語り続ける勇気

過日、「ザ・ベストテレビ」という番組を見た。国内の主なテレビ番組コンクールで高い評価を受けたドキュメンタリー番組をNHKと民間放送の垣根を越えて年に一度、まとめて放送する番組である。この日放送されたのは以下の4番組である。

▽第68回文化庁芸術祭賞 テレビ・ドキュメンタリー部門 大賞
みんなの学校」(関西テレビ放送)
▽平成25年日本民間放送連盟賞(テレビ教養番組)最優秀
キ・ボ・ウ~全村避難 福島県飯舘村二年の記録~」(福島テレビ)
▽平成25年日本民間放送連盟賞(テレビ報道番組)最優秀
ヒロシマの山~葬られた内部被ばく調査~」(中国放送)
▽第40回放送文化基金賞(テレビドキュメンタリー番組)最優秀賞
「ETV特集『三池を抱きしめる女たち~戦後最大の炭鉱事故から50年~』」(NHK)

みんなの学校」は、公立小学校でありながら、普通の生徒と特別支援を要する生徒が同じ教室で学んでいる大阪市の大空小学校に一年間密着取材したドキュメンタリー番組である。 特別支援を要する子供の多くは、一人一人の障害の種類・程度等に応じ、特別な配慮の下に、特別支援学校(平成18年度までは盲学校・聾学校・養護学校)や小学校・中学校の特別支援学級(平成18年度まで特殊学級)に通うことが多い。 大空小学校ではこの特別支援を要する生徒と一般生徒が同じ学級で学んでいるという。

キ・ボ・ウ~全村避難 福島県飯舘村二年の記録~」は福島原発被害を受けた飯館村のその後を伝えるドキュメントであり、「ヒロシマの山~葬られた内部被ばく調査~」は広島原爆の内部被曝者のその後を追った番組であり、「三池を抱きしめる女たち~戦後最大の炭鉱事故から50年~」は三井三池事故において一酸化炭素中毒被害を受けた患者のその後を追った番組である。

広島原爆から既に七十年、三井三池炭鉱事故からは五十年余が既に経過している。いずれも歴史的事実になっているとも云えるものである。 しかし、内部被曝の問題も炭坑爆破事故被災の問題も、今も苦しむ人々が存在する問題である。だけど私を含めて多くの人は、その問題の存在すら知らないでいる。 胎児性水俣病患者の問題も今に続く問題である。

一連の番組を見て考えたことがある。「語り続ける大切さ」であり、「語り続ける勇気」ということである。人は「見て辛いこと」は見て見ないふりをする。あるいは見ようとしないものである。しかし、見なければいけないし、見続けなければいけないのである。

時の経過とともに忘れ去られ、日々起きる様々な事象の陰に隠されてゆく多くのことがあるが、実はそれらはつながっているのである。 被爆者や被爆二世だけでなく、被爆地広島や長崎に調査に入った人たちを今も苦しめている内部被曝の問題は、福島原発事故につながる問題である。 要特別支援生徒の分離教育を是とする者は、教育の効率性を優先する考え方であり、弱者を見ようとしない、弱者と共存しようとしない考え方につながるものである。 三井三池事故や水俣病問題の根底には経済効率性優先の考え方が存在している。

それは、安全性が確保されていないにも関わらず、経済効率性の観点から原発稼働を再開しようとする考え方につながるのである。 しかもここで云われる経済効率性は極々短期的なものであり、四十年五十年の長期的な観点からすれば廃棄物処理や解体処理費用を見ようとしない《エゴイズム》ともいえる経済効率性である。 さらに云えば、火山・地震大国である日本で原発を立地させ続ける危険性を福島原発は明らかにさせたにも関わらず、そのリスクに目をつむり過小評価しようとするのである。

原発事故だけではない、拝金主義ともいえる経済効率性優先の考え方は、今に生きる我々を蝕むだけでなく、次世代に大きなリスク負担を強いるものであるという考え方が等閑にされている風潮を、茫猿はとても危惧するのである。どうすればよいのか軽々には結論が出ない事柄であるけれど、忘れてはならないし、語り続けなければならないことであり、語り続ける勇気を持たねばならないことである。

 

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