新スキーム改善委概報

2012年10月24日午後13:30より日鑑連5階会議室において、第5回新スキーム改善特別委員会(委員長・緒方日鑑連会長兼任)が開催されました。 取り急ぎ、委員会審議の概報を記事に致します。

2012.08.30 所管庁との協議において、第一次改善案についての疑義が呈されたことを受けて、緒方委員長より第二次改善案(さらなる改善案)の提案趣旨説明が行われ、次いで同案についての審議が行われました。

一、第二次改善案(骨子)
1. 情報の安全管理を徹底するため、2013年06月末までにREA-JIREIを全士協会に導入する。なお、未導入の士協会については連合会が代行する。
2. 透明性の確保を徹底するため、閲覧料のあり方については、閲覧検証小委員会(委員長西川和孝氏)での検証等をさらに促進し、2013年01月までに閲覧料の提示、2013年03月末までに閲覧料の決定を行う。
3. 閲覧方法のあり方に関して、全国三次データ閲覧システムについては、いま連合会が置かれている環境、これまでの経緯等を鑑みれば、実行せざるを得ないが、そのための実務上の問題を整理するため一定期間(2013年06月末を目途とする)をかけて十分な理解が得られるよう継続審議とする。

以上のとおり、1及び2につきましては、その方針・内容に沿って着実に進捗させていくことになりますが、3につきましては、実行に向けて継続審議ということで2段階に分けた進め方となります。しかしながら、現下の状況等を鑑みれば、3につきましても、できるかぎり早期の合意が図られるよう努めるべきであります。
また、今後、国土交通省等に対しては、新スキーム改善の連合会案を提示するとともに、それに基づき、事例の一般鑑定への利用ができるかぎり安定的に保証されるよう働きかけてまいります。 (以上)

第二次改善案を検証してみれば、2013年6月末までに(2014年地価公示業務の開始までに)、閲覧料を整理し、三次並びに四次データをオンライン閲覧に供するということである。
しかし、オンライン閲覧とはいいながら、自士協会会員を除いて閲覧場所を士協会事務局に限定していること、閲覧料のあり方が依然として不透明であることなどに課題を残している。

閲覧料収入の減少は士協会財政に大きな影響を与えるという声が大きいなか、閲覧料は実費主義を基本とするという考え方がどこまで徹底できるのか、疑問が残されている。 また依然として士協会毎の事例囲い込み維持を主張する声も大きいなか、全会員のオンライン閲覧に踏み切れるのかどうかも疑問が残されたままである。 予想される閲覧料額は、閲覧実績約74万件、新スキーム負担金及びシステム維持費約2億5千万円から試算すれば、1件あたり約300円と見込まれるが、閲覧件数の減少やシステム構築費の償却等を勘案すれば、500円前後と予想される。

さらに、REA-JIREIの全士協会導入とはいうものの、REA-JIREI並びにREA-NETの管理主体は連合会なのか、士協会なのかも曖昧なままである。 なによりも2006年に構築されてから既に六年が経過しており機能的陳腐化が進んでいるREA-NETを、現状のままで導入拡大を進めてよいのかも大きな疑問点が残るのである。

二、今後の予定
2012.12.04 理事会において第二次改善案の承認を得る。
2012.11末迄に 閲覧料検証小委員会において閲覧料の概算見通しをまとめる。
可及的速やかにREA-JIREI整備計画をまとめる。(情報安全活用委員会)
2013.07.01 REA-JIREIによる全国三次データ閲覧システムの稼働開始。 従来型閲覧の廃止。

留意しておきたいのは、改善への反対論や批判が多いなかで、現行のREA-JIREIをそのまま導入するかのようにみえる二次改善案には問題が多いと云うことである。 先に述べたように構築後六年を経過し、その間、機能更新が為されていない現行システムは陳腐化や機能劣化が進んでいるということである。 REA-NETの導入促進に関して、茫猿は第289回理事会に付帯決議を提案しました。 付帯決議は賛成少数で否決されましたが、その提案趣旨は単なる現行REA-NETの導入に止まらず、機能更新も求めていたのである。 微妙な言い回しですが、単なる現行導入と更新導入とでは随分と異なるものになるという点に、ご注意下さい。

アクセス認証システムの最新版への更新、地理情報システムとの円滑なリンクは云うまでもないことであるし、オンライン決済システム導入、広汎な独自事例情報データベースの構築など、改善を加えなければならない課題も多いのである。 2013.06までの八ヶ月間に、機能更新を進めるべきなのであるが、この点に関しては理解も合意も存在していないのである。

三、現行の資料管理閲覧等規程
また旧鑑定協会は平成17年4月1日付けにて、個人情報保護法(以下、「個保法」という。)の施行を機に、資料の管理体制の整備を図るため、定款第 47 条の規定に基づき、資料の収集・管理・閲覧・利用に関する規程を定めており、その第4条では士協会等間の相互主義について、以下の様に規定しているのである。
(第4条)士協会等は、共存共栄の理念のもと、協議の上、士協会等間相互において、資料の収集・管理・閲覧・利用について、他の士協会等が自らの会員に対して提供するのと同程度の便益を、他士協会等の会員に提供するよう努めなければならない。

さらに第5条では、関係法令・ガイドラインの遵守もついても以下の様に規定している。
(第5条)協会団体及び会員は、資料の収集・管理・閲覧・利用に関して、鑑定法、地価公示法、個保法をはじめとする関係法令、主務官庁及び本会の定める不動産の鑑定評価等業務に係る個人情報保護に関する指針(ガイドライン)などを遵守しなければならない。

第26条では、閲覧に要する手数料の実費主義をうたってもいるのである。
(第26条) 閲覧者は、当該閲覧を司る士協会等の定める規程を遵守し、資料利用の受益者として、当該士協会等が定める手数料を負担するものとする。
2、前項の手数料の額は、資料を閲覧に供する当該士協会等が、資料の収集・管理・閲覧に要した実費をもとに実情を勘案しつつ、当該士協会等の規程により合理的に定めるものとする。

同時に、同規程の施行に際して当時の理事会は、以下の付帯決議を承認している。
(第1項から第3項は省略する。)
(第4項) 本規程については、上記2の議論の成果、新鑑定法の施行による業界への影響、個人情報保護法施行後の社会情勢の変化、不動産取引価格情報提供制度の進捗状況などを見極め、制定2年後(平成19年3月)を目処に、改定を検討すること。

いわば、改定を検討し、不自然な状態を解消するべく務める努力を怠ってきた結果が現状を招いているといっても過言ではないのである。 REA-NETの全国展開に消極的であったこと、REA-NETの更新を放置してきたこと、相互主義、個保法ガイドラインの遵守、閲覧料実費主義などの自らが定めた規程を空文化してきたことが現状を招き寄せているのである。 当時から現在に至るまで、旧鑑定協会並びに日鑑連の執行部に在職する多くの役員諸氏(正副会長並びに常務理事諸氏)が、自らの責任を自覚されていないやに伺えることも不思議なことである。

四、事例の一般鑑定利用の安定化について
特に注目しておきたいことは、二次改善案の末尾に記載する「事例の一般鑑定への利用ができるかぎり安定的に保証されるよう働きかけてまいります。」という文言は、改善のあり方について無用の誤解を増幅させかねないと懸念するのである。 これらの件に関して、光岡委員から傾聴すべき意見が提出されている。
《光岡委員の意見抜粋》
今般、議論になっている全国ネット閲覧は取引価格情報提供制度及び地価公示制度等に資するためのものでしょうか。これによって分科会活動を充実させて各地域での地価公示等を精緻化するためのものなのでしょうか。 そうではなく一般鑑定への利用を前提としているならば、議論は倒錯しており、当初の目的への阻害事由になると考えます。なぜならば、一般鑑定への利用を認めてもらうために、一般鑑定への利用を前提として全国ネット閲覧体制をとるのは、国民や法務省への背信行為と受け取られかねないからです。(中略)

なお一般鑑定への利用が認められて利用者の機会均等を議論するときは、公益を配慮するのか私益を配慮するのかの論点、さらには鑑定評価の精度の論点が重要かと思います。
新スキームの枠内で考える限り、管理の問題、閲覧料の問題、閲覧方法の問題、いずれも鑑定評価の公益性を軸にした整理が必要になろうかと思いますが、公益を軸に論点整理し、鑑定評価の精度も合わせて考えるならば、やはり対象不動産とともに取引事例を検分するためには、その地域に入らねばならず、その意味で現士協会程度の地理的場所において事例閲覧に供するのは独禁法上の合理的な疑いを阻却できると思われます。逆に今のように取引事例の扱いの適正さを担保できない現況では公益性が阻害されると思われます。特に鑑定協会が決めた事項といえども、強制力を有しない規定の実効性は常に不安定であるため、規定ではなく、実際の体制や仕組みで公益性を担保すべきと考えます。
今の段階でもし公益に資する目的で全国ネット公開すべきものがあるとすれば、事例データそのものではなく、鑑定評価の実質的な規律に関わるものとして、地価公示等の現在認められている枠内での種別毎、地域毎の事例データの分析内容を主として、そのほかに広域にわたる同一需給圏の事例データの分析内容かと思われます。(抜粋引用終わり)

五、茫猿の提案
茫猿は新スキームの改善に際しては、事例の囲い込み維持や士協会財政への配慮などにとらわれて問題を矮小化することなく、資料データベースの機能強化など会員の便益向上に資する施策を検討すべきであると考えている。

1.データ解析の便宜供与(鑑定評価書のクオリテイ向上)
納品確定済み三次データについて、公示評価員に限定される多様なデータ解析の便宜を図ること。 安全性には十全の配慮を講じた上で、集計結果等の鑑定書記載を認めること。並びに、その支援ソフトを開発供与すること。

2.非回収データの利活用(鑑定評価書のクオリテイ向上)
非回収データについて、照会を伴わない集計データ等としての閲覧等利活用を認めること。 取引当事者の内、照会対象としない一方への照会を認めれば、なお良いことである。 評価基盤資料の強化につながるものである。 並びに、その支援ソフトを開発供与すること。

3.調査の効率化と負担軽減(特に地理情報利活用)
連合会の負担において地図システムを早期に導入し、地理座標値の活用を図ること。 特に地理情報システムで簡易に取得できる事例属性としては、各種施設距離条件データや都計用途地域をはじめとするエリア的属性データが存在している。 これらのトータルシステムを開発提供することにより、調査の役務負担を大幅に軽減することが可能と考えられる。

4.公的土地評価の一元化と事例利活用
公的土地評価における三次データ及び地価公示由来事例(四次データ)の一元的利活用の確保を求めるものである。 特に固定資産税土地評価における地価公示由来事例の円滑な利活用は固評標宅評価の精度向上に不可欠である。 (注)土地基本法第16条に云う公的土地評価とは、土地情報ライブラリーによれば、地価公示、都道府県地価調査、相続税評価(相続税路線価)、固定資産税評価(固定資産税路線価)が主なものとして挙げられている。

同時に士協会を通じた公的土地評価一元的事例利活用は、固評における士協会のプレゼンスを強化させるものと考える。 士協会を通じた(守秘対象)事例提供は、その代償として固評業務を通じて入手し得る様々な(守秘対象)市区町村情報について、士協会への提供を求めることを可能または前提とするであろう。
本項目もまた、士協会が固評受託業者にデータ提供を行う為の管理ソフトの開発供与を伴うであろうし、提供を受けたデータの管理ソフトも必要と為るであろう。

5.幾つかの士協会が行うDI調査の全国的展開を支援すること。
DI調査は、不動産価格指数や地価公示価格推移指数とリンケージすることにより、鑑定評価の精度向上に資するものである。 DI調査結果が不動産価格指数や地価公示価格推移指数と差異が生じれば、その差異の所以を説明することによって、斯界のプレゼンスを高めるであろう。 同時に宅建業界との友好増進増強に役立つし、地元メデイアへの広報を通じて地元士協会のプレゼンスを高めるものとなる。

6.Web不動産情報の有効活用
Webに溢れている不動産情報を、効果的かつ効率的に集計して有効なデータベースとして活用すべきである。 検索エンジンで収集した不動産情報を前2項の非回収二次データと照合すれば、面白い独自データベースが構築できるのではなかろうか。 この独自データベースの構築は、借用データの利活用に止まっている現況を打破する意味で、資料データのオリジナリティの観点からはとても重要なのであるが、諸氏の理解は其処に及んではいないのがとても残念なことである。

以上の施策を実行に移そうと思えば、相当に多額の予算措置が必要となろうが、それは連合会閲覧事業特別会計のなかで計上されればよかろうと考える。 即ち、会員個人宛の調査に関わる実費等弁償は行わないが、関連付随事業を連合会単位で、ブロック単位で、士協会単位で実施しようというのである。 事例調査等関連付随事業であるから、広義の実費と認めるものであり、将来的な研究開発費と位置付けることも当然であろう。 連合会財政に直接的な影響は与えないし、士協会へは配付金とか補助金支援ということになろうが、あらぬ疑いを避ける意味から、紐付き交付金・補助金となるか、連合会の公益法人会計規準からすれば共同事業となるのも、やむを得ないことである。

以上の提案事項の採用や実施は、調査を担当する地元公示評価員のアドバンテージ強化につながるものであり、即ち地価公示並びに事例調査へのモラールを高めるものとして期待できる。
さらには、直接的に或いは間接的に鑑定評価を支援するデータを取得し、さらに社会に還元することによって、社会におけるプレゼンスを強化するものとして幾つかの事業展開が考量できる。
DI調査などは、その最たるものである。 今やアントレプレナーやベンチャー的発想や行動が求められていると考える。

そういった積極的な事業展開によって、連合会は実態的にあるいは実質的に、各種取引価格情報の連繋を担う中核機能(ハブ)の相当部分を担う存在と為り得るであろうし、まさに中核機能(ハブ)を支える覚悟と意欲の社会への表明ともなるであろう。(以上の提案は上申書として具申しましたが、話題にもなりませんでした。)

総じて、REA-NETについての理解が不足していることや、自らが制定する「資料の管理閲覧規程」の空文化への反省も認められないことを、改めて自覚することから始めなければならないのである。 2004年に始まる新スキーム導入以来の八年を、空費してきた現執行部の責任はとても重いものがある。同時に改善に消極的というよりも反対してきた大多数の会員諸氏の自覚と責任も問われなけれればならないのである。

折しも、地価公示評価員(不動産鑑定士)の評価ランク付け(4段階の相対評価)が開始されるという、事態は我々の理解を超えて新たな展開の姿を見せつつあり、残された時間は僅かとなっている。 公示評価員の評価導入に関しても、絶対評価導入であれば、理解できないこともないが、相対評価を導入するというのであれば、何をかいわんやである。 地価公示を取り巻く逆風は、我々不動産鑑定士の理解を超えて激しさを増しつつある。 今月末もしくは来月早々には「地価公示のあり方検討委員会」が発足する予定でもある。 10.24改善特別委員会の審議においても、事態が切迫していることについての危機感がとても希薄なのを危ぶむのである。

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