インデックス事業私案

 平成11年1月13日付け国土庁土地政策審議会意見取りまとめにお
いて、「収益力に着目した不動産の評価を重視」或いは「収益還元手法
を支える具体的なデータの整備、大都市の高度商業地における現実の複
合不動産の収益還元価格の算定・公表の試行」等の提言が行われ、それ
を受けて、鑑定協会資料委員会インデックス専門委員会で検討を重ねて
参りました経緯は、委員会報告で先にお知らせしたとおりです。
 この度、委員会審議経緯を踏まえて、次のような私案を提言しました。
私案を公開して、皆様のご意見を伺いたいと存じます。「土地政策審議
会意見取りまとめ」につきましては、末尾に参考抜粋致します。
 尚、EXCELにより作成された、データシートやインデックス作成
シートは添付致しておりません。
更に、この私案は独自私案ではありません。今までの専門委員会審議を踏
まえるとともに専門委員各位の多くの御提言を基礎にするものであるこ
とをお断り致しておきます。誤った理解もあろうと考えますので、忌憚
のないご批判を歓迎します。
 さらに付け加えますと、以前に指摘を受けましたのは、このような事
業を企画する際に、忘れてならない視点は、当該事業が何の為にという
よりも、誰の為にという視点を欠かしてはならないと云うことです。
 自分たち評価に従事する者の精度向上の為であるのか、広く社会にデー
タを提供して、一般社会の便益に供するものであるのかという視点です。
自分たち評価者に役立つ資料と、社会一般の行動指針として役立つであ
ろうと考えるものとでは、自ずと視点もその内容も異なるものであろう
ということです。
【収益インデックス(賃料インデックス)作成事業・私案】
一、はじめに
 地価公示・地価調査を始めとして、固定資産税標準宅地評価額が公開
され、次いでは地価公示等鑑定評価書が公開される時期が間近に迫って
参りました。これら、公的評価の過程において、比準価格決定の基礎資
料並びに試算行程は整備が進んでおり、試算基礎資料の質及び量、試算
過程の精度は格段に向上しています。
 しかし、収益価格に関しては残念ながら、試算基礎資料としての賃貸
事例の質及び量、或いは収益価格試算行程における各数値の標準性や基
礎データ及びパラメーターの質と量に関しては未だしと云わざるを得ま
せん。
 さらには、地価の右肩上がり時代が終息し、更地の価格ではなく、不
動産の利用の態様に応じて形成される複合不動産収益価格が重視され、
地価が当該不動産の収益状況によって変動する時代に入ったにもかかわ
らず、収益価格査定の基礎データが充実しているとはいえない状況にあ
ります。
 この憂慮すべき状況に鑑みて、「収益価格の公示」とも名付けられる
事業に早急に着手すべきと考えるものです。
 三大都市圏においては各分科会毎に、地方圏においては県庁所在地も
しくは、それに替わり得る都市に、「商業地・住宅地各一地点の収益標
準地」を設定し、収益価格ならびに設定する収益モデルを公開すること
により、標準収益不動産モデル、標準賃料、標準収益価格並びに標準収
益係数を公開することにより、収益インデックス(賃料インデックス)
を開示することとしたいと考えます。
さらに、重視したいのは、取引事例と異なり賃貸事例は継続するもの
であることです。つまり、収益(賃貸又は事業用)不動産は継続して収
益の用に供されるものであり、テナント(賃貸条件)調査であれ、複合
不動産詳細調査であり、賃貸継続諸経費調査であれ、単年度で全てを把
握することが望ましいのは事実であるが、必ずしも全ての調査項目を満
足させる必要はないとも云える。
二年三年かけて、当該収益物件の全貌を把握するように務めればよいと
も云えるのである。その継続する調査の積み重ねが、多面的データの把
握につながるものであり、基礎資料の質及び量を向上させるものとなる
からである。
その観点からすれば、継続的追跡調査を行うことが、資料を充実させる
と同時に、空室率やテナントの回転率を実証的に把握できることともな
る。別の云い方をすれば、地方小都市でもなければ、事業用(収益用)
複合不動産の悉皆調査は無理にしても、継続性のあるサンプリング調査
は可能であると考えるし、是非とも行ってみたいとも考えるものである。
二、開示(公開)成果物(作成する成果物)
調査成果物は、「設定する標準収益価格及び標準収益率」と「賃貸事例
及び収益物件取引事例より導かれる収益率」の二種類である。
a.全国で約200ないし300地点の「商業及び住宅収益標準地の概
要」土地の開示概要は地価公示に準拠し、建物の開示概要は別途検討す
る。
※標準地は既存の地価公示標準地を使用する場合と、別途設定する場
合とがある。標準地の規模は、あらかじめ一定の範囲を定めて、全国
的な比較が可能な状況を用意する。
b.設定収益不動産モデル(建築物の概要、設定賃料及び設定諸経費の
概要)
※設定収益不動産モデルは、設定地域の標準的使用に整合するもので
あることは当然であるが、同時に全国的に比較が可能な統一的モデル
 を準備する。例えば住宅地であれば、「実効容積率160%・S-4、
 もしくはRC-8」、商業地であれば「実効容積率400%・RC-
 8、もしくはRC-15」といったように、全国的に三大都市圏及び
 地方 圏毎に相互比較が可能なモデルとする。
c.標準地に設定される収益不動産モデルより導き出される、粗収益利
回り、純収益利回り等収益・賃料インデックス、及び収益物件取引事例
から求められる取引利回りの推移動向。
d.個人情報を消去した賃貸事例(いわゆる間接法収益事例について、
施工床面積等の建物情報を充実した資料)、収益物件取引事例。事例デー
タの分析手法は別途検討されるものであるが、集計値の開示から始めて
近い将来には統計的分析を行う。
※賃貸事例及び収益物件取引事例については、毎年の継続調査を行う
ことにより、収益不動産利回りの推移動向調査の基礎とする。
三、収益(賃料)インデックス調査事業の行程
a.前述のとおり、各地価公示分科会において、商業地・住宅地各一地
点の標準地を選定する。(9月頃を目途)
b.前項二のd項に記載する資料の収集を行う。この際において、必要
に応じて賃料水準、賃貸諸経費係数、建築費等のモニター調査を並行し
て行う。(12月締切)
c.協会においてデータファイル形式の標準収益価格モデルを作成する。
(12月目途)同モデルは地価公示フォーマットの使用並びに地価公示
モデルとの双方向性確保は必須条件である。
 地価公示との双方向性を維持することにより、収益データの作成・保
存ファイルとしての機能を持ち、地価公示評価員のみならず、共通の収
益データファイルとして一般会員の便益に供することができることから、
当該モデルの販売数は相当数が見込める。
 標準収益価格モデルの構成 
 イ.標準地・標準建物の入力 
 ロ.間接法収益事例(建物積算価格の試算過程充実) 
 ハ.収益物件取引事例(取引価格入力フィールドを持つことによりイ
   と共通) 
 ニ.間接法事例・取引事例の追跡調査用テナントファイル 
 ホ.建物建設事例(ロ、ハと共通するものであるが、建築事例ファイ
   ル充実) 
 ヘ.標準賃料及び標準必要諸経費係数査定と標準建物価格・標準地価
   格試算
 ト.賃料比準表並びに比準モデル機能
 チ.標準収益価格の試算
 リ.試算元本価格と純収益の対比、キャピタルゲインの査定、総合収
   益率査定 
 ヌ.データ・インポート、エキスポート機能
同標準収益価格モデルに、選定標準地及び設定収益複合不動産データ、
並びに収集したデータを入力して、前項二のb、c査定値を出力する。
(入力データ及び係数は地価公示フォーマットに準拠して作成し、地価
公示評価モデルとインポートエキスポートが可能な状態で保持する)
(翌年2月を目途)
d.前項データを全国集計することにより、圏域毎の収益インデックス
を作成する。(翌年3月末目途)
e.本調査における、入力データシート及び標準収益価格やインデック
ス等出力データシートは別添の通りである。
f.本調査にとって重要なのは、継続性である。取引事例資料は資料調
査全体として継続する調査が必要であるが、賃貸事例及び収益物件取引
事例は、継続する賃貸借事例であるからして、毎年の継続調査が重要で
ある。
 新築5年以内の賃貸資料であれば、以後10年間の継続追跡調査を行
い。5年以上の経年建物賃貸事例或いは収益物件取引事例であれば、隔
年毎の追跡調査を行って、事例資料収益率の経年変化を探る。
同時にこの追跡調査の継続により、基礎資料の全体量と質は年を経る毎
に充実し、精度増してゆくものと考える。同時に、賃料比準に際しての
比準表が検討未了であるので、賃料比準表の検討に着手する。
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土地政策審議会意見取りまとめ
“ポスト「右肩上がり」時代の土地関連諸制度のあり方”
http://www.nla.go.jp/shingi/gizi/tochi/990113.htm
(これまで検討した事項)
 ① 住宅ローン減税のあり方(公表済み)
 ② 流通課税の改善の方向
 ③ 収益を重視する方向での不動産鑑定評価制度の確立
 ④ 土地情報の開示・提供の仕組みの整備
 ⑤ 大都市の既成市街地の再編の方向   (虫食い土地の集約・整
理・再編・活用策を含む)
 ⑥ 総合的な土地利用計画制度の実現の方向
上記を受けて、意見取り纏めは(3)及び(4)について、下記のよう
に述べています。
5 最後に、③と④は、不動産鑑定評価の分野における収益重視の方向
と土地情報に関する開示・提供についての提言であるが、これらにおい
ては、右肩上がりの地価上昇が見込まれなくなった現在、既成市街地等
に存する不動産の有効利用とそれにつながる土地取引の活性化を実現し
ていくことが必要であるという観点に立ちつつ、ボーダーレス化が進む
我が国経済の中で不動産に対する必要な投資を確保していくためには、
収益力に着目した不動産の評価を重視していかざるを得ないこと、我が
国における不動産に関する情報の開示不足が不動産取引市場における合
理的な価格形成を妨げているきらいがあること等を指摘したものである。
③においては、収益還元手法を中心に、不動産鑑定評価基準に係る分野
において、当面具体的に検討を必要とすると考えられる有期還元手法や
DCF法の採用、適正評価手続の採用、収益還元手法を支える具体的な
データの整備、大都市の高度商業地における現実の複合不動産の収益還
元価格の算定・公表の試行等についての検討を行うべきこと、
④においては、不動産関連の各種情報の具体的な開示を進めるためのネッ
クとなっているプライバシーや守秘義務との関係を整理した上で、特に
実売価格については取引関係者に対する開示方法の検討を行うべきこと、
不動産の収益価格を算定する上で不可欠な成約賃料については、不明確
な場合の鑑定評価における取扱方針を明らかにすべきことと成約賃料デー
タの収集及び活用の仕組みを検討すべきことを示している。

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