今年度の鑑定協会企画委員会では、公益法人改革並びに連合会体制の検討・推進がテーマとなっているのは鑑定協会事業計画や企画委員会議事録で周知のとおりである。ところで、公益法人改革とは行政改革推進事務局によれば「公益法人制度そのものについて抜本的かつ体系的 な見直しを行い、真に時代の要請に応え得る制度を構築することにある」と云う。
さて、そこでは「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成20年中施行予定)」が制定されて、民法に定める公益法人に関する制度を改め、剰余金の分配を目的としない社団又は財団について、その行う事業の公益性の有無にかかわらず、準則主義により法人格を取得することができる制度を創設し、その設立、機関等について定めることとなった。
同時に「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成20年中施行予定)」が定められ、公益法人の設立の許可及びこれに対する監督を主務官庁が行う民法に定める制度を改め、内閣総理大臣又は都道府県知事が、民間有識者による委員会の意見に基づき、一般社団法人又は一般財団法人の公益性を認定するとともに、認定を受けた法人の監督を行う制度を創設することとなった。 以上は行政改革推進事務局ホームページに詳しい。
つまり、法人の設立(一般社団法人)と、公益法人の認定が別のものとして分離区分されたわけである。このあたりの経緯や協会3月理事会で承認された基本方針等については『鄙からの発信』アーカイブをご参照下さい。
『既成事実化?』(07.08.27)
『連合会基本方針』(07.08.28)
『制度改革対応方針-1』(07.08.29)
『制度改革対応方針-2』(07.08.30)
つまりのところ、平たく云えば従来は所管庁の認可を要した「社団法人設立」が改革により「一般社団法人」と改称され、その「一般社団法人」の設立は原則自由であり登記のみで設立できることとなったのである。しかる後に「一般社団法人」のうち、公益性が認められる法人についてのみ「公益社団法人」の名称と税法優遇措置等特典を与えることとなったのである。
この改革が(社)日本不動産鑑定協会と(社)○○都道府県不動産鑑定士協会の今後にどのような影響を与えるかが当座の焦点である。この件に関しても大きな変化は予想されないのであり、現行公益法人の移行期間五年間のうちに然るべき移行措置を完了すればよいし、移行措置にそれほど大きな障壁は生じないと予想されるのである。何となれば、現存鑑定協会は優れて公益法人なのであり、虎ノ門界隈に林立する数多の公益法人の過半は鑑定協会以上に業益法人であると考えられるからである。それら数多の社団法人が「一般社団法人」に移行しさらに「公益社団法人」への移行が著しく困難になるような事態が到来するとはとても予想できないからである。
では何をもって「公益法人改革の陥穽」というのか、それは社団法人設立が許可制から登記設立制度に変わったことに潜んでいると考えるのである。従来は東京都に(社)東京都不動産鑑定士協会以外の鑑定士社団が許認可設立されることは考えられなかった。
しかし今回の制度改革及び法改正によれば(社)西東京不動産鑑定士協会や(社)東日本不動産鑑定士協会或いは(社)全日本不動産鑑定士協会の設立登記が可能となった訳である。類似名称を避けることなど検討されなければならない課題は幾つかあるだろうが、さしあたって(社)関東不動産鑑定士協会などが登記設立される可能性も否定できないのではなかろうか。当然のことだが現存中間法人が一般社団法人成りすることもあり得る。
さらにこれら設立された「一般社団法人○○鑑定士協会」が鑑定業登録を行う可能性も考慮されなければならない。何よりも団体会員として(社)日本不動産鑑定協会に加入を申請した場合に協会はどのように扱うのであろうか。第二、第三鑑定士会が設立される可能性も視野に入れて「制度改革対応方針」や「連合会移行方針」を検討しなくてもよいのだろうか。一番最初に検討と云うよりも確認されなければならないのは、「不動産の鑑定評価に関する法律:第48条」は今後如何様に解釈されるのかである。
【疑問点を整理しておこう】
1.一般社団法人○×鑑定士会の設立自由化?
2.一般社団法人○×鑑定士会は事実上の鑑定法人設立では?
3.固評や路線価、デユーデリ等、特定事業目的社団法人が設立される?
4.公益法人連合会は、公益法人都道府県社団のみを会員とする?
5.重層会員制度や会費代理徴収制と、複数社団重複入会の整理は?
6.47都道府県士協会を団体会員として傘下に治める唯一の全国会(連合会)というピラミッド構造は万古不易だろうか?
7.公益法人改革と協会定款第5条等の整合性は?
他にも様々推量されるが、書いていて次第に怖ろしくなった。特定の意図など無くとも「一般社団法人☆☆市鑑定士会」が設立されて営業行為を行えば、結果としてどのような事態が生じるのであろうか。営業行為と云うが、剰余金の分配を目的とせず、その行う事業の公益性の有無を問題としなければ、営利行為が可能と解されるが如何だろうか。
視点を変えてみれば、所管庁や都道府県の公益法人設立許認可制度と監督・指導に庇護されてきた「(社)日本不動産鑑定協会や全国の(社)都道府県不動産鑑定士協会は、その庇護も監督指導も取り払われた状態におかれるということである。表現が適切ではないかもしれないが、「小泉改革の置き土産:規制緩和グローバル化自由競争」の荒波に、2009年以降はもまれるという覚悟の有りや無しやが問われている。
茫猿が考えつくようなことだから、とっくに明解に整理されていると思えるのだが、考えれば考えるほど判らないのである。茫猿の疑問が誤解・勘違いだったり、杞憂であったり、老爺の取り越し苦労であれば宜しいのですが、如何なものでしょうか。有識者各位に御教授をお願いしたいのです。
【 民 法 】
(公益法人の設立)第34条
学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益に関する社団又は財団であって、営利を目的としないものは、主務官庁の許可を得て、法人とすることができる。
(名称の使用制限)第35条
社団法人又は財団法人でない者は、その名称中に社団法人若しくは財団法人という文字又はこれらと誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。
(定款)第37条
社団法人を設立しようとする者は、定款を作成し、次に掲げる事項を記載しなければならない。
1.目的
2.名称
3.事務所の所在地
4.資産に関する規定
5.理事の任免に関する規定
6.社員の資格の得喪に関する規定
【不動産の鑑定評価に関する法律】
(不動産鑑定士等の団体)第48条
不動産鑑定士の品位の保持及び資質の向上を図り、あわせて不動産の鑑定評価に関する業務の進歩改善を図ることを目的とする社団又は財団で、国土交通省令で定めるものは、国土交通省令で定めるところにより、国土交通大臣又は都道府県知事に対して、国土交通省令で定める事項を届け出なければならない。
【一般社団法人及び一般財団法人に関する法律】
第五款 一般社団法人の成立
第二十二条 一般社団法人は、その主たる事務所の所在地において設立の登記をすることによって成立する。
(社)日本不動産鑑定協会 定款 第2章 会員及び会費
(種別及び資格)
第5条 本会の会員は、団体会員、正会員、特別会員及び名誉会員とする。
2 団体会員とは、不動産鑑定士、不動産鑑定士補及び不動産鑑定業者等を構成員として、都道府県を単位に設立され不動産の鑑定評価に関する法律(昭和38年法律第152号) 第52条の規定に基づいて届出を行った社団のうち、本会が適当と認めたものをいう。
「会員及び会費規程」
(団体会員)
第1条の2 団体会員となることのできる不動産鑑定士協会とは、不動産の鑑定評価に関する法律第52条に基づいて届出を行った社団のうち、本会が適当と認めるものをいう。
2 前項の本会が適当と認めた社団とは、理事会において定める基準に従い理事会の議を経て会長の承認を得た社団をいう。
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はじめまして。
(財)公益法人協会で研究員をやっておりました富永さとると申します。
フリーになって、個人研究所として「公益」「不特定多数の者の利益」についてのブログを始めました。
7月に公益認定等委員会に提案した受益者の不特定多数性についての判断フレーム(案)も載せてあります。
http://77714969.at.webry.info/200711/article_3.html
自画自賛になりますが、9月からはじまった委員会のガイドライン審議はこの案と多くの部分で考え方が一致しているように見受けられます。
公益目的事業比率の計算の前提になるのが、その事業が公益目的事業なのか、収益事業等なのか、という腑分けです。公益目的事業であるための要件の柱のひとつが受益者の「不特定多数性」ですが、この言葉は言葉から受ける印象と中身がだいぶ異なります。たとえば極端な話、合理性さえあれば直接の受益者は一人でもいいのです。
お暇なときに覗いてみていただけると幸いです。
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富永さとる MBA in Social Design Studies
公益性の構造転換~パブリック・ベネフィット研究所
http://77714969.at.webry.info/
satoru@jca.apc
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