福島に生きる:玄侑宗久

通販でオーダーしてあった玄侑宗久師の本が三冊届いた。
「福島に生きる」、「さすらいの仏教語」、「禅語遊心」である。 玄侑師の著書は既に何冊か購入している。 芥川賞受賞作である“中陰の花”をはじめ、“龍の棲む家”、“阿修羅”、“多少の縁”、“まわりみち極楽論”、“禅的生活”、南直哉師との対談“問いの問答”、“荘子と遊ぶ”などを購入し、その多くは読了済である。 多くはというのは“禅的生活”は禅語が溢れすぎていて中途のまま書棚にあるし、“問いの問答”は難しすぎて未だに机上にあるからである。

今回、読みたかったのは“さすらいの仏教語”であり、“禅語遊心”である。「福島に生きる」は、美味しんぼ・鼻血事件について玄侑師が言及しているビッグコミック掲載のコメントを読んだことにはじまる。 「福島に生まれ、福島に住んでいる」玄侑師が原発の是非と放射線の問題を分けて考えることの大切さを説いているくだりを読み、福島を愛する玄侑師が3.11をどのように受け止め、どのように考えたかを知りたかったからである。

「福島に生きる」は震災と原発事故が起きた2011年の暮れに発刊されている。12月初めが第一刷であるから、執筆を終えたのは事故後半年も経ない時であったと思われる。総てがまだ生々しい時に福島県三春町・福聚寺の住職が何を考え何を思ったかを知りたいと考えたのである。

玄侑師は2011.03.11の発災直後から、その年の10月半ばまでに師が見聞きしたこと、体験したことを臨済宗僧侶である作家らしく淡々としかし直裁的に語っている。福島県三春町に居るからこそ語れることがあり、復興構想会議委員であればこそ“東京から見たフクシマ”を語れることもある。 復興構想会議で玄侑師は、第二回、四回、六回、九回、十回と合計五回の会議に提言や資料提出を行っている。それらの詳細は復興構想会議サイトで読むことができる。

あれから既に三年余が経過した。三陸鉄道は復旧したが、北リアス線と南リアス線をつなぐJR山田線未だ不通のままである。フクシマ原発は、安倍総理がオリンピック招致会議で「フクシマについて、お案じの向きには、私から保証をいたします。状況は、統御されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも、及ぼすことはありません。」と述べたが、瓦礫処理は進まず地下水排出も続いている。炉心溶融した炉内の燃料に至っては手つかずのままである。

玄侑師は「原発の是非と、放射能の問題をイッショクタにして捉える人がいちばん困るという。微量の放射線量の増加も許せないというのは、些か冷静さを欠いているともいう。
この件に関しては2014年05月12日にラジオ福島で玄侑師が「鼻血ブー」と題して語っている放送をPodcastで聞くことができる。

玄侑師は『福島に生きる』の末尾で、“曖昧さに耐えながら”と題して、次のように「福島に生きる」を結んでいる。

人生は、もとより暗中模索である。本来は、曖昧な未来を手探りで進みながら、その歩みの実感にこそ主体性を感じるべきものではないだろうか。 しかし今の日本では、この唆昧さに耐えられない人々が増えている。まるでゲームの善玉・悪玉のように、いろんなものを単純な二元論で考えたがる人が、増えている気がする。
たとえば放射能についても、年間20mSVから100mSVまでの被曝の場合、発がんなどの確率的影響さえ、データがないため、唆昧である。また何人中何人という確率論を、個人における発がん率に置き換えるのもじつは無謀なことだ。
データもなく、個人に援用できる理論もないのだから、本当は唆味なまま進むしかないはずだが、それでは不安で仕方ないのだろう。「ゼロに近いほどいいに違いない」、あるいは「現状で何も問題ない」という両極端な思い込みに、人々の心が分裂している。思えば人を敵・味方にすぐに分けたがるのも、不安のなせるわざではないか。

私は最近、この曖昧模糊とした現実を、ただひたすら見つめるしかないような気がしている。何もしないという意味ではなく、簡単には割り切らないということだ。
放射線の影響についても、誰も正確なことは知らない。学問的権威なども、もはや失墜したと言えるだろう。「寄らば大樹」というけれど、大樹さえ今回の津波であらかた流ざれてしまったようなのだ。
すべてが流された浜辺に草だけは生えてきたように、草の根の自治はあちこちの個人のなかに、すでに芽生え始まっている。権威に縋らず、権力に頼らず、曖昧模糊とした現実を暗中模索で進む、そんな生き方はどこの学校でも教えないだろうが、フクシマでは今、そこから自分の足で歩きはじめるしかない。空手形など当てにせず、曖昧さに耐えて少しずつでも進む生き方が、フクシマからもつともつと広まることを念じてやまない。

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