域の高齢世帯の人たちにとってホット一息付ける場所なのであろう。 店主も「毎日、店の前を通られる方が、二、三日顔を見ないと心配なので、話題にしたりしています。」という。 コミュニテイなどとハイカラに呼ぶのも小恥ずかしく相応しくない、「地域の人たちの触れ合いの輪」が少しずつ出来上がってゆくのが見えるようである。

 薄皮たいやき 「福丸」  一本焼き鯛焼き 一匹:百円(税込) 
 焼き上がった鯛焼きを丁寧に経木(キョウギ)に包んでくれるのも懐かしく嬉しい。
 岐阜市美殿町49  080-6070-1388(予約受付有り)

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ホット一息 への1件のフィードバック

  1. bouen のコメント:

    鯛焼きを買いにきた客人が、到来物だけどと言って袋に入れた柿を数個、福丸店主に渡していた。こんなホノボノとした触れ合いが晩秋の町にはとてもよく似合うのです。

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