揺れすぎた振り子

 先頃、鑑定協会主催で開催された「収益還元手法の精緻化」研修会で
は佳いことが二つありました。揺れすぎた振り子を戻そうとする動きの
ようにも感じましたことです。
 一つは、T講師が述懐されたことにあります。
メモも録音も採っていませんので、正確には再現できませんが、発言の
要旨は次のようだったと記憶します。
 『DCF法やデユーデリジェンス手法にとって不幸だったのは、98年
秋のいわゆる「不良債権担保不動産の適正評価手続の留意事項」関連の
研修会等において、「DCF法やデユーデリジェンス」がデフォルト状
態の債権処理に伴う不動産評価に際して採用される手法等と、誤解され
たことにある。』と云う発言がそれです。
 実態は、会員が誤解したのではなく、誤解するような或いは意図的に
誘導する講師発言が多かったのだと記憶します。
「DCF法」を採用すれば、正常価格よりも著しく低い評価額が適正に
試算できると云わんばかりの発言が多く、「不良債権処理に関しては早
期売却可能な適正価格が求められている。」或いは「不良債権担保不動
産評価に際してはDCF法(短期間の)採用が要件である。」という類の
発言が横行していたように記憶します。
 当時、協会理事であった茫猿は98/11理事会において、いわゆるデュー
デリ関連で、「不良債権担保不動産の適正評価手続における不動産の鑑
定評価に際して特に留意すべき事項について」の審議が行われた際に、
当該事案に反対の立場から、記名採決を求めた経緯があります。
 記名採決は前例がないと拒否され、同留意事項は賛成多数で理事会承
認案件となった訳ですが。
 歴史を修正することはできませんし、一端生じた認識はそれが誤って
いるにしても、訂正するには当初の数倍の努力が必要なものです。
それにしても、学究肌で誠実なお人柄のT氏の発言や同じような立場か
らのY氏の講演要旨に救われる思いがしました。
 改めて、収益還元法が内在させている問題点を明らかにし、一方に
偏重しないように舵取りをしてゆくことが大事なのだと感じました。
 それは、DCF法或いはDDCF法も含めて収益還元法を充実させて
ゆくために必要な、資料の充実やインデックスの開発等の基礎的努力が
求められていることであり、収益還元法自身が内在させる問題点という
か乖離というものについて、及び収益還元法試算結果と他の手法試算結
果との開差等についての「説明義務」が求められているということであ
ります。
 もう一つ、佳きことと感じましたのは、講義テキスト末尾に小さく取
り上げられていたことではありますが、収益還元法に関連するWebS
iteが取り上げられたことです。
 WebSiteより先に参考文献として多くの文献が掲載してありま
すが、参考文献の内、少なからぬ資料は入手が困難であったり有償であ
ったりしますが、Webは無償で且つ直ちに閲覧が可能でありますから、
受講者にとっては有益な情報であり、同時に協会研修委員会がWebに
着目し広報するようになったことを佳いことと思います。
 とりわけ、かねてから茫猿が推奨しております「堀田勝己氏のWeb
Site」が紹介されていることを嬉しく感じました。
「DCF法に対する誤解、無理解、過剰期待」と題する氏の論考を一読
してみてください。
参考までに堀田氏の論考の冒頭を引用します
 http://www.kanteishi.net/kantei/paper/002dcf.html
 キャッシュフローに着目せよ、というのが最近のトレンドのようであ
る。不動産の世界でも、収益価格こそが正しいというような論調の中で、
不動産から得られる現金収入によりその不動産の価値を計るDCF法が
脚光を浴びている。
 しかし、この国の通例として、皆が良いと言い出せば、それが何物な
のかをよくわからずに手放しに礼賛する声も多い。本稿では、DCF法
に対する世間一般にある誤解や、それが何であるかすら理解していなか
ったり、反対に過度に期待している人の多い現状を、批判的に分析した
い。
 なお、DCF法は、本来投資分析手法であり、特定の投資家が自身の
期待利回り等に基づいて需要者価格の算出として適用する場合には、現
状でも何ら問題は発生しないと思われるので、本稿においては、不動産
鑑定士が第三者としての立場において、一般の鑑定評価で用いる場合に
限定して議論を展開する。
この項終了

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