公共サービス改革の話

鑑定業界ではあまり語られることのないことであるが、「公共サービス改革:官民競争入札等推進」の行方が気に懸かるのである。 公共サービス改革法に基づき「公共サービス改革基本方針」を改定し、事業仕分け等で更なる民間参入促進を指摘されたものなど計30事業を同法基づく入札の対象に追加されている。 平成18年以来、行政刷新の様々な取組と連携を図りながら公共サービス改革が進められており、毎年のように閣議決定で新たな取り組みが追加されている。 平成23年7月15日にも今年度の基本方針が閣議決定されている。


公共サービス改革の対象としては、以下の業務が市場化テスト等対象として取り上げられているのであるが、鑑定業界と関連するであろうと考えられるのは、(1)統計調査関連業務である。他にも(4)行政情報ネットワークシステム関連業務が関連対象として浮上する可能性もあるだろう。
(1)統計調査関連業務
(2)公物管理等業務
(3)施設管理・運営業務及び研修関連業務
(4)行政情報ネットワークシステム関連業務
統計調査関連業務等として基本方針に具体的に記載されているのは、内閣府:消費動向調査、金融庁:公認会計士試験事業、総務省:科学技術研究調査等、法務省:登記関連業務、財務省:民間給与実態統計調査、厚生労働省:社会福祉施設等調査及び介護サービス施設・事業所調査、農林水産省:生鮮食料品価格・販売動向調査等、経済産業省:企業活動基本調査、国土交通省:建設関連業等の動態調査等、測量士・測量士補試験事業、環境省:環境省所管の統計調査 等々、実に様々な事業が市場化テスト対象として列挙されている。
これらの市場化テスト対象に、近い将来、土地取引動向調査関連事業などが含まれることが有り得るのか否か、注目していなければならないと思われる。 同時に、その対応準備も怠ってはならないことであろう。 思い起こせば、新スキームの端緒はこれら一連の規制改革に始まっているのである。
とはいっても、今の業界では取引事例の開示範囲がどこまで拡げられるのか、負担がどのように増すのかだけが関心事であり、根底を覆すことになる恐れなど何ほども感じていない様子である。 鑑定評価に採用する取引事例をどのように確保するかという狭い視点から依然として抜け出せない鑑定業界に未来があるとは、とても思えないのである。
・Webから市場売出情報を得て、成約情報とリンクさせて市場滞留状況を調査する。
・様々な手法を駆使して、成約結果の不明な取引情報のフォローアップを図る。
・地理的散布状況の分析、時系列的推移動向の分析。
・地理情報ツールを高度化して属性情報の濃度を高める。
・個別情報の背景を掘り下げる調査手法の確立。
・数値比準表の精度を高めて比準価格の存在感を高める。 等々
将来のために着手しなければならないことが山ほど在るのに、士協会内外で閲覧を如何にして制約し、既得権を守るかに汲々としている状況、あるいは非正規利用のあぶり出しに汲々としている状況は、末期的症状を呈しているとも云えるのであろう。
2011.06.01 Visionは、その末尾で「産業としての確立に向けて」と題して、次のように述べているののだが。《言うは易く行うは難しと、嘯くのは容易いことだが》

 現在、我が国では、あらゆる分野において、構造改革を迫られている。このような状況において、近年、弁護士、公認会計士等のいわゆる専門資格者の在り様についてもさまざまな変革の取り組みが行われており、資格付与の仕組みやその養成の在り方はもとより、それぞれの専門分野における既存の規制の見直しや事業領域の拡充にまで及んでいる。
鑑定業は、数ある専門資格者の事業分野でも特異な側面を有している。それは、公的土地評価を中心にした官公需の存在であり、鑑定評価制度創設以来、結果として官公需に依存した事業拡充が一定の成果を収めたが故に、いまだに官公需頼みの事業体質から脱却できない状態にある。
しかしながら、「Ⅰ.現状認識」で分析したように、個人を始め、様々な民間の経済主体から、不動産に関わる機会の増加や不動産を有効・適正に利活用することの必要性の高まりに伴い、不動産にかかる多様な情報サービスの提供を期待されている。
これに真摯に取り組むことこそ、専門資格者として資格を付与された鑑定士の使命ではないだろうか。この使命を果たすための取り組みは、鑑定士にとっては、社会に根ざした持続的な鑑定評価制度を確立することにほかならず、それは、鑑定業が産業として確立するプロセスであり、その担い手である鑑定士の専門家としての地位を確立する道であるといえる。

関連の記事


カテゴリー: 鑑定協会 パーマリンク

公共サービス改革の話 への1件のフィードバック

  1. 後藤 雅文 のコメント:

    年賀状、美江寺町に出してしまい帰ってきました。賀状お届けできなかったことお詫び申し上げます。鑑定の広場に「地理空間情報と不動産鑑定評価」を掲載していただきありがとうございます。この間のいろいろなご指摘耳に痛いことばかりです。私なりに解釈して少しずつ前に進んで行きたいと存じます。森島さんの発言鑑定業界にとっては宝です。今後とも厳しいご指摘お願い申し上げます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください