敷地細分化抑制のための評価指標

 たまには国交省サイトや土地総合情報ライブラリーを覗いてみるものである。 地価LOOKリポートを見ようと立ち寄って見つけたのが「敷地細分化抑制のための評価指標マニュアル」の公表についてという、国土交通省土地・水資源局土地政策課 (2008.06.05発) の記事である。 評価指標とあるのに、鑑定協会からは何のアナウンスも無いけれど何だろうなと開いてみたのである。


《公表されている記事は二部に分かれており、》
・敷地細分化抑制のための評価指標マニュアル(1~3章)(2MB)
・敷地細分化抑制のための評価指標マニュアル(4~6章)(3MB) である。
 168頁に及ぶ長文であるから、全文を詳細に読んだというわけではないけれど、興味深いリポートである。 まず、 「敷地細分化抑制のための評価指標」作成の背景・目的について、こう述べる。

 現在、住宅・宅地については、量的には充足されてきたものの、居住環境の質については十分とは言い難い状態も見られる。宅地行政においても、重心を量的供給の促進から、宅地ストックの質の向上へと転換を図ってきたところであるが、新規の住宅・宅地供給は今後も一定量見込まれている。宅地ストックの質の向上のためには、今後、宅地需要に応じて新規に供給される宅地の質の向上をめざすとともに、既に供給されてきた宅地の質の向上を図る必要がある。

 《さらに、こう続くのである。》

(中略) 第三に、これらの検討を踏まえ、居住環境に係る技術的要因の分析及び評価手法のあり方を検討することにより、問題のあるミニ開発等を抑制し、良好な居住環境を持つミニ開発へと誘導することを目的とする消費者および地方公共団体等への居住環境に係る情報の表示・提供のあり方について検討する。
 検討にあたっては、消費者が敷地細分化やミニ開発の居住環境への影響についての認知を高めるとともに、消費者が住宅団地の居住環境を評価できる評価指標の検討を目的として、「住宅団地の居住環境に係る技術的要因の分析等の検討委員会」を設置することとする。

 《評価手法のうち、ヘドニック法については、こう記述される。》

(2)ヘドニック法の概要
・ヘドニック法とは、良好な居住環境を形成することによりもたらされる便益が土地価格に帰着すると仮定し、良好な居住環境形成に伴う地価単価の増加分で便益を計測する分析手法であり、地価単価の増加分は地価関数により計測する。
・本調査においては、ミニ開発等による敷地細分化がもたらす周辺宅地を含めた居住環境の変化に伴う地価単価の変化を、ヘドニック法を用いて分析・評価することを目的としている。
・一般に、居住環境形成要素の中でも、用途地域、容積率、前面道路幅員、最寄り駅までの距離等立地・利便性、宅地の利用しやすさ等で決まる要因が地価の形成に大きく影響を及ぼしていると予想されるが、その他の居住環境形成要因(街並み・景観形成、緑環境等)も地価の形成に影響を及ぼしていると考えられる。
・このため、本調査においては、居住環境形成要素を幅広く考慮した上で、地価形成要因と考えられるデータにより地価関数を推定する。
・その上で、推定された地価関数を活用し、ミニ開発等による敷地細分化による居住環境価値が変化することに伴う地価単価の変化を計測することで、外部効果を分析することとする。
・この時、ミニ開発等による敷地細分化のため生じる居住環境の変化に伴う周辺宅地との乖離性による外部不経済に着目することから、分析に当たっては最寄り駅までの距離等の立地・利便性で決まる項目については主要な分析項目としないこととする。

《以上の前説の上で、既往の評価指標のなかから適用可能(数値化可能)な定量指標として挙げられているものには以下の項目がある。(リポート69頁)》
・地区面積に対する緑に覆われた面積の比率【緑被率】
・人口1人当たりの空地面積
・建築物の延べ面積に対する空地面積の比率
・有効空地率
・犯意者による犯罪行為の制御
・人と車の分離
・バリアフリー化への対応
・良好な日照・通風・採光条件の確保
・街並み・景観の統一
 他にも、指標の考え方・項目としては適用可能であるが評価方法は変更する必要ありとする多数の項目を挙げた上で検討が加えられている。
《さらに住宅敷地単位での性能評価手法の幾つかについて、こんな記述がある。(リポート82頁)》
・宅地規模の評価:「望ましい住宅床面積」÷「容積率(%)」=「敷地面積基準」
・宅地の接道長さ(旗竿敷地の場合等):駐車スペースを考慮し、接道長さ≧自動車の全幅+歩行上有効な空地の幅
・建て詰まり感の評価:D(前面道路幅員+壁面後退距離)/H(建物高さ)より道路幅員と建築物の規模・配置の関係性を評価
《その他様々な要因について説明し、さらに地価公示価格を基礎とする「レーダーチャート」を表示した上で、以下のように検討課題を述べている。(リポート140頁)》
 ミニ開発の評価指標については
①既往の評価指標との連携方法等
②広義の意味での住宅団地としての評価指標の拡充
③中古物件への評価の対応
《ミニ開発等による敷地細分化の外部効果の評価として、以下の結論を得ている。》

 世田谷区で分析を行った結果、敷地細分化の外部効果として、①エリア建蔽率(1%上がると2363円地価単価が高くなる)、②戸建エリア平均敷地面積(1 ㎡大きくなると171 円地価単価が高くなる)、③100 ㎡未満戸建宅地率(1%上がると768 円地価単価が安くなる)の3つの項目が有意に働いた。
・分析結果を用いて、世田谷区内で全28 宅地、個別敷地面積270 ㎡、エリア建蔽率45%の住宅地があり、この住宅地で宅地が90 ㎡に3 分割される細分化が3 宅地で発生したとしてモデルスタディを行った。
・その結果地価単価は、従前と比べ、24,711 円/㎡安くなるという結果となった。これは、本分析対象の地価公示の平均地価単価、567,752 円/㎡と比較すると、約4%地価単価が安くなるという結果となった。

 さて、以上に述べる本記事のほとんどは国交省リポートの抜粋引用であるが、読者各位はどのように読まれましたか、茫猿は全文をプリントアウトして、この連休中に睡眠薬代わりに読み込んでみようと考えています。 このリポートは、ミニ開発を抑制する誘導策としての評価指標作成であり、地価公示価格を基礎とするケーススタデイなのだが、リポートのなかでも市場データを基礎とすべきと何度も繰り返されているから、取引事例を基礎とする評価指標へと発展させたい意向も見える。
 この項については、リポート36頁:(1)対象地域及び地価データの確定に次のように説明されている。

・本調査において利用可能と考えられる地価データとして、「取引価格」、「地価公示」、相続税や固定資産税評価に用いられる「路線価」、情報誌等から得られる「供給者の提示額」等が考えられる。
・ヘドニック法では、理論的には「取引価格」のような実際の市場データを用いることが望ましいが、一般に公表されていない場合が多く、情報が十分な量を収集できない場合もある。
・そのため、本調査において「地価公示」を基本的なデータとして活用する。

 今日明日のうちに何かが変わるというのではないが、取引事例を選択し、事情補正、時点修正を施し、格差補正を行って試算結果を得るというスタイルに加えて、市場の多数のデータを基礎にして、時間軸及び平面軸分析を行った結果としてのベクトルを得たり、価格帯を得たりする手法も、そう遠くない時期に等閑(ナオザリ)にできなくなると思えるのです。
 茫猿が悉皆調査やREA-MAPがもたらすであろうと考える未来像の一つの姿が、このリポートにあると考えます。我々が関わっている宝の山ともいえる取引価格情報・悉皆調査結果をダイナミックに活用分析した、学術的成果を社会に還元してゆく一つの方向性が示されていると見るのです。
 我々鑑定業界も新しい分析手法に挑戦することにより、新しい評価ツールの獲得を目指さなければと思うのですが、いかがだろうか。 何よりも、国交省主導でこのような調査・分析が行われているにもかかわらず、そのプロジェクトチームに不動産評価の専門家が招かれていないことを訝しく思うのである。《センサー?》  深読みをすれば、招かれると取引価格情報・悉皆調査結果の援用も係わってくるから、敢えて避けたとも考えられる。 だとすれば、あまりにも近視眼的な考えだと思いますが、いかがでしょうか。《センス?》  積極的に新しい学術的成果を取り込んでゆくだけでなく、関連分野の学術研究にも積極的に参加し教えを請うてゆくという姿勢が大切だと考えるのです。《スピリット?》
【本記事は、書きかけ、校正未了】
【いつもの蛇足である。】
 本記事と先々号記事の廃墟鑑定士とは真逆に位置するように見える。ところが、逆もまた真なりであって、潮流のゆく方向の見定め、戦略と戦術、俯瞰と迎瞰、鳥観と虫観、森と木などと言われることと同様なのである。 廃墟鑑定士はいわゆるアソビにしか見えずして、その実、鑑定評価というものの深奥を指していると思えるのである。
 そんな折しも、長崎軍艦島が35年ぶりに一般開放されたのである。廃墟を観光スポットにという背景があるようだから、必ずしも全面肯定ではないが、廃墟を廃墟として社会のなかに位置づけてゆく懐の奥行きが問われているようにも思える。
 最近鉄道ファンのあいだで秘かなブームになっているのが「秘境駅」である。秘境といっても、温泉があるわけでも、景勝地であるわけでもない。 何もないのである。多くは山あいに位置し付近に人家無く、したがって売店も自販機すらない無人駅のことである。なかには駅に至る道路すら無い駅もある。車では近づけないのである。 茫猿の近くにある秘境駅は飯田線の小和田駅、大井川鉄道の尾盛駅などである。 秘境駅は撤去にも資金を要するから放置してあり各駅停車すら通過する列車もあるという、今や無用の用とでも云う存在である。 秘境駅や軍艦島がブームになるということは、社会が何かを暗示していると考えるのである。

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