産経新聞の危うさ

2020/01/18(土) 7:55配信・産経新聞デジタルによれば、「四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)に対して広島高裁が17日に出した運転差し止め決定」は、原子力規制委員会による科学的知見に基づいた安全審査を3人の裁判官が『阿蘇山の大規模噴火リスク』評価を覆したものだと報道する。

見出しは「原発稼働に再燃する司法リスク 伊方3号機再び停止へ差し止め仮処分 安定運転・新増設、九州に波及も」と伝える。

伊方原発が面する愛媛県の細長い佐田岬半島北側には国内最大規模の活断層、中央構造線断層帯が通る。「それだけに四電はさまざまな調査、研究を重ねてきた。審理で四電は、断層帯の評価に携わった専門家による「佐田岬半島沿岸地下浅部に活断層はないといえる」との見解も高裁に提出した。」と産経は報じる。

続けて産経はこのように断じる。
「電力各社は、保有する原発が新規制基準に適合させられるよう膨大なコストと時間をかけて、科学的な知見を積み上げ、規制委の審査に備える。規制委も各分野の専門家として厳しくチェックし、それをクリアしたものだけが稼働できる。

阿蘇山が営業エリアに位置し、原発再稼働でトップランナーを走る九州電力は、原発計4基に1兆円規模の安全対策費を投じた。それも新規制基準に適合すれば、安定運転が見込める前提があっての投資だ。

 「もともと規制委は、厳しく審査している。テロ対策の「特定重大事故等対処施設」の設置時期をめぐっては、未完成の原発を停止させる「予想外の決定」(九電幹部)を下した。」と産経は報じる。

 しかし、電力会社や規制委といった専門家間で積み上げた議論をちゃぶ台返しするような司法は、それ以上に予測不可能な『司法リスク』といえる。九電は、川内原発(鹿児島県薩摩川内市)で2件、玄海原発(佐賀県玄海町)で3件、同種の訴訟を抱える。

 今回の決定に影響されドミノ的に原発が止まるような事態に陥れば、まずは電力の安定供給に影響が及ぶ。さらに、新増設議論にも二の足を踏まざるを得ない。それらは結果的に家庭生活や経済活動への深刻なダメージとして跳ね返る。

こ気味良いくらいに、原発稼働は賛成、反対は経済への深刻なダメージを明からさまに標榜する産経ならではの論旨展開である。しかしながら高裁の意に沿わない仮処分を『司法リスク』と切り捨てる司法無視は「三権の長」を自認する安倍晋三氏の提灯持ち新聞だけのことはあるが、今や自民党機関紙どころか”日本会議”機関紙と化したようである。

原発再稼働賛成派が再稼働にのめり込むのは、電力の安定供給対策などではなく、投下資本が回収できないリスク回避であり、廃棄原発の取り壊し費用も、使用済み核燃料の処理処分も、さらには全ての原子力村関連が宙に浮くからである。

原発を止めたら”全ての原子力村関連事業が倒れる”から止まれない、それだけのことである。原発を継続させれば残される災害リスク、いや福島原発事故のような過酷事故リスクへの備えには目をつぶろうと云うのである。

産経新聞は近年の原発訴訟で運転停止を命じる決定が定年退職が近い裁判長から出される傾向は偶然かと懸念する。しかしこうも言える。定年間際の裁判官であればこそ、最高裁事務局にも司法行政にも時の為政者にも忖度すること無く阿ることも無く、判決書が書ける。そんな司法の現状こそが「本当の司法リスク」なのではなかろうか。

数千年に一回程度の災害(三陸大津波、阿蘇山噴火、富士山噴火)などは、我々世代が生きているこの数十年間には起きないだろうと云う、根拠無き過信、盲信から危うい吊橋を渡っているに過ぎない。

25年前を思い出す。神戸震災の後で神戸方面への進学を決めた長男は、案じる祖母に向かってこう言い放った。大地震が一度起きれば、次百年は起きないよオバアチャン、だから安全だよ。

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