残日録-易化する試験

本日の国交省記者発表資料によれば、平成16年に改正された不動産の鑑定評価に関する法律に基づき実施されている不動産鑑定士試験の難度が下げられるようである。

国交省発表資料によれば、「同法の改正後10年余りが経過し、近年における不動産鑑定士試験の実施状況や不動産鑑定士に対する社会的要請の変化などに鑑み、土地鑑定委員会では不動産鑑定士試験の改善に向けた検討を進めており、今般、実施面での改善についての方針を公表することとしました。」とある。

平成27年6月26日報道発表資料:土地鑑定委員会 《全文引用》

現行の不動産鑑定士試験制度は、不動産鑑定士の資質を確保しつつ、多様な人材が不動産の鑑定評価に関する業務の担い手となることを目的として、平成16年に改正された不動産の鑑定評価に関する法律に基づき実施されています。

同法の改正後10年余りが経過し、近年における不動産鑑定士試験の実施状況や不動産鑑定士に対する社会的要請の変化などに鑑み、土地鑑定委員会では不動産鑑定士試験の改善に向けた検討を進めており、今般、実施面での改善についての方針を公表することとしました。

具体的には、短答式試験及び論文式試験について、学生等の若年層の方や不動産分野での職務経験のない方にも積極的にチャレンジしてもらうため、そうした受験者でも基本的な知識・理論及びその応用能力を十分に身に付けていれば短期合格が可能となるよう、試験問題の見直しを行います。また、試験関連情報の公開について、受験者が必要な情報を容易に入手できるよう、これまで以上に充実を図っていきます。

「試験問題の見直しについて」《別紙1》
平成28年不動産鑑定士試験より、以下のとおり試験問題の見直しを行います。なお、民法・経済学・会計学については、さらに検討を進め、平成29年不動産鑑定士試験から必要な見直しを行う予定です。

1.短答式試験関係
【不動産に関する行政法規について】
・昨今の不動産市場を取りまく状況等を踏まえた重要性の観点から、現在出題対象としている法令の一部を出題対象から除外する。
【鑑定評価に関する理論について】
・ 不動産鑑定評価基準及び同運用上の留意事項(以下「鑑定評価基準等」という。)の理解度を問うことを主眼とするものとし、実務的な知識や実務経験を有さなければ解答が困難な問題(例:具体的な鑑定評価の場面を設定し、鑑定評価の各手順における実務上の取扱いや留意点を問う問題等)の出題数を現行よりも削減する。

2.論文式試験関係
【鑑定評価に関する理論(記述問題)について】
・ 鑑定評価基準等の理解度及び基本的な応用能力を問うことを主眼とするものとし、実務的な知識や実務経験を有さなければ解答が困難な問題(例:具体的な鑑定評価の場面を設定し、鑑定評価の各手順における実務上の取扱いや留意点を問う問題等)の出題数を現行よりも削減する。
【鑑定評価に関する理論(演習問題)について】
・ 鑑定評価の一連の手順をすべて経て、鑑定評価書を完成させる形態を廃止し、出題内容の重点化を図る。
・ 具体的には、対象不動産の最有効使用をどのように判定するか、鑑定評価手法の適用に際し、何故その手法が有効なのか、鑑定評価の各手法の適用過程において特に留意すべき点は何かなど、不動産鑑定評価基準等を踏まえた鑑定評価の中心的なプロセスを有機的に理解しているか否かを問うことを主眼とするものとする。
・鑑定評価手法の適用過程における計算量を現行よりも削減する。
《以上 引用終了》

平成28年試験から短答式試験においても論文式試験においても、実務的な知識や実務経験の有無を問われない出題に移行すると云うのである。平成29年試験からは民法・経済学・会計学についても見直す予定であると云う。明らかに試験の難度を下げる方向での改正と読み取れるものであるが、その背景は受験者数の減少にあると容易に推定できることから、近年の受験者数の推移を国交省・土地総合情報ライブラリーにて調べてみた。

(年次)(受験者数)(合格者数)(合格率)(平均年齢)
・H18  4,605名  1,160名   (25.1%)       (—–歳)
・H19  3,519名      846名   (24.0%)      ( —-歳)
・H20  3,002名    678名   (22.6%)      (34.7歳)
・H21  2,835名     752名   (26.5%)       (35.0歳)
・H22  2,600名    705名   (27.1%)       (35.8歳)
・H23  2,171名      601名   (27.7%)       (36.5歳)
・H24  2,003名    616名   (30.8%)       (36.7歳)
・H25  1,827名     532名   (29.1%)       (38.2歳)
・H26  1,527名     461名   (30.2%)       (39.3歳)
・H27  1,473名     451名   (30.6%)       (39.0歳)

調べた結果は予想はしていたが、これほどとはと驚くほどのものだった。受験者数は半減し、合格率と合格者平均年齢は大きく上昇しているのである。合格者の少子高齢化が進んでいるのである。国交省は鑑定士試験合格者数の減少が、将来的に地価公示の受託希望者減少となり、結果として公示制度の崩壊につながることを懸念しているのではなかろうか。

志願者数の減少は即ち、人材の払底につながるものであろうが、同時に社会における業務需要の減少を反映するものなのであり、人気の低下なのであろう。 地価公示を維持する評価員の確保と云う面からは、不動産鑑定士の年齢構成の偏りが懸念されている。国交省発表資料によれば、《H24.03現在で》六十歳代前半が各年次250名前後と厚いのに比較して、五十歳代及び四十歳代は150名未満である。この厚い年齢層がリタイアする数年後における評価員確保が懸念されている。

 

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