久高島土地憲章

泡盛古酒と島唄三昧の沖縄気まま旅であったが、実は不動産に関わる者として、とても興味深い事柄にも出会ったのである。 島の集落を歩いていて不思議だったのが、荒れた空き家だとか荒廃地があまり見られなかったことである。 S藤さんに聞けば、島の土地は島外の人による所有は認められていないとのこと。 その時はそれ以上は判らなかったし、暑さと昨夜の泡盛で揺れている脳みそもそれ以上深くは考えられなかったが、帰ってから久高島サイトを確認して興味深いことを知らされた。 今思えば、少しは島人に取材すればよかったと思うのだが、後の祭りである。


神々の島・久高島をもっとも特徴づけるのは「久高島土地憲章」であろう。久高島の土地は一部の国有地を除くそのすべてが字久高地区の区民総有に属している。 住民は居住地も農地もその利用権を有するのみであり、そのことが久高島を乱開発から守ってきたと云えるのである。全くの偶然に出会ったことであるけれど、不動産に関わる者としては、とても興味深い土地の所有形態と利用態様であり、私権と公益の巧みな折り合いの付け方に思える。
憲章には家祭祀の途絶えた屋敷地(空き家であろうか)、耕作放棄された農地についての「回収」規定も定められており、島不在の利用権者の存在は認めていないようで、それら規定と民法や借地法との折り合いも気に懸かるところであるが、島の伝統や島に連なる人々の誇りが巧みな折り合いを付けているのであろうと思われる。また、この回収規定が管理されない荒廃地を増やさないためにも大きく機能しているのでもあろうと思われる。 神々の島ではとてもつまらない話だが、地価公示・調査や固定資産税評価、相続税評価がどのように行われているのかも少し気になる。
年間に二十数日にも及ぶ様々な島の祭祀、それに加えて個々の家の祭祀、少しずつ変化しているのであろうが今に続く慣習や伝統、それでも少子高齢化は避けようもなく、これからも「久高島土地憲章」が変わることなく維持してゆけるのかどうか、日々の生活と伝統維持との折り合いをどのように付けてゆくのか、よそ事ながら気に懸かることでもある。S藤さんは「久高島は沖縄のお伊勢さんみたいなところ」と表現したが、まさに島全体のいたるところが祭祀の場所であり、島全体が境内地、神域と云うこともできるのである。 であれば個人私権の対象になどなりようもないと云えるのである。
(注)久高島には地価公示・調査地は設けられていないようで、久高小中学校付近に一カ所の固定資産税・標準宅地が設けられている。
( 所在)久高前原140 (価格)1,050 円/㎡。
神々の島・久高島における不動産評価というテーマで論文が書けそうであるし、離島などにおける不動産の所有と利用のあり方(私権と公益の調整あるいは棲み分け、開発と保全)を考えるときに、とても参考になりそうである。

『節目のことば』(久高島サイトより引用)
子孫繁栄、田畑が栄え、家々が栄え、国が栄えることを祈り生涯を送ってきた先祖達の想い。その想いを受け継つぎ、神々の息づく自然や文化への謙虚さを忘れずに久高島らしい経済の活性化を行うこと。若い世代が住める環境を作り出し、島を守ってきたオジーやオバーが介護が必要になっても生涯島に住み続けられる当たり前の島にすること。それが島の未来だと信じています。
久高島振興会は島の有志が集まり潰れたら責任を負う覚悟で出資して作られた組織です。現在は南城市から管理者指定を受けて宿泊交流館やレストランとくじん、久高、安座真待合所の運営を行っています。イラブーや農産物の買い取り、販売も始めました。伝統文化であるイラブー漁の継承を目的とした産業化、自然や文化を壊す事のない「滞在型」観光、地産地消の農業、漁業を目指します。
しかし、若い世代が不在の久高島、経済活動とは無縁だった久高島です。実際はなかなか思うようにはいきません。しかし、こつこつと、お客様に何度も帰ってきて頂けるようなサービスと、本物のもの作りをしていきたく思います。
わずかながら、しかし、奇跡的に息づく古代からの信仰がこれからの時代に再び燃え上がることを待ちわびつつ…。(管理人)2008/12/18

少しばかり引用が長いですが、久高島サイトTOPページは、以下に続きます。
手つかずの自然環境保全・伝統的文化の維持と観光振興は必ずしも両立しないものです。 島を知り島を訪ねる人が増えるのは嬉しいことだけれど、観光客や訪問客の増加は島の経済化を招きます。 トイレや売店や食堂・宿泊施設の増加を招き、自販機や各種看板の氾濫を招きます。 何より訪問客が増えれば排泄物も塵芥も増えます。 ときには島人の心の荒廃や経済的破綻すら引き寄せます。
だから久高島サイト管理人氏はサイトの創設を逡巡するのであろうと思われます。 至極まっとうな懸念であり、その懸念あれば、いたずらに量的拡大を追い求めることはなかろうと思われます。 先ず、島人の充足、安全、安心を優先した島興しが歩みは遅くとも着実に進められることを願います。 いつかは瀬戸内の島に住む次男を同道して、数日は島に滞在し色々と教えて頂きたいと思っています。

『久高島ホームページ創設』(久高島サイトより引用)
「この島の魅力は観光化されていないところ、このままがいい」って声をよく耳にします。ホームページを立ち上げることがいい事なのか非常に迷います。
しかし、若者も、介護が必要になった人も住めない島というのは不自然だと思うんです。活性化というとわかりにくいけれども、健全で活気ある島にする為に。そして、先祖たちが守ってきたすばらしい文化を次世代に継承する為に。
まずはみんなに久高島を正しく理解してもらえたら…。そして、通販でイラブーやその他特産品、おじーやおばーが作った野菜等も販売できるようになったらいいかなーって。そんな想いで始めます。(管理人)2005/8/29

※久高島サイト管理人様へ
以上の引用について、ご理解をいただくべく管理人様へメールを差し上げようと思いましたところ、掲示板もメール送信も機能停止されています。 この記事を偶然にも御覧頂けましたら、貴サイト記事引用につきまして、諾否をコメントにご記入下さるようお願いします。

関連の記事


カテゴリー: 不動産鑑定, 茫猿の吠える日々 パーマリンク

久高島土地憲章 への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 久高島は司法書士と無縁の土地? | 喜屋武孝清 司法書士事務所

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください