新スキーム改善の行方

今回の新スキーム改善問題の根底には「Self-Regulation」があると、茫猿は考えます。 従来からの事例収集体制と決別した新しい成案を、鑑定業界が自ら作成できるか否かが、当問題の要であろうと考えます。
独禁法抵触、個人情報保護法ガイドライン抵触、不動産取引情報開示に関わる閣議決定対応等の課題に鑑定協会がどのような成案を示し得るかが、鑑定協会のコンプライアンスを示すものであろうと考えます。
それらの課題は、新スキーム発足当初から指摘されていながら先送りした結果であり、多くの鑑定士が従来の事例収集体制(2005年以前の体制)と本質的な差異はないと誤解したところから始まったものと考えます。 現行スキームの事例管理・利用の慣行、即ち士協会の事例管理権には正統性が認められないと認識するところから、改善問題は始まると考えます。


新スキーム問題の改善課題は、独禁法抵触問題、個人情報保護法ガイドライン抵触問題にあると考えますが、三次データをオンライン閲覧に限定して全会員(公示評価員である非会員も含まれる)に閲覧を認めるということで、課題は概ねクリアできつつあるように見えます。
しかし、多くの士協会が要求している『当該士協会会員以外の閲覧は、士協会事務局でのオンライン閲覧に限定する』という改善策は、独禁法抵触問題を解決せずに、先送りすることになる恐れが高いと考えます。
一つは、事務局に出向かせるという行為が、ある種の障壁と受け取られる可能性が高いことです。事例地の現地実査をするのだから、事務局へ出向くのは大きな手間ではないという主張があるようですが、現実問題としては「嫌がらせ」に近い制約です。 別の観点からは会員端末からのオンライン閲覧は、閲覧件数を増やすであろう見込が高いと云えます。
もう一つは、閲覧料を他県会員には士協会会員より高く設定する、あるいは各士協会がバラバラに閲覧料を設定する可能性が残ります。
また、各士協会事務局に複数台の閲覧端末を整備して、閲覧者に不自由さを与えないようにできるのか、閲覧予約を求めたりしないのかなどの疑問も残ります。 この二点については、リーガルチェックが必要と考えます。
閲覧システム維持と鑑定協会財政問題は、全国の閲覧料を鑑定協会にプールし、閲覧システム維持費を控除した残額を、三次データ作成事例件数に応じて、各士協会に配分すればよいと考えます。(事例調査作成料の傾斜配分)
その後に、配分された事例作成料を作成評価員に配分するか、士協会財政に振り替えるかは士協会自治の問題と考えます。
閲覧料の全国プール、その後に作成件数に応じた作成料士協会配分という、いわゆる傾斜配分は東京会はじめ閲覧件数の多い都市圏の士協会には容認し難い配分方法かもしれませんが、全国オンライン閲覧という便益との引き替えということで、承認できるものと考えます。
可能な限り多数の事例を収集する全数調査を維持することにこそ、意味があるという側面も指摘できます。 銀座の事例も中山間地の事例もその価値は、全数調査の観点からは等しいと云えることです。
なお、閲覧料の徴収は、オンライン閲覧のLOGを用いて、「JAREA online」類似システムを採用されれば、鑑定協会の財政負担は生じないと考えます。 最も望ましいのは、オンライン・カード決済システムの採用でしょうが、「JAREA online」システムをそのまま採用されても宜しかろうと考えます。 また、大量閲覧の横行という問題は、一回あたりの閲覧件数制限や一日あたりの件数制限、さらには適切なLog管理により排除できうると考えます。
以上の項目を踏まえて考えれば、「新スキーム」という実態の不明な事業名称を廃止し、事業内容を明らかにする新名称(例えば、不動産センサス)を与え、会員の誤解を断ちきる新制度を創設すべきであろうと考えます。
不動産センサス事業には、地理情報システムも組み込んで、鑑定評価のニュービジネスを展開する礎としたいと考えているところです。
全調査対象事例(住居表示未施行地域、地目農林地事例:宅地見込地や造成前更地等)について座標値を取得し、さらに距離条件や都計用途なども自動取得させる。(この為のシステム構築も、ほぼ終了している。)
さらに地価公示事例カード2枚目を廃止して公示評価員の負担を軽減するとともに、地理座標値利用の採用により事例分析のビジュアル化を実現する。
将来的には様々なポリゴンデータ(区域を表示する多角形図)の作成を士協会主導で行い、都計用途区域図、小学校学区図、固評状況類似地域図、公示地設定区分図、土石流警戒区域、津波・浸水区域図等々をデータ化し便益を強化すると同時に、国土数値情報ダウンロードサービスの効果的利用も検討されなければならない。
それらは、鑑定評価の精度向上に寄与するであろうし、会員の情報収集並びに分析工程の負担軽減に結びつくであろう。 さらにビジュアル化した地価情報と付加する各種不動産情報は、新たなサービス展開に結びつくであろうと考える。

新スキームの改善を迫られているという一つの危機は、得難い機会であるとも云えるのです。 不動産センサス事業創設という提案を鑑定協会自らが行い、事業委託者とのあいだに資料の管理・利用協定を締結して法務省ゼロ次データ利用の正統性を確保し、次いで鑑定士の資料利活用の透明性を確保して鑑定評価のフロンテイアを拡大する、そんなターゲット・テーマのもとに鑑定協会が結集するに、この秋はまたとない機会であろうと考えるのです。
《2011.08.20 追記》
この記事は鑑定協会のコンプライアンスをテーマにしているのだが、資格者業界であるが故にコンプライアンス意識は最も高いであろうと社会から認識されてきたはずの鑑定協会の、コンプライアンスを疑うような事態に遭遇した。 とても驚いている。

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